134 / 215
第3章 リンデン王国編
第134話 そんなもの
しおりを挟む「せ、聖……属性?」
「いわゆるポーションや回復術などに代表される魔力の属称です。しかし聖属性は、我々竜族やモンスターに類する者たちにとって最も遠い属性です。蜂どもの巣から得られる蜜に、間違っても付与されるものではございません」
インフが持つ瓶を覗き込むも、僕にはその片鱗すら窺えず、匂いを嗅いでも、味を確かめてみても、サッパリ違いは感じられない。
「それにこの蜜、どこか優しくて懐かしい香りがいたします。…………あれ?」
そう言うとインフは僕の顔をまじまじと見つめながら、何故か恥ずかしそうにはにかんだ。
そして何かを思い出すかのように僕の手を取った。
「そうです主様。わらわと初めてお会いしたあの時でございます!」
「初めてって言うと、…………僕が空から降ってきた、あの時……?」
「そうでございます! あの時、わらわを打ち倒した主様は、このように無様で情けのないわらわのことを、慈悲深く愛情をもって助けてくださいましたよね? この蜜からは、あの時と同じ匂いがするのです!」
僕は自分の記憶を辿り、インフと初めて会った時のことを思い出してみた。
誰かの手によって天高くから落とされた僕は、インフの住んでいたお城に意図せず接近してしまい、神竜である彼女自身が僕を迎え撃つ形となった。結果、僕は『大落下』の効果によって彼女をノックアウトしてしまい、彼女は自分自身を打ち破った僕のことを主と認め(?)、主従関係となってしまった。
その際、『落下による衝撃+彼女自身が放った最強魔法』を何倍もの威力にして跳ね返してしまい、瀕死のダメージを負った彼女は、何も知らない僕の前で意識を失い倒れていた。ダメージは僕の目から見ても明らかで、そこで死んでいてもなんらおかしくはなかった。けど……
「そうだよ、確かにあの時どうしてインフは助かったんだろう。僕は回復魔法どころか、ポーションすら持ってなかったのに……」
その後のことは思い出すのも苦痛ばかりで、完全回復して絶好調になったインフに飛び回られ、酷い目にあったことを覚えている。だけど思い返せば、あれっておかしくないか?
どうしてインフは元気になったんだ!?
そんな僕を尻目に、どこか愛おしいことでも思い出すかのように、遠い目をしながら彼女は言った。
「…………涙」
「え……?」
「あの時、主様はわらわのために涙を流してくださいました。このような情けないわらわ如きのために、主様は御慈悲の涙をわらわにくださったのです」
「涙って、そんな、僕の涙なんか」
彼女は僕の頬にふれながら、「あれは確かに主様の慈悲心だったことにほかなりません」と付け加え、そこになんらかの理由があるのではと伝えてくれた。しかしさすがにそんな彼女の私感を鵜呑みにするわけにいかず首を振る。それでも諦めないインフは、パチンと指を鳴らし、僕に軽い催眠魔法をかけて意図的に欠伸を誘発した。
「ちょ、インフ、なにするのさ!? って、ふぁ~~あ」
思わずマヌケ顔で欠伸をしてしまう。インフは僕の目に滲んだ涙を拭いながら、それを今回の蜜に含ませた。しかしどうやら変化はみられない。
「ほら、そんなわけないでしょ。僕の涙なんかにそんな凄い効果があるなら誰も苦労しないよ」
しかし頬をぷぅっと膨らませ、インフはそれでも諦めず「主様、あの力を使ってくださいませ!」と迫った。
「あの力って?」
「何人たりとも寄せ付けぬ、あのお力でございます。お早く!」
僕は言われるまま魔力防御低下を使用し、『大落下』を発動させた。しかしこの状態になると全ての状態異常が発生しなくなるため、インフの催眠魔法が効かなくなってしまった。僕は仕方なく半ば強制的に欠伸をひりだし、強引に涙をひり出した。
「出ましたわ! こちらを蜜に組み合わせれば……」
すると驚くことに、先程と異なりほんの微かに蜜の瓶が輝いた。そんなバカなと目を丸くしている僕を尻目に、蜜を一滴垂らしたインフは、ペロリとそれを味見した。
「あ、あ、あぁぁぁあん、んふぅぅんんん……うんッあ、ぁぁん❤」
なんでしょう……
彼女が恍惚とした表情で余韻に浸っています
なんだか少しイヤラしい気分になってしまうのですが……
「これ、これです、これでございます! 恐ろしいほどに甘美で芳醇な香りがわらわのお口の中に広がって、これはもう言葉にすることができません! 嗚呼、幸せですわ、もう一口♪」
結局小瓶の中身を全て平らげ、我に返って口をハンカチで拭き取ったインフは、恥ずかしそうに俯きながら、「間違いございません」と確信を持って断言した。
「間違いなく全ての理由はココにございます。これだけ凝縮した魔力の結晶を、わらわはこれまで一度たりとも口にしたことがございません!」
「え? ココ? ココって『僕の涙』ってこと? そんなものに、そんな効果が?」
「間違いございません。きっとこれが今回の原因ですわ。そうに決まっています!」
うんうんと必死に頷く彼女が、とても嬉しそうに僕を見つめている。
ですがどうにも腑に落ちず、う~んと口を尖らせて反論する。
「悪いけど、それは違うんじゃないかなぁ。だってさ、僕が蜜を持ち帰ったとき、涙なんか流した覚えがないし、そもそもわざわざ入れたりしないよ」
ふふふんと何かピンときた様子のインフは、僕に『大落下』を発動させたまま町を何周かランニングしてくださいと依頼した。突然走らされることになった僕は、肩にインフを座らせたまま、お尻を叩かれながら必死の形相で町の外周を走り回った。
「ダハァ! ハァハァハァ、こ、これでいいの……?」
「ハイッ、大丈夫です!」
そう言うと、彼女は僕の頬に伝った汗の一雫を魔力で分離させ、露店で購入した他国産の蜜にそれを沈めてみせた。すると蜜は僅かな光を放ち、小さな変化をみせた。
「やっぱりそうですわ。原因は、『主様の汗』です!」
10
あなたにおすすめの小説
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる