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僕は岬と連絡先を交換した。
別に岬が僕と一緒にいることはなく、同じ講義の毎週金曜日。金曜日にご飯を食べながら小説を見せる時だけ、岬は僕と会って話をする。ただ、それだけの関係だ。お互い深い干渉はしない。僕はそれが少しほっとしたようで少し寂しかった。
あの日から約3ヶ月が経とうとしていた。僕は次第に金曜日が近づくにつれてそわそわするようになった。
金曜日、僕達の会話は挨拶から始まる。
「おはよう」
「おはよう」
岬は挨拶をかわすと当たり前のように隣の席へと座るようになった。隣同士で講義を受け、終わるとファミレスへと向かった。僕はご飯を食べながら小説を見る岬を眺める。岬はとても集中して僕の小説を読んでいた。
「今日もありがとう」
「いえいえ、こちらこそ僕の小説なんかを見てくれてありがたいよ」
「飯沼君の小説はね、面白いから」
「恋愛モノなのに?」
「うん」
そう言いながら岬は飲み物を口にした。
不意に見えたピアスが僕の目を釘付けにした。
「舌ピだ・・・」
「ん?あぁいいでしょ」
「痛くないの?」
「全然、もっと痛いもの経験しちゃったからね」
またどこか悲しい顔をする姿を見て僕は無意識に彼の頭を撫でた
「山見君はいつも偉いね」
岬は目を見開いて硬直していたが次第に体のこわばりが溶けていった。困った顔をして笑った。
「ごめんね・・・(ボソッ)」
「ん?何か言った?」
「いや、俺のことそろそろ下の名前で呼んでくれないのかなって」
「え、いや、でも」
「なんで困ってるのさ、俺仲良くなれてると思ったんだけどな」
「岬・・・君」
「なんだい」
「君が名前で呼んでって言ったんだろ?」
「そうだね」
頬杖をつけながらニコニコする岬はとても愛らしかった。
「ねぇ岬君、」
「なんだい?」
「今度、映画を見に行かない?」
「映画?」
「あの、光夏さんの『僕とあなたの賞味期限の恋』が映画やるんだよ」
「本当に?!」
「うん、だからもし良けれはなんだけど」
断られるのが怖くて僕は岬の目を見て言えなかった。少しの沈黙の後岬が返事をした。
「いいよ、行こ」
僕は顔を上げた。僕は岬と目が合った。彼の表情は初めて見る顔で、そして僕の心をかき乱した。
「あ、こんな時間だ。そろそろ行こうか、」
会計を済ませ僕達は店を出た。別れ際、岬が手を振りながら「また空いてる日連絡するね」そう言って帰って行った。僕は手を振り返し姿が見えなくなった途端全力で走って家へと帰った。その日、僕は新しい小説を朝日が昇る頃まで描き続けた。
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