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「ねぇ、隣いい?」
他にもチラホラと席が空いているにも関わらず僕の隣に座ってきたのは、学内で有名な少年、山見岬だ。僕は特に断る理由もなかったので頷いた。
「ありがとう」そう言って岬は隣へと座った。
山見岬は長髪で、よくハーフアップをしている。普段はシンプルな服装だが、耳に沢山のピアスをあけていていかにもクラブやらで遊んでいる様な人達といつもいる。講義の時はメガネをして真面目に講義を聞いている。なぜあんな奴らといるのか不思議だ。
「なに?なにかついてる?」
「あ、いや、別に」
「そ?」
目が合ってしまい不自然に目を逸らしてしまった。そんなことを気にもせずに岬は黒板の字を写し始めた。僕も講義に集中しようとノートを取り始めた。
講義が終わり、席を立とうとした時岬に声をかけられた。
「ねぇ、君次も講義?」
「いや、今日はこれで終わりだけど」
「なら、一緒にご飯でもどう?」
「え、」
「さっき、講義のメモ取り忘れたところがあってさ、」
(あーね、そう言うことか)
「これ、貸すよ今度返してくれればいいから」
「え、いや、でも迷惑だしすぐだから」
「別にいいのに」
「なら、ご飯奢るから」
なんでここまでして引き下がらないのか分からなかったがどうせ帰るだけだし奢ってもらえると思い渋々了承した。
「わかった」

僕達は近くのファミレスへと向かった。僕は通路側に座り岬は窓側に座った。
「はいこれ」
「ありがとう」
僕は飲み物を飲みながらノートパソコンで趣味の創作小説を書き始めた。岬は僕のノートを写していた。小説のセリフを悩んでいると岬が声をかけてきた。
「飯沼君?ってさ小説書いてるよね」
ドキッとした。なんでそれを知っているのか、誰にも言っていないはずなのに、唐突に言われて冷や汗が止まらなかった。
「え、なんで?」
「君が小説書いてるのたまたま見ちゃったから。あとこれ、ノートありがとう」
ノートを受け取り、否定する理由を考えたが、否定するのも面倒だったので正直に言った。
「あぁ、書いてるよ」
「俺さ小説好きなんだよね」
「そうなの?」
拍子抜けした。正直見た目で判断していた僕は嘘をついているようにしか見えなかった。
「好きな小説ある?」
「鈴木蒼さんの『黄昏の少年』とか、光夏さんの『僕とあなたの賞味期限の恋』とか好きかな」
うん、間違いない。小説好きだ。この作品はとてもマイナー。僕の好きな作品でもあった。
「疑ってたでしょ?」
「すいません。」
「いいよ、こんな見た目してるし、よく言われる意外だね、って」
「確かに意外」
岬はあまりにも真っ直ぐに言われ笑っていた。
「それで、飯沼君の小説見てみたいんだけど」
「僕の名前、ってかなんで急に。見せれるもんでもないしこれは趣味で書いてるものだし、」
「はぁ、疑われて俺悲しかったな~(棒読み)」
「?!」
「傷ついちゃったな~(棒読み)」
「ど、どうしたら、」
「君の小説僕に読ませてよ。少しづつでも、」
「・・・わかった」
「やったね、ならこれから講義終わりにファミレスとかカフェでも言って俺に小説見せて。」
「でも僕にメリットある?」
「ん~なら、俺のこと知ってよ」
「君の事なら知ってるよ。山見岬、大学2年生趣味は小説読むこと、それから・・・」
「君は本当の俺を知らないね」
微笑んでいるがどこか寂しそうな姿に目を奪われた。
「本当の君?」
先程の表情は見間違いかのようないつも通りの笑顔を見せた岬は拒否させる間もなく言った。
「これからよろしくね飯沼君」
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