逃げ出した先は異世界!二度目の人生は愛と平穏を望む

絆結

文字の大きさ
30 / 60

27.目を向けてはいけないもの ※リアム視点

しおりを挟む
     リアム視点のお話です
────────────────────
昼食を共にした時のルイーズ嬢の顔色の悪さが気になり、そろそろ終わる頃だろうかと彼女の部屋へと足を向ける。
けれど、着いて見ればそこに彼女の姿はなく、すれ違った使用人に訊いてみれば、庭園の方へ向かったのを見かけたと言うので、私も庭園へと足を向けた。

屋敷から庭園へ出て、少し歩けばすぐに人影が見える。
椅子に腰かけるルイーズ嬢と、その前に跪いているのはケネス…か?

「ケネス?…ルイーズ嬢?」

近づくにつれはっきりと見て取れる状況は、どう見ても普通の状況に見えない。
ぐったりとした様子のルイーズ嬢と、様子を窺うように跪いているケネスに、私は「何があった!?」と声をあげ慌てて2人に駆け寄った。

私の剣幕に圧されたのか「すみません…。少し気分が悪くなって…」と絞り出すようにルイーズ嬢が答える。
覗き込めば酷い顔色をしている。
私は思わずケネスに「医師を!」と声を荒げたが、彼女はそれを止めるように頭を振った。

「大丈夫です。もうしばらくこうしていれば…」
「しかし…」

彼女の言葉に私は食い下がるが、彼女は再度頭を振る。

「分かりました。ケネス、ジーンに水を持ってくるように伝えてくれ。それとジェイク殿に連絡を」
仕方なく私はケネスに指示を出し、立ち上がった彼に代ってルイーズ嬢の前に跪いた。

酷く辛そうにしながらも椅子の上で体制を整え、彼女は私に向かって小さく頭を下げる。
「申し訳ありません。屋敷内ではそれなりの態度をと仰られていたのに…」
そんな彼女の言葉に、私は驚きと同時に胸が痛んだ。

私がどうしても彼女を傍に置きたいと望んだせいで、彼女に酷く負担をかけてしまっているのに、何故彼女が謝るのか。
午前の様子を見ただけでも、彼女にとってこの仕事がどれほど酷なことだったのかと思っていたのに、申し訳ない気持ちになって私は慌てて彼女の謝罪を止める。
「なにを仰るのですか。元はと言えば私が無理なお願いをしたせいでこのように体調を崩されたのでしょう。ルイーズ嬢に謝っていただくようなことは何もありません」

儚げな彼女が今にも崩れ落ちそうで、手を取り、抱き寄せたい衝動に駆られて、彼女の手にそっと手を伸ばす。
その瞬間に、ビクリと震えるように彼女に手を引かれてしまった。

「ぁ…。申し訳ありません」

自身の行動に少し驚いたように、申し訳なさそうに彼女が小さく呟く。
まるで下心でも見抜かれたような気分になり、私は苦笑を浮かべ伸ばした手を引いた。
「いえ。私こそ申し訳ありません。弱っている女性にむやみに触れるものではありませんね」

タイミングよくジーンが水を運んで来て、その後すぐにケネスも戻ってきた。
ケネスの報告を聞いて、ジーンが気をまわして馬車の手配に行くとルイーズ嬢はまた申し訳なさそうに目を伏せる。
「ここまで負担をかけると思わず、申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ沢山の方にご迷惑をおかけしてしまって…」
気負わせてしまっていることが申し訳なくて声をかけるが、更に彼女に謝罪をされてしまい、余計に申し訳なくなる。
「リアム様。ジェイクが到着するまで私がルイーズ嬢についていますので、リアム様は屋敷へお戻りください」
この悪循環に呆れたのだろうケネスに促され、私は「そうだな」と言って、仕方なくその場から立ち上がった。

「ルイーズ嬢、無理をさせて申し訳ありませんでした。せめてこの後はゆっくり休んでください」

彼女を見下ろし言葉をかけ「それでは私はこれで失礼します」と彼女に背を向けた瞬間「ルイーズ!」と彼女を呼ぶ声が屋敷の方からとんできた。

勢いよく駆けてきたジェイクがすれ違いざま申し訳程度に一礼し、すぐまた彼女の元へと駆ける。
「ルイーズ大丈夫か!?」

私の横を通り過ぎていった彼を目で追い振り向くと、彼はルーズ嬢の前に跪き、彼女の手を取り顔を覗き込んでいた。
そしてルイーズ嬢はそんな彼の手を握り返し、一気に力が抜けたような安心しきった表情を見せる。
私は勢いよく踵を返し屋敷への道を急いだ。

急ぎ屋敷へ戻る私を追うように、モヤモヤとした気持ちがせり上がってくる。

気付いてはならない。
目を向けてはならない感情だと知っている。


屋敷の手前まで来た時、ふと木陰に人の気配を感じ立ち止まると、ルイーズ嬢たちのいる方向をじっと見つめていたグレイスと目が合った。
彼女が今抱いている感情が手に取るように分かる。
グレイスと同じ表情を私もしているのだろう。

ふいっと視線を逸らし、私はグレイスに言葉をかけることなく屋敷へと戻った。





執務室に戻り、机に置かれた面談予定者の書類を捲る。
なるべく早く済ませてしまおうと詰め込んでいた、日程調整の書類に訂正書きを入れていく。

訂正書きを入れた書類を横に置くと、使用人に声をかけ、イアンに今まで溜め込んでいた釣書を持ってこさせる。

「リアム様。お持ちしました」

いつも通り静かに仕事をキッチリこなすイアンから釣書を受け取ると、それを捲りながら口を開く。
「イアン、明日から暫くの間、ジーンの代わりに常に私の傍で控えていてくれ」

そう言うと、イアンは訝しむこともなく「かしこまりました」と頭を下げた。
それを横目に、見るともなしに釣書を捲りながら、手だけでイアンに退室を指示すると、彼は静かに部屋を出ていった。


これで少しはルイーズ嬢の負担を減らせる。
明日もまた同じように詰め込んで、倒れられては困る。
彼女の身の回りに気を配らせる為にジーンを配置しておけば、彼女も少しは安心できるだろう。

手元で釣書を意味もなく捲り続ける。

明日は王宮へ行って、終了が少し遅れることを伝えてこよう。
ついでにイアンを紹介して、今後の彼の動きが変わらないかも見てみよう。
だとすれば、一緒に連れて行くのはケネスがいいか。

私は机に両肘をつき手を組み口元にあて、目を閉じた。

ふた月後には王宮でパーティーが開かれる。
それまでに計画を進めないといけない。
用意しないといけないことも沢山ある。

目を開くと釣書を横に放り、別の書類を引っ張り出す。
当分の間考えないことだ、と自分に言い聞かせ、私は仕事へと取り掛かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...