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レイの授業

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「今日は訳あってリンとシュリは席を外しておりまする、よって、このレイがお嬢様に授業を付けさせて貰いますのじゃ」


︎︎ まぁ、元々リンやシュリ以外にも師事はするつもりだったからそれは良い。

︎︎ …それは良いんだが…。


「レイ…私は何時までこうしていれば良いのでしょう…?かれこれ二時間は経ったと思うのですが…」


︎︎ 何で滝行をせなならん?
︎︎ 然も座禅を組みながら。

︎︎ 隣で俺と同じく行衣を着込んで滝に打たれているレイに問い掛けると、レイは俺の方は見ずに答える。


「わしが良いと言うまで。…剣を振るって見える頂きも確かにありまするが、時には氣や魔力といった初歩的なものを見直すのも大事ですじゃ」

「なるほど、…氣と魔力の違いとはなんなのでしょうか?」


︎︎ ふと、氣と魔力の違いを問う。
︎︎ この辺りは前世のゲームでも全く違うものとする作品もあれば、混同しているものもあるから興味深い。


「氣とは草や木、花々…そして全ての生命が持つ生命エネルギーの総称ですじゃ」

「そして魔力、これは一般的には精神エネルギーと呼ばれるもので、わし達星騎士を含め精霊や神霊といった上位存在も持ち合わせ“世界の理”に干渉する力でもありまする」

「“世界の理”…ですか?」

「そうですじゃ、星武器という媒介を用いて世界の理に干渉する事で魔法という超常の力を振るう…」

「なるほど、生命エネルギーと精神エネルギー…似ているようで異なる力なのですね」

︎︎ 確かに混同しちまうゲームがあるのも分かる気がする。
︎︎ RPGで言うなら生命エネルギーがHP。
︎︎精神エネルギーがMP。

︎︎ MPを消費して魔法を使う、この辺りは理解出来る。というか基本だ。

︎︎ その辺の区別を正しく理解していないから混同しちまうんだろう。
︎︎ まぁ、作品によっては生命エネルギーを精神エネルギーに変換したり、逆のパターンもあるが。

︎︎ しきりに、うんうんと頷いている俺に、レイは穏やかに微笑んでいたが、徐に変化が訪れる。

「理解が早くて助かりまする。…飴の代わりに、生命エネルギーと精神エネルギーが辿り着く一つの極地というものをお見せしましょうぞ」

「これは…!」


︎︎ ゾクッ…!

︎︎ 思わず全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
︎︎ 何故ならこの感覚には覚えがあるからだ。


「身体とは器、魔力を受け入れる器は生命エネルギーがある程度は補う事が可能ですじゃ。」

「そして魔力、わしは先程精神エネルギーと言いましたがそれはあくまで、己が魔力マナの話。…世界中を覆う魔力オドはまた少し違った話になりまするが…魔力オドは己が身に集める事が可能ですじゃ───星技・武玄」


︎︎ そう、それはリンが俺との星戦の時に使った技…麒麟と同じ気配だ。

︎︎ いや、リンとは違いレイは静かな水面と荒々しい津波、両方を思わせる気配を感じる。
︎︎ さっきまでは波一つ立っていない水面のようだったが今は激流の様に荒々しい気配…これが魔力オド…か。


「魔力の量と質が…変わった…!」

「そして、集めた魔力を研鑽する事でより強い力を発揮する事が出来まするが…今のアンナ様に、それを強いるのは少々駆け足すぎまするな」

(魔力の“圧”だけで滝を上に押し戻していやがる癖に…まだ──)

「──その状態よりも上…があるのですね…どうすれば…」


︎︎ 簡単そうに見えてその実難しい、魔力を集めて研ぎ澄ませる…上を目指すなら確実に必要になってくる技術の遠さを知った。


「焦らずに出来る事をこつこつとやっていけばわし等直ぐに追い越せましょうぞ、なんて言ったってアンナ様はあの始祖神の…」

「レイ…?」

「…なんでもないですじゃ、取り敢えず今日教えた事は空き時間に何度でも振り返ってみると良いかもしれませぬな」

「えぇ、分かりました」

︎︎ 始祖神という言葉に、いや…始祖神と呼ばれる誰かを懐かしむ様な眼に内心首を傾げるが、自然の中で魔力の流れを感じ取る…日常的に心掛けてみるか。


◆❖◇◇❖◆


︎︎ その日の夜、月明かりが窓から射し込む一つの部屋に五人の従者は円形のテーブルの前に座り話し合っていた。
︎︎ 話題は自身が各々の立場で守護する国、そしてそんな国の今後を左右する姫、アンナについてだ。


「久しぶりの屋敷だなぁ…って、なんでオレはリンとシュリの二人に目を付けられてセイはお咎めなしなんだよ」


︎︎ ノワール国、その軍の統制を任せられている大元帥がハクであるが…この五人の中では若干弄られキャラである。


「日頃の行い、というやつですね…普段からハクは強い方や強くなりそうな方を見付けると遊ぶ癖がありますから……それはそれとして、此度は部下が迷惑をお掛けしました、シュリ」


︎︎ ノワール国の内務省の下におかれる行政機関…即ち警察という組織の中で警視総監という椅子に座っている。
︎︎ が、此度はシュリがついていたとはいえ、本来守護すべき存在であるアンナを危険に合わせた事に負い目を感じているようだ。

︎︎ 尤も、その原因を作ったのは末端の警察官であって彼女には何の落ち度もないが。


「いえいえ~、最初聞いた時はアタシも頭を抱えましたけど、結果的には良いデータが取れましたし~、それにセイちゃんはハクちゃんみたいにサボり癖もないですし~」


︎︎ セイの立場も理解した上でサムズアップするシュリ。
︎︎ 今でこそメイドとしてシュリの身の回りの世話をしているが、その口調が指し示すように彼女は道化役を演じている。元は…否、今語るのは早い為に割愛する。


「けっ、…で、アンナ様の様子はどうだ?」

「そうですね~…皆には昨日ちらっと報告したけどBクラスの星騎士が担当するような魔族、デュラハンを一人で片付けちゃいましたねぇ~…然も怒りに任せて終始圧倒するだけならまだしも、未だ教えていない雷魔法…それもAランクに位置付けられる荷電粒子砲を使って」

「デュラハンを、ですか…一口にデュラハンと言ってもピンからキリまで存在しますが、そのピンキリの中で、最弱の存在であったとしても8歳の少女が圧倒出来る存在では無いはずですが…初めての星戦で、あれだけの動きが出来たアンナ様なら納得です」


︎︎ シュリの報告に皆動揺を隠せずにいる。
︎︎ 無理もない、Fから始まりS、そしてその上の最上級クラスのGと魔物及び魔族には脅威度が存在し、Bクラスとはデバイスを持って間もない少女が相対して勝てる様な存在ではない。
︎︎ それを圧倒し、単身打倒出来るというのは騎士として少なく見積もっても、Aランク相当の実力はあるという事なのだから。


「継承の儀から別人の様に鍛錬にも授業にも身が入っておるのぅ。あの様子だと直ぐにでも次の段階に進めそうじゃ」

「レイ婆さんが言うなら「何か言うたかぇ?」…レイ姐さんが言うなら間違いねぇな!」

︎︎ この国に付き従う者として一番の古株に睨まれるハク、レイ姐と呼ばれし彼女こそ、神代の時代に一つの神話を作った始祖神にして世間一般的に大魔王と呼ばれた存在に仕えた存在なのだから…年季が違う、というものだ。


「…此方からも報告を、先の大規模電波障害の件に関係あるかは調査中ですが、不穏な動きを確認しました、恐らくは国外からの圧力だとは思いますが」

「あー…どうせ法国家のお偉いさん達でしょうね~、あの人達は昔からノワール国を目の上のたんこぶみたいに見てましたし~」

「…可能性は0では無いとはいえ、憶測でものを言うのも考えものですよ?シュリ」


︎︎ はーい、と間延びした声を上げるシュリ、仮に他国からの干渉だとしたら国際問題だが…何方にしても今はまだ調査を続行する形に収まる。


「…一先ずは、私達は継続してアンナ様を護衛しつつ鍛錬を積んで頂きましょう。私達の“願い”の為にも」


︎︎五人は各々の願いと共に頷く、アンナが彼女達の真意を知る日は未だ遠い事を知っている上で。
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