ウィルビウス〜元勇者パーティに拾われて裏ボス兼勇者に至った私と、元凶である悪役令嬢の元彼女を含めた絶対破壊の交響曲!?

奈歩梨

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幼少期編

第21話〜曙の勇者と先代大魔王〜

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 結論から言って、私の予想の斜め上の事態になっていた。

 あれから私は、無茶な魔法の使い方をした為丸一日宿ではなく教皇猊下の厚意の元、教会が保有している屋敷の一つに半ば匿われる形で昏睡していたらしく、その間エリス姉さんとアリシアが食事も摂らず付きっきりで看病をしていてくれたらしい。

 …正直に言うと、それは嬉しくもあり同時に申し訳なさを感じていたのだが……


「…邪魔、あっち行って」
「いや、ユウキはボクを護った所為で倒れたんだ…ボクが彼の看病をするのは当然の義務だよ。君こそご飯を食べてきなよ、さっきからお腹の音がうるさいし」


 うん、はっきり言おう

 煩いのはお腹の音じゃなくて君達の口論だよ?


 治癒魔法を掛けて貰い、傷は何とか塞がってきたが左腕と右脚は骨が折れていたらしく微妙に違和感を感じる、まぁ、前世でも格闘技を幾つかしていた手前骨折程度なら何回か経験はしているから解る感覚ではあるが、体感的には明日明後日には完治しているだろう。

 頭上で口論がエスカレートするのを聞いていたがそろそろ止めねば、と上体を起こし掛けると金の髪が陽の光を連想させるエルフ耳の女性と長い紫の髪が夜を連想させる女性、そしてソフィア母上が入ってきた。


「こうして直接お話するのは初めてですね。初めまして、御気分は如何ですか…?私はイレーナ、此方の女性はファラ…一昨日貴方と剣を交えた黒騎士…と言えばよろしいでしょうか」

 祭服に身を包んでいなかったから一瞬解らなかったが教皇猊下は私の体調を気にかけてくれながらも、隣で腕を組みながらアリシアと私を見つめるファラ陛下を紹介してくる。
 事情を知らない様子のエリスは不思議そうに小首を傾げ、アリシアはあの夜の出来事を思い出してか身体を震わせている…

「ぁ…」

「教皇猊下、並びにファラ陛下。斯様な姿で申し訳ありません。この度は厚意に甘えさせて頂き、感謝の言葉も御座いません。───然しながら、剣を交えはしましたがあれは真剣を用いた練習試合でしかありません。…ですよね?陛下」

 震えるアリシアの手をそっと握り、エリスにも事情を多少歪曲しながらあの日、私が倒れたのは練習試合のせい。
 誰の命も危険に晒される事など無かったのだ、と、ファラ陛下を見つめ返し問い掛ければ、陛下は多少面を食らったように瞳を見開くも直ぐに口許を緩める。

「……そうだな、貴様がそう思うのであれば、そうなのだろう。
…だが、貴様が放ったあの魔法、あの魔法は直ぐに魔法協会に登録しておけ。4種類以上の魔法を組み合わせる太陽を創りし魔法…その力を狙う不届き者からその叡智を護る為にな」

「…正確にはあの時使用したのは4種類では無いのです、土属性の上位である重力魔法と水属性の初級魔法で空気中の水分を水素とガスに変換し、周囲に余計な影響を与えない様に空属性の魔法で重力場を球体状に形を整えコーティング、更に闇属性の虚数魔法で対象に直撃する迄外界には影響を及ばせないようにしつつ対象に接触した瞬間虚数魔法は解除するように設定した後重力場の中心を加圧させる。
加圧の工程の最中に火属性の熱操作で温度を上げつつ、時魔法で内部温度を飛躍的に上昇させ形にしました。…時間差で撃てるように時魔法は二重呪文を掛けましたが」

 時間と周囲の影響を考慮しなければ3種類で済むが、それは自爆以外の何ものでもない、6種類の魔法とその内の一種類は異なる用途に用いた二重呪文を使用したと口にすると母上を始め教皇猊下、ファラ陛下の表情は驚愕と困惑の色に固まる。

「…前から知ってはいたけど改めて聞くととんでもないわね…3種類でアークウィザード級だというのに、6種類……しかもその一種類を二重呪文だなんて…」

「……果てなき研鑽の成果ですわね、…教皇領が…いえ、この大陸全体が消滅しなくて本当に良かったですわ…」

「…あの時、確か無詠唱だったな…つまり術式の制御と魔力の容量だけでいえばS級…否、単純な殲滅力でいえば既存の…末恐ろしいな」


 思い思いに口にする言葉に改めて、この魔法の危険度を思い知る。


「…魔法協会への登録の件、私からもよろしくお願い致します。元々将来はあの魔法を用いた技術を発展したかったですし、今の内に後ろ盾があれば後々動き易いですから」

「……良いんだな?協会に席を置くという事は研究という形にしろ決戦魔法士という形にしろ、人をころ「殺さない為に、です」…ほう、ならこの場で書類にサインしろ、S級魔法士として認証されるにはS級魔法士5名以上の同意を得るのが習わしだ。…賢王ソフィア、剣王レオニダス、鍛治職人テラ、教皇イレーナ……そして私が認めてやる」

 三大国家の抑止力として10年以上前に設立された魔法士協会、その実態は世界をより良くする為に世界にとって不都合な不穏分子を排除する汚れ役も担っている。
 これは過去に父上達が終結へと導いた大戦の反省点を活かし過去の大戦の根底であるしがらみとして存在していた古い組織を取り壊し、新たな組織として設立した背景もある為でもある……まぁ、組織の内容を現代社会風に平たく言ってしまえば、国際刑事警察機構(インターポール)と化学全般の研究組織を少し活動内容を過激なものにして一纏めにしたもの、とでも言おうか。肉体労働もあるし、組織の運営資金は三大国家が各々均等になるように出しているという話だし。

 研究施設と聞いてNASA?と思うかもしれないが、あそこはアメリカ航空宇宙局という宇宙科学や地球観測、航空等を研究する場であるから根底に根付くものとしては性質が異なる。

 昔取った杵柄的には生前、一度は見学はしてみたかったが。

 閑話休題。

----------------


 書類に一通り目を通し幸い無事だった利き手でサインをしそれをファラ陛下に渡すと子犬のようにじゃれてくるエリスと、それを引き剥がそうとするアリシアに苦笑しつつも陛下の話に耳を傾ける。


「詳しい詳細は後日書類を送る。取り敢えず、これから貴様にはヘリオスの二つ名が与えられるだろう。何せ使用する魔法が太陽だからな。」


 ヘリオス、ね…太陽神とは恐れ多い気もするが…

 一足先にと部屋を出ようとする陛下が脚を止めると顔だけを此方に向け信じ難い科白を口にした


「───あぁ、言い忘れていた。…明日の昼に貴様の曙の勇者としての就任式も行うからな」


 はい…?

「ちょ、ちょっと待って下さい!勇者とは本来神々をその身に降ろす力に目覚めた者が名乗る事を許されるものだった筈では?」

「…確かにな、だが勇者を名乗るもう一つの資格を教えてやろう。

───大魔王本人に“御前にならば、殺されても良い”と思わせる事だ。…少なくとも、私の時はそうだった」

 慌てふためく私に対し陛下、否…大魔王は不敵に笑うとそのまま部屋を出て行ってしまった。


「あらあら…うふふ、相当気に入られてしまいましたわね?」

「本当にね、寧ろ彼女の言った資格は大昔に形骸化したものだけど……ユウキの母親としては少し先行きが不安になるわ…」


 頭の中で様々な情報が飛び交う中、イレーナ猊下と母上がファラ陛下に追従する形で部屋を出ていく事にすら気付けないでいた。

(…私は勇者にはなれない、と伝えたはずだよな…?)

 正直に言うとあの時は腕と脚が折れていた事すら気付かずに無我夢中だったから伝えられていたかすら覚えていない。
 思いがけず手に入れた魔法士として最高峰であるS級ランクの階級と勇者の称号に眩暈を覚えながらも、ふと先程迄私にしがみついていたエリスは小難しい話等知らん、とばかりに鼻ちょうちんが出来るのでは?と少し心配になる程に爆睡し始め、エリスを引き剥がそうとしていたアリシアが微笑んでいるのに気付いた。


「……そっか、ユウキも勇者なんだ…えへへ…」

「…うん、一応そういう事らしい」

 も、という事は恐らくアリシアも、勇者という責務を背負ったのだろう。
 そう考えれば、初めて父上と母上の名前を出した時に逃げるように背を向けたのも一応の理由は付く。

 無論、アリシアの母君である女王アレクシアの真意は掴めないが。


「…アリシア、これから先、何か起きた時は私が君を護るよ。約束する」

「っ…ありがと…私の勇者さま……」

 女王陛下の真意は掴めない、だがそれ以前にひとりぼっちのアリシアを放置するという選択は私が目指した道の先には存在しないし、何よりこれから先多くの人に出逢うだろうがこの眼に映り、この腕が届くならば全てを護り通そう…。


 贖罪だけでなく、それが私を認めてくれた人達に対する応え方だから。



----------------

 流れで勇者の就任式を始める事になったが、元々は慰霊祭なんだ、正装に着替えておけよ?

 と、ファラ陛下に渡された黒いスーツに身を包むも彼女は一体何時私の身長や胸囲、座高等を調べたのだろうか…斯様な取り留めの無い事を思いつつも私は家族と共に慰霊祭へと出席していた。


「…………」

「…………」

「…お兄…」

「…ロンの兄貴…」

 慰霊祭は戦争で喪われた数多くの英霊達の名が刻まれた巨大な慰霊碑に花束を捧げ黙祷をするというもの。

 嘗ての大戦では敵味方に別れて命を奪い合った、神器を宿している身としてはやるせない気持ちの方が強かった…戦争という負の遺産は何も生きた者達ばかりが辛い訳では無い。寧ろその負に呑まれ瘴気という形の無い存在になっても未だに囚われた魂も数多く存在するのだ…。



「続きまして、曙の勇者の就任式を始めさせて頂きます……大魔王様、曙の勇者様…前へ」


「……はい…」

 静かに慰霊碑の前で、今度は素顔を晒したままのファラ陛下と対面する。


「…汝、曙の勇者として世に蔓延る絶望を拭う希望となる事を誓うか?」

 漆黒の外套を身に纏うファラ陛下は私に問う、曙とは夜明け、即ち世を照らす光として在れという過去の人々が託した希望の名である。

 正直、私には荷が勝ち過ぎる大役ではあるがそれでも…やらなくて良い理由にはならないし、私の覚悟は10年前のあの日から決まっていた。


「はい、私は曙の勇者として世に蔓延る絶望すら救いたい」

 ふ…と、目の前のファラ陛下が笑ったような気がしたが直ぐに表情は何時もの気難しそうな顔へと戻り鞘に収まった剣を両手で差し出してくる。


「為れば、この神剣を用いて証明してみせよ…期待している」


 今の私には誇れるものは少ない、何よりも世間的には私等ぽっと湧いて出てた少年に過ぎないだろう。


 ──だから、今の私は祈ろう。この慰霊祭と就任式に魂となっても見守っている英霊(兵士)達の魂が往くべき場所へ逝けるように…。

 そして誓おう、数多の思惑はあれど彼等が生命を掛けて戦い抜いたこの世界が、少しでもマシになるように、私は私の出来る事を一つずつして行くのだ、と。

「…っ…」

 強い風が吹いた、捧げられた花束が多い為花吹雪が空を色鮮やかに彩り微かに ありがとう と、誰かの声が聞こえ、私の中に真冬の中でも暖かく身体を暖める火の様なものが宿った様な気がした。



----------------



 それから、無事に就任式も終え私は勇者としてファラ陛下に刀身の無い柄だけの神剣なるものを賜れた。

「…これ、本当に神剣なのか?」

 何でも勇者の資格は主に二つ存在し、一つは世間一般的に衆知の事実として知られている100年に1人という特異スキル、魂の継承を習得しているというもの。


 もう一つは、大魔王に認められし者。


(自分自身を仇なすものを認める、なんて昔の人の思考は解らない…)

 と言っても、ファラ陛下は話し方自体は威厳はあるが今年で27歳との事だ…今の私と同い歳位で先代大魔王を討ち滅ぼしたというのだから装具の力はあるだろうがそれを差し引いても凄い才能だと思う。


(……試してみる、か)

 刀身の無い柄のみの神剣、それに再び力を宿すのは担い手の魔の力…即ち、魔力であるとの事。


『…第一工程、完了…第二工程…完了……』

 担い手により無限の可能性、形状へと変化するという柄を握り想像するのは私が前世で最も見慣れた近代兵器の流れを汲んだ剣。
 陛下を信用していない訳では無いが本当に様々な形状に変化するのであれば、こういった形状や機構を備えたものにも変わるのだろうかという知的好奇心から来る試みだ。

『第三工程……完了、第四工程、完了…』

 頭の中で男性の声が聞こえる、何故かそれが、先代大魔王の声だと思ってしまう私が居るが…

『全工程完了した。初めましてだ、当代の勇者』

 頭の中に響く声に目を開くと手には二振りの片刃の西洋剣、だが両方の剣の峰同士を合わせる事で

『注文が独特で少し苦労したが、当代の勇者は異邦人のようだ。どうだい?君の想像通り普段は双剣、今みたいに峰同士を合わせる事で二叉の両刃の合体剣にもなる、ソードブレイカーとしても使い方次第では扱えて尚且つこの状態なら魔法を打ち出す筒としても扱える、まさに至れり尽くせりじゃないか』

 うん、振り心地も悪くはない、クワガタの様に挟み込む事も出来れば言う事は無いが側面で殴り付ければ鈍器としても扱えそうだ。

『あぁ、そうそう。盗難防止の為に血を少し吸わせる事をおすすめするよ?尤もこの稀代の色男イリアスが居ればそんじょそこらの盗っ人なんてバッタバッタと薙ぎ倒すけどね!あ、腕も脚もなかったんだった、はっはっはっは!』

「申し訳ありません、少し煩いです」

『……はい、ごめんなさい…』


 ぶんぶんと自室で振り回していた合体剣に宿る魂(?)に謝罪しながら窘めるとしゅんとする気配を感じたので少し申し訳なさを覚える


「いえ、考え事をしていたものでして…私こそ申し訳ありません。…貴方は先代大魔王ですか?何故か今の時代だと先代大魔王の記録は出回っていないものでして…」

 此方の姿勢に気を良くしたのか一つ咳払いをしながらイリアスさんは語り出す

『おや、僕を知ろうとしてくれていたのかい?嬉しいねぇ……その勤勉さに僕も真摯に答えようか。
先ず、その問いにはイエスと答えよう。神剣を創る過程で君の記憶を一部覗かせて貰ったが多分僕を打ち倒した後にファラたんと勇者パーティが結託して歴史から僕を抹消しようとしたんだろうね、当時はすっっっごい!悪だったからねぇ…何の因果か僕の身体は完全に消滅したけど魂の一部はこの神剣に宿せたんだ』

 なるほど、確かにこれだけキャラが濃……こほん、色々な意味ですっごい人なら抹消したくもなる、か

 イリアスさんの濃いのはキャラだけじゃないぞぅ?と、いう言葉を右から左へ受け流しつつ暫く考え込んでいるとイリアスさんは真面目な口調で語り出す

『まぁ、取り敢えず君が今後すべき事は【原初の神鎧】を目覚めさせる事だろうね~…多分君の生まれ故郷を襲った首謀者はそれを欲して村を滅ぼしたと思うし、何より原初の神鎧と対を成すこの終焉の神剣を手にした勇者としての義務だよ、あれを護るのは』


 なん…だと…?


 ただの野盗に襲われたなら、この世界の成り立ちからして仕方が無いと思っていた。
 食うに困ったら誰だって他所から奪うという事は考えるだろう、悔しいし、やるせないがそれならば未だ、耐える事は出来た。

 だが、イリアスさんの言葉をある程度信用するならば話は別だ、……そんな事の為にあの村の人々を…レナちゃんを犠牲にしたのだとしたら…!

『……まぁ、僕は既に表舞台から消えた身だし、君がどんな未来を辿るのかも興味があるから見守っていてあげるよ?』


 君の終わりが、定まる迄は…ね?

 愉しげに笑う声が、私の中のほんの少しの仄暗い感情を逆撫でするのであった。
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