前世で極道の若頭だった俺が転生したら悪役令嬢だったので、取り敢えず処刑される直前だった死に行く運命のメインヒロインを救ってみた件

奈歩梨

文字の大きさ
26 / 48
第一章〜幼年期編〜

パーティ〜思惑〜

しおりを挟む

 ユイ様からの説明…というよりは、俺がこのまま“覚悟”を示す場合、どういった状況になるかを聞き暫く経つ。
 正直、レオナが近くに居て良かったと思う、今の俺は難しい顔をしていたと思うし、それを自覚出来る程には客観視もしていたから。


「………」

「お姉様…」

「お、戻ってきた。何処行ってたんだよ御前等?」

 2人の手にはパーティの為に用意されたと思われる皿と幾つかの料理。人も集まってきたし思っていたよりも時間が経ったらしい。

「御手洗の場所が分からなかった…とかでしょうか?私も一緒についてけば良かったですね…」

 「………」


 心配そうに小首を傾げるエリーと、気にかけてくるジャック、無言ではあるがその視線から此方を案じているエステルに時間を食った一部の理由を説明する事にした。


「いえ、少しレオナが絡まれていたものでして。そういえばウィリアム様の御姿が見受けられませんが…」

「兄貴なら親父に連れてかれたぜ?つーか絡まれていたって誰にだよ?」

「チェーロ皇国、伯爵令嬢のネビリム嬢ですね」

「あー、あいつか。自分より上の奴には媚びへつらう癖に下の奴には上から目線のクズ女。何か言ってたか?」

 王族にしては口の悪いウィリアムでもあの手の輩は嫌いらしい、此処にジャックが居れば厳しく窘めていただろうが俺もあの手の女は嫌いだし苦手だ。


「…下級貴族や平民は此の場に居るべきでは無い、と」

「はぁ?此のパーティって俺達が御前達に対する感謝を示す名目のパーティだろ?周りの目もあるからって、一応招待状を出しただけで本来は端役も端役だろ、あいつは。何考えてんだか、喧嘩売るにも相手の事は知ってから売るもんだろ馬鹿じゃねぇの?」

 どうやらウィリアムバカでもその程度の事は分かっているようだ。案外此奴は真性のバカではないらしい、と思ったのは内緒だ。

 なので、此処は一つ労っておくとする。


「…まぁ、心中お察しします。未来の旦那様?」

「なっ!?勘弁してくれよ…つぅか、どうせ夫婦になるなら…」

「…?何か仰いましたか?」

「な、なんでもねぇよ!!」


 顔を少しだけ赤くして、ごにょごにょと何かを呟いているウィリアムに首を傾げているとレオナとエステルのひそひそ話が聞こえる。


「…お姉様って、こういう時は鈍感さんですよねぇ…あ、これ美味しそう」

「そうだね、アンナ様は鈍感さんですから…」

 …?俺がなんだっていうんだ。


 ◆❖◇◇❖◆


 一方、場所は何処かの一室。
 ジャックやウィリアム、エリーにとっては父親にあたり、チェーロ皇国にとっては皇帝にあたる人物。サルヴァトーレ・チェーロは此の国の第一皇子であるジャック・チェーロを見下ろす様に視線を向けている。
 その視線に耐えかねるように、ジャックは先に話題を切り出した。


「父上、僕だけ呼び出して何か御用でしょうか?」

「すまぬな、だが直前に話をしておきでもしないと御前は首を縦には振らないだろう。…御前と御前の婚約者候補の事だ」

「アンナ様の…?」

 訝しむように小首を傾げるジャックに対し、サルヴァトーレはそれが既に決定事項と言わんばかりに語り出す。


「あぁ、正式に婚約者と定める事とする。先方の父君も同意している。このパーティは御前達の仲を周囲に広める為のものでもある、聡い御前なら薄々勘づいていたのではないか?」

「それは…ですが父上、ウィリアムもアンナ様の事を…」

 ジャックは気付いていた、弟であるウィリアムもまた、自身と同じく、同じ人物に恋心を抱いている事を。
 然し、サルヴァトーレは首を横に振る。

「あれはダメだ、本人同士の性格が合うかは別として、第二皇子と第一王女ではにつかわしくない」

「そんな…私が…僕が先に生まれてきたからウィリアムには諦めろと仰るのですか!?双子なのに?!」

「そうだ、ウィリアムが諦めるしか無い分御前が夫として相応しくあれ。…話は以上だ、下がれ」

 それは余りにも一方的な確定事項であった。子供ならば親の、親同士が決めた縁談に応じるのは当たり前と言わんばかりの言い草にジャックは一礼しその場を後にする。


「っ……失礼します…」

「………」

 その後ろ姿を案じるように見つめる、背後からの視線に気付かぬまま。

 ◆❖◇◇❖◆


 暫くし、俺達が各自自由にパーティの時間を過ごしていると何かを考え込みながら、ジャックが戻ってきた。


「あ、ジャックお兄様!……?」

「戻ってきたか、…?兄貴…何かあったか?」

「エリー…、ウィリアム……なんでもないよ、ウィリアム…少し話したい事がある、来て欲しい」

「…おう、分かった」

 ジャックの様子がおかしい事に気づいたのは、やはりエリーとウィリアムが先だったがジャックはウィリアムだけを連れてテラスへと向かい歩き出した。


「…ジャックお兄様……何か変…」


「…気にはなりますが、今は2人きりにして差し上げましょう。レオナ、私達にもそれを頂けますか」

「はーい、とっても美味しいですよ~。エリー様とエステルお姉ちゃんもどうぞ~」

「ありがとう、レオナちゃん」


 2人の兄を気にするエリーを伴い、レオナとエステルと4人で残り少ない平穏なパーティの時間を楽しむ事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...