30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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大切な存在

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 その時の自分がどんな顔をしていたのかは分からない。でも俺は本当に情けない顔をしていたと思う。開いた口が塞がらないという言葉はそのまま俺に当てはまった。



 「樹、口開いてる」



 「え?ああ」



 今、俺はプロポーズされたんだよな?ガンちゃんに。
 プロポーズをした本人は先ほどと全く変わらない様子で缶ビールに口をつけている。



 
 「ガンちゃん、酔ってる?」




 「酔ってない」



 
 彼は酒に強いはずだ。缶ビール2本で酔うはずがない。でもこの今の状況を彼が酔っていることにしたかった。




 「俺は酔ってもいないし冗談を言っているわけでもない。俺はお前と結婚したい」




 「いや、おかしいだろ。俺たち親友だろ?」




 ガンちゃんはしっかりと俺を見据えて口を開いた。




 「ああ。そうだな。俺たちは親友だ。親友でもいいと思っていた。お前のそばに居られるなら。でもそれじゃもう我慢できなくなっているんだ。お前の特別になりたい」




 「さっきから何言ってるか全然わかんないよ」




 ガンちゃんにしては珍しく要領を得ない会話に俺は困惑した。




 「俺は樹が好きだ」



 今度こそ俺は言葉をなくした。何も言えなくなった。
 ガンちゃんが俺を好き?信じられない。




 「ずっとお前のことが好きだった」



 「ガンちゃん、俺…」



 恋愛は嫌いだ。よく友情よりも恋愛が大切だなんて言うけれど俺はそうは思わない。何か一つのきっかけで全て壊れてしまうかもしれない恋愛よりも俺は波風のない穏やかな友情を大切にしたい。



 
 「分かってる。お前が恋愛とか結婚が嫌いなのも。でも俺はお前の特別になりたい」



 ガンちゃんの熱い視線が本気だと証明している。ガンちゃんは俺の特別になりたいという。でも俺にとってガンちゃんは特別だ。ガンちゃんの言っている特別とは意味が違うかもしれないが。
 
 俺はガンちゃんとは恋人になりたくない。だってーー





 「怖いか?」




 「え?」




 「お前が恋をしたくないのはその先の別れを想像して怖いからだろ」




 俺はガンちゃんと目を合わせられなかった。俺のことを全てわかったようなその目が今は怖い。
 全部本当だった。好きだと告げられて初めて抱いたのは恐怖だった。これまでのようにガンちゃんと一緒にいられないかもしれないと思ったら怖くて寂しかった。だから友人でいたいのだ。




 「悪い。気に障ったなら謝る。でもお前は俺と離れるのが怖いんだろ。だから俺とそういう関係になるのが嫌なんだろ。じゃあ、俺にもまだ希望はあるな?」



 「え?」



 彼の顔を見る。俺は目を見開いた。ガンちゃんがすごく優しい顔をしていたから。眉尻を優しく曲げて俺を見ている。
 ああ、本当に俺のこと好きなんだな。そう実感する笑みだった。



 「俺のこと嫌いか?」




 「き、嫌いじゃない。けど…」




 「今は俺のことなんとも思ってなくていい。でもこれから俺のこと見ててほしい。惚れさせるから」




 「!?」



 惚れさせる?ガンちゃんの突飛な発言に俺は顔を赤らめた。


 テーブルの上にある俺の手をガンちゃんがとる。硬くて大きな手が俺の手を包む。
 こんなまっすぐな想いを向けられたことなんてなくてどうしたらいいのかわからない。
 でもガンちゃんと離れるのは嫌だ。この時間を失うなんて考えられない。



 「わかったから。ちゃんと考える…」



 俺はテーブルの木目を見つめながらつぶやいた。




 「樹」



 ガンちゃんの声で顔を上げる。


 
 本当に一瞬ことだった。ガンちゃんの顔が近づく。俺の頬に唇が触れる。そしてすぐに離れた。




 「好きだ」



 近い距離で見るガンちゃんは寂しそうに笑った。切なさと愛しさが混じったような笑顔で見つめられる。
 自分の鼓動が早まる。顔の中心に熱が集まるのがわかった。
 それを見て今度こそガンちゃんは口を開けて笑った。
 

 ガンちゃんの笑顔に俺は黙った。胸がいっぱいになって苦しくなって何も言えなかったのだ。

 


 



 
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