前世で極道の若頭だった俺が転生したら悪役令嬢だったので、取り敢えず処刑される直前だった死に行く運命のメインヒロインを救ってみた件

奈歩梨

文字の大きさ
34 / 48
第一章〜幼年期編〜

研修医との出会い①

しおりを挟む


 ゆっくりと意識が覚醒するのを感じ、両眼を開けると清潔感のある真っ白な天井と、すぐ隣に置かれた花瓶に活けられた花々を視界に収め上体を起こす。


「……ん…」

「目覚めましたか?」

 花瓶に活けられた花を眺めていた水色の髪を肩まで伸ばし、白衣を着ている子供に声を掛けられ、俺は意識を失う前に何が起きたかを思い出しながら問いかける。


「ここは…」

「エキナセア国の国立総合病院です、貴女は3日間程意識を失っていたのですよ」


 エキナセア国、聞いた事がある。ノワール国が優秀な星騎士を多く保有する国であるならエキナセア国は優秀な医療系星騎士を保有する医療大国である、と。


「そう…ですか、…貴方は…?」

「申し遅れました、僕はルカ・エキナセア…このエキナセア国の王子であり研修医をしております」

「研修医…ですか…見たところ私と同じ位の年齢ですが…」

「えぇ、医療系の星騎士としての能力を持つと法国家に認められた者はデバイスを与えられた年から研修医として従事する事を許されるのです」

「なるほど、医療系の星騎士は稀ですからね…納得です」

「御理解頂きありがとうございます、アンナ殿下」

 諸々の事情は把握した、目の前の人物がエキナセア国の王子である事。

 医療大国と呼ばれる国に担ぎ込まれる程の大怪我を負った事。

 恐らく、リンも此処に居るであろう事を。

 ともあれ、先ずは色々と聞けるように友好的に接するのが良いだろう、上体を起こしたまま穏やかに微笑みルカに視線を向ける。

「堅苦しい呼び方は好きではないのでアンナとお呼びください、…私もルカとお呼びしても?」

「…分かりました、ではアンナ…と。婚約者以外をファーストネームで呼ぶのは初めてです」


「そうなのですね、…私は何人かファーストネームで呼ぶ男性は居ますが、確かに婚約者はファーストネームで呼び易いかもしれません」


「婚約者…というと確か…」

「えぇ、ジャック陛下です。正確には婚約者候補、ですが」

「なるほど、彼の国の皇子殿下と同列なのは光栄ですね」

「ふふ、そうですか?……あの、私は3日間意識を失っていたとのことですが、私の従者であるリンは…彼女は無事でしょうか…?」

 婚約者以外の女をファーストネームで呼んだことがない、というのも珍しい気もするが、そういう事もあるのだろう。相槌を打っていると、笑みを浮かべ恐らくは社交辞令だろう言葉を口にするルカに気になっていた事を問いかける。


「…アンナも知っての通り、星騎士という存在が発展する程に私達医療従事者の医術も進歩し、今では各国の主要施設に点在する生命維持装置に入れれば、ほぼ即死の傷を負っていたとしても時間がそう経っていなければ蘇生も可能ですが…それでも昨日、漸く持ち直したようです。余程魔力を消耗していたのでしょうね」

「そう、ですか…良かった…」


 医療の知識はさっぱりだが、どうやら魔力の消耗が原因で生死の境を彷徨っていたリン。だが、なんとか息を吹き返したようだ。安堵の声を漏らすとルカが問いかけてくる。


「お会いになりますか?」


「大丈夫なのですか…?」


「えぇ、今は面会は可能ですよ」

「では…お願いします」

「はい、案内しますね…此方です」

 ベッドから降り、病院服のまま病室を出るとルカの案内を受けてリンが入院している病室まで歩く事に。


◆❖◇◇❖◆

 暫く歩くと病室から今にも飛び出そうとしていたリンと、それを飄々としながらも押し留めるシュリと出会す。

「だからぁ、今のリンちゃんが行っても出来ることがないって…あ、アンナさま~おはようございます~」
「離してくださいシュ……!アンナ様…!ご無事ですか…!?」

「おはようございます、シュリ、リン。はい、先程目を覚ましたばかりですが何とか…」

「良かった…、此の度は大変申し訳ありませんでした…!」

 シュリの方は割と普段通りだが、リンはこれまで見た事が無い程憔悴しきっていた、案外、魔力云々よりも精神的なものが原因だったのでは?と、思える位には。

 だから、此処は姫として、何より真剣に戦い合った対戦相手として頭を下げる。


「謝らないで下さい、…貴女は星騎士として真剣に向き合ってくれた、あの戦いで謝るような事があるとすれば私こそ神槍の力に溺れてしまい力を制御出来なかった……その一点に尽きるかと。本当にごめんなさい…」

「アンナ様が謝る様な事では…」

「もう~、二人共謝り過ぎですよ~?どっちも悪かったしどっちも悪くなかった、それで良いんじゃないですか~?」

「シュリ…」

 こういう時、シュリの在り方には助けられる。叱る時は叱り、褒める時は褒める…メイドよりも教育者として向いているスタンスだろう。


「アンナ様、力を持つ者は力を振るうタイミングを知らないとめっ、ですよ~?でも、リンちゃんとの試験で今のアンナ様のデータも、神槍を振るっていた時のデータも取れましたけど~」


「シュリ……ありがとうございます」

「いえいえ~、アンナ様も目を覚ました事ですし、ルドルフ理事長に連絡入れてきますね?明日には来れると思うので試験の結果は明日、採取したデータと一緒に発表して貰いましょ~」

「えぇ、分かりました。では明日…また。ルカもありがとうございました」

「いえ、医者として当然の事をした事だけですから」

 リンやシュリに手を振り、此処まで案内してくれたルカに頭を下げると元来た道を戻りベッドに横になる事で身体を休める事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...