36 / 48
第一章〜幼年期編〜
研修医との出会い②
しおりを挟むあれから時間は流れ夕方。
ルドルフとは別れ、シュリも俺のデバイスの機能を拡張するとやらで持ち込んできた機材でデバイスの機能を増やすと笑みを浮かべながら部屋を出て行った。
『あ、そうそう。入院中退屈だと思うのでシュリちゃん達5人の星戦リーグの試合を録画したものをデバイスから観れるようにしておきますね~、暇潰しに観てくださ~い』
「…分かってはいましたが、5人とも戦闘スタイルがバラバラで観ていて参考になりますね」
折角機能を拡張してやれる事が増えたのだ、俺はリン、シュリ、レイ、ハク、セイ…各々の戦いぶりを映像として眺めている。
特にレイは結界術の使い手ながら、その結界の扱い方は流れる水の様に多岐に渡る。変幻自在、という言葉は正にレイの為にある言葉だろう。
シュリのお陰で時間を無駄に使わずに済んだ…こうやって強い奴の戦いぶりを観るだけでも得られるものはある。
「こんにちはぁ…検温に来ましたぁ…」
「ごきげんよう、検温ですね。体温計を貸して頂けますか?」
「あ、は、はい!どうぞ!」
映像に夢中で部屋に近付いてくる気配に気付くのが遅れ、入口に薄紅色の髪を腰まで伸ばし白衣を着た同年代の女に声を掛けられ、体温計を受け取る。
「あ、ありがとうございます…?」
「じー…」
「……」
「じー…!」
「……っ…」
「じー…!!」
「あ、あの…そんなに見つめられては計り難いのですが…」
「はっ!?す、すみません!」
前世でもそうだが、凝視されるのはあまり慣れない。特に此奴みたいに悪意や殺意といった負の感情に縁の無さそうな、おろおろとしつつも、俺を気遣っているのが分かる、純粋そうなガキに見つめられるのは。
何だったら敵意や悪意、といった負の感情に晒されている方がまだ慣れてるまであるが…そんな事を言っても仕方ねぇ。俺が忘れてるだけでどっかで逢った事があるんだろう、此処は素直に問い掛ける事にした。
「いえ、…何処かでお逢いした事がおありですか…?」
「いえっ、その…此処に運ばれた時に殿下と一緒に運ばれた執事服を着た女の人に殿下を気に掛けて欲しいと言われたので…ご、ごめんなさい!」
「リンから、ですか…いえ、そういう理由でしたら納得しました。…ただ、気に掛けるようにと言われて擬音を口にしながら見つめる事に意味があるとも思えませんが…」
なるほど、搬送中にリンに頼まれたのか。…律儀な話だ。
何より当時のリンや俺はお互いの攻撃で意識が混濁する程のダメージを受けていた、つまり傷だらけで血塗れだったと思われる。そんな状況で縋られて怖気付く事なく頼まれ事を聞いてる辺り、研修医の名に恥じない肝の座った嬢ちゃんだ。
「ぅ、た、確かに…」
「ただ、…気持ちは嬉しかったです」
「え、えへへ…ありがとうございます、殿下!」
華のような笑顔、というのはこれまで何回も見てきた、レオナ、エリー、エミル、ミモザ、アリス…それから、エステル。あの5人と同じ類の笑顔に絆されるのを感じながら小首を傾げ問う。
「…良ければお話をしませんか?お時間があれば、ですが…」
「はい!私も殿下とお話がしたかったので是非よろしくお願い致します!」
「他の方が居ない時はアンナで構いませんよ、見た所同い歳みたいですし…呼び難いなら殿下、でも構いませんが」
「ぇ、い、良いんですか?」
「私は構いませんよ。その代わり貴女の事を教えてください」
「はい!私はミラっていいます、ルカ様と同じ研修医としてこの病院で働いていますが…」
何方かといえばレオナと同種だろうか、犬っぽい気質…人懐っこいとも言えるミラの表情が曇るのを見ながら先を促す。
「いますが…?」
「その、研修医の中でもへっぽこで…傷を癒す事と結界を張ることしか能がないんです…ルカ様は病気を癒す事が出来るのに…」
「傷を癒す力を持っているだけでも充分凄いとは思いますが…」
実際に傷を癒す力を持っているのなら救急救命士等の世界では引っ張りだこだろう、俺も時魔法で時間を遡らせる事で似た様な事は出来るが医療の知識が無い身としては、矢張りプロに任せた方が良いと思うし。
そんな事を考えていると、ミラはおずおずと訊ねてくる。
「……その、アンナさまは生命維持装置について何処までご存知でしょうか?」
「生命維持装置、ですか?確か絶命さえしていなければ四肢の欠損くらいならば直ぐに再生させ、仮に死に至る傷でも外傷そのものは…」
「はい、再生させます…今時、生命維持装置が無い病院なんて殆ど無いし、何ならウルガルド学園とかは保健室に何台か置いてあるので、私の能力は実質ハズレみたいなものなんです…」
能力がハズレ、か…そんな事は無いと思うが。実際、エミル達の様なストリートチルドレンから見れば生命維持装置なんて見た事がなかったらしいし、そんな境遇の奴等を助けられる可能性があるだけ凄いと思うのは俺が前世の記憶があるから、かもしれねぇな。
そんな俺だからこそ、伝えられる事は伝えてやりたいと説くことにする。
「…そんな事は無いと思いますが、例えば生命維持装置自体が使えない状況に陥ったら、それこそミラの出番だと思いますよ?」
「そ、そうでしょうか…?」
「えぇ、力に無駄なものはありませんよ」
「アンナさま…ありがとうございます!」
あぁ、力に無駄なものなんてない。
力は力に過ぎない、どんな使い方をするかで、そいつの真価が問われるのだから。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる