前世で極道の若頭だった俺が転生したら悪役令嬢だったので、取り敢えず処刑される直前だった死に行く運命のメインヒロインを救ってみた件

奈歩梨

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第一章〜幼年期編〜

夢からの覚醒

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 ……て…

 いやだ…死ぬなッ!

 …きて…ね…

 誰か…っ…誰か居ないのか…!

 生きて…ね、…



「…ッ!」


 鼓動が早い、嫌な汗をかいていたのが素肌に張り付く寝間着で認識する。
 同時に、何時受けたかわからない火傷の痛みで顔を歪めるのをわたくしは自分自身で認識する。


(…また、あの夢か…)

 私、アンナ・ノワールは定期的に不思議な夢を見る。

 夢の中での私は見た事の無い女性と星戦せいせんを繰り広げ、見た事の無い女性の為に何十人もの男性を倒す立派な騎士であった。

 星戦せいせんとはデバイスを与えられ、互いの任意で星幽界アストラルフィールドと呼ばれる結界にもなるフィールドを作り出す事で一対一、或いは一対多数といった戦闘を行う事である。

 星に刻まれたあらゆる概念の中で自身が生来持ち合わせている魔力の性質に近しいものを武具として形作るのが星騎士せいきしであるが…何故か夢の中での私は東洋の刀と呼ばれる刀剣と我が家に神具として代々祀られている槍を奮っているのだ。


「アンナちゃん、今大丈夫かしら?」

「ユイ様…?はい、大丈夫です」


 ふと、扉をノックする音と共にユイ様の声がしたので私は上体を起す。

 ユイ様は私にとっては大祖母よりも前の時代を行きた竜人族であり神話の語り部である人類国宝だ、竜人の血がそうさせるのか見た目は私の年の離れた姉と偽っても通りそうな程若々しく空のように青い髪が特徴的な美女だ。

 部屋に脚を踏み入れたユイ様は私の顔を見るなり胸を撫で下ろしたかのように持っていた手鏡を見せてくる。


「良かった、顔は火傷を負っていないようね…女の子なのに顔にも火傷を負ったら可哀想だもの」

 火傷…?
 そう言えば何故か私は利き手である右手を火傷している、包帯を巻かれてはいるがきっと施術も行われたのだろ……!?


 鏡を見た私は……否、“俺”は何処か頭の中の霞が晴れたように目を見開く。


「な…な、なな…っ!」


 俺は今、鏡に映る俺自身の顔を見て愕然とすると同時に本来喪われたままである筈の前世の記憶を取り戻していた。

 私の、いや、俺の今世での名前はアンナ・ノワール、昨日で8歳の誕生日を迎えたノワール王国の王女だ。
 …尤も、祖父であるユリウス・ノワールがユイ様の言いつけを護る形で王位を父、フリードリヒ・ノワールに譲っていない為中々に特殊な立ち位置だとは思う。


「やはり…傷が痛みますか…?」


 俺に鏡を見せてきたユイ様に首を振る、実際は痛みはあるがそれ以前に今の状況に混乱している気持ちの方が強い。

(……)


 事実確認が重要だ、出来るなら悪い夢だと否定して欲しいが…この倦怠感と腕の火傷の痛み、そして何より、さっきまで夢の内容とこの世界に於ける戦い方を冷静に反芻出来た自分自身がそれを否定している。


「ユイ様…今星暦何年でしょうか?私、少し記憶が混乱していて…」


「今ですか…?今は星暦2008年ですね…昨日の事は覚えていますか?」


 ぐわああぁぁっ!やっぱりかド畜生っ!!


 俺はどうやら地球と似たような歴史を持つ異世界に転生したようだ…しかも、この世界は俺が前世で遊んでいた『ウルガルド物語』の舞台でもある。

(ゲームの世界に転生とかふざけてんのか神様よォ…)

 この状態が良く読んでいた異世界転生と呼ばれる現象であるのは自覚出来る、何故なら前世と同じく今世の記憶もあるからだ。

 何より…夢で見たあの光景も俺には心当たりがある、我が事のように記憶を遡る事が出来るのは憑依ではなく転生だろう。

 だからこそ、俺は昨日の出来事を今一度振り返る必要がある。


 …残念ながら昨日の記憶だけは丸々抜け落ちているのだから。


「あの…覚えていません……私は何故火傷を…?」

「…アンナちゃんは代々ノワール家に伝わる儀式を受けて“適合出来た”の、意味はわかるかしら…?」

(確か親父も爺さんも受けたってやつだな…けど適合って…確か…妙な槍を触るだけだった筈だぞ?それでこんな風に…っ……待てよ…?)

「…2000年以上の歴史があるノワール家だけどあの神槍に触れても火傷を負ったのはアンナちゃんだけ、…貴女は器として選ばれたの、私の兄の様に…」

「兄…?」

 訝しげに首を傾げている俺に対しユイ様は腰掛けていた椅子から立ち上がる、いっその事前世の記憶等無い方が幸せだと思える程可愛らしい椅子だ、俺…もとい、アンナの趣味だ。

「……兎も角、今は怪我を治す事が一番大事な事、私はもう行くわね…お誕生日おめでとう、アンナちゃん」

 そう口にして、ユイ様は前々から強請っていた誕生日プレゼントでもあり俺専用のデバイスでもある腕輪型の端末を枕元に置いて部屋を出ていった。


 ……取り敢えず、今後の方針をどうするか考えるか…。
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