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第一章〜幼年期編〜
パーティ〜思惑〜
しおりを挟むユイ様からの説明…というよりは、俺がこのまま“覚悟”を示す場合、どういった状況になるかを聞き暫く経つ。
正直、レオナが近くに居て良かったと思う、今の俺は難しい顔をしていたと思うし、それを自覚出来る程には客観視もしていたから。
「………」
「お姉様…」
「お、戻ってきた。何処行ってたんだよ御前等?」
2人の手にはパーティの為に用意されたと思われる皿と幾つかの料理。人も集まってきたし思っていたよりも時間が経ったらしい。
「御手洗の場所が分からなかった…とかでしょうか?私も一緒についてけば良かったですね…」
「………」
心配そうに小首を傾げるエリーと、気にかけてくるジャック、無言ではあるがその視線から此方を案じているエステルに時間を食った一部の理由を説明する事にした。
「いえ、少しレオナが絡まれていたものでして。そういえばウィリアム様の御姿が見受けられませんが…」
「兄貴なら親父に連れてかれたぜ?つーか絡まれていたって誰にだよ?」
「チェーロ皇国、伯爵令嬢のネビリム嬢ですね」
「あー、あいつか。自分より上の奴には媚びへつらう癖に下の奴には上から目線のクズ女。何か言ってたか?」
王族にしては口の悪いウィリアムでもあの手の輩は嫌いらしい、此処にジャックが居れば厳しく窘めていただろうが俺もあの手の女は嫌いだし苦手だ。
「…下級貴族や平民は此の場に居るべきでは無い、と」
「はぁ?此のパーティって俺達が御前達に対する感謝を示す名目のパーティだろ?周りの目もあるからって、一応招待状を出しただけで本来は端役も端役だろ、あいつは。何考えてんだか、喧嘩売るにも相手の事は知ってから売るもんだろ馬鹿じゃねぇの?」
どうやらウィリアムでもその程度の事は分かっているようだ。案外此奴は真性のバカではないらしい、と思ったのは内緒だ。
なので、此処は一つ労っておくとする。
「…まぁ、心中お察しします。未来の旦那様?」
「なっ!?勘弁してくれよ…つぅか、どうせ夫婦になるなら…」
「…?何か仰いましたか?」
「な、なんでもねぇよ!!」
顔を少しだけ赤くして、ごにょごにょと何かを呟いているウィリアムに首を傾げているとレオナとエステルのひそひそ話が聞こえる。
「…お姉様って、こういう時は鈍感さんですよねぇ…あ、これ美味しそう」
「そうだね、アンナ様は鈍感さんですから…」
…?俺がなんだっていうんだ。
◆❖◇◇❖◆
一方、場所は何処かの一室。
ジャックやウィリアム、エリーにとっては父親にあたり、チェーロ皇国にとっては皇帝にあたる人物。サルヴァトーレ・チェーロは此の国の第一皇子であるジャック・チェーロを見下ろす様に視線を向けている。
その視線に耐えかねるように、ジャックは先に話題を切り出した。
「父上、僕だけ呼び出して何か御用でしょうか?」
「すまぬな、だが直前に話をしておきでもしないと御前は首を縦には振らないだろう。…御前と御前の婚約者候補の事だ」
「アンナ様の…?」
訝しむように小首を傾げるジャックに対し、サルヴァトーレはそれが既に決定事項と言わんばかりに語り出す。
「あぁ、正式に婚約者と定める事とする。先方の父君も同意している。このパーティは御前達の仲を周囲に広める為のものでもある、聡い御前なら薄々勘づいていたのではないか?」
「それは…ですが父上、ウィリアムもアンナ様の事を…」
ジャックは気付いていた、弟であるウィリアムもまた、自身と同じく、同じ人物に恋心を抱いている事を。
然し、サルヴァトーレは首を横に振る。
「あれはダメだ、本人同士の性格が合うかは別として、第二皇子と第一王女ではにつかわしくない」
「そんな…私が…僕が先に生まれてきたからウィリアムには諦めろと仰るのですか!?双子なのに?!」
「そうだ、ウィリアムが諦めるしか無い分御前が夫として相応しくあれ。…話は以上だ、下がれ」
それは余りにも一方的な確定事項であった。子供ならば親の、親同士が決めた縁談に応じるのは当たり前と言わんばかりの言い草にジャックは一礼しその場を後にする。
「っ……失礼します…」
「………」
その後ろ姿を案じるように見つめる、背後からの視線に気付かぬまま。
◆❖◇◇❖◆
暫くし、俺達が各自自由にパーティの時間を過ごしていると何かを考え込みながら、ジャックが戻ってきた。
「あ、ジャックお兄様!……?」
「戻ってきたか、…?兄貴…何かあったか?」
「エリー…、ウィリアム……なんでもないよ、ウィリアム…少し話したい事がある、来て欲しい」
「…おう、分かった」
ジャックの様子がおかしい事に気づいたのは、やはりエリーとウィリアムが先だったがジャックはウィリアムだけを連れてテラスへと向かい歩き出した。
「…ジャックお兄様……何か変…」
「…気にはなりますが、今は2人きりにして差し上げましょう。レオナ、私達にもそれを頂けますか」
「はーい、とっても美味しいですよ~。エリー様とエステルお姉ちゃんもどうぞ~」
「ありがとう、レオナちゃん」
2人の兄を気にするエリーを伴い、レオナとエステルと4人で残り少ない平穏なパーティの時間を楽しむ事にした。
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