保健室 三年生

下野 みかも

文字の大きさ
2 / 105

二年生の頃 着任式の日

しおりを挟む

「続いては、今年度着任の先生方のご紹介です」
 だる。
 今日から、二年生。学校は、たいして楽しくない。 
 今年度着任の先生方、っていってもさ。女子高なんて、かっこいい、若い男の先生が来るわけないし。先生と生徒、デキちゃうかもしれないじゃない。そんなん、少女漫画だけだよね。


 果たして、新しい先生達は、ベテランばかりだった。 うちはそこそこ進学校だし、まぁ、そうだろう。
 でも。
 最後に出てきたのは、背の高い、かっこいい、大輪のお花みたいにきれいな、新しい保健室の先生だった。
 自己紹介をしてる。ハスキーな声。どうしよう。すごい、すっごいきれいな先生。胸が、どきどきする。白っぽいパンツスーツにお花のコサージュを付けて、すごくかっこいい。脚、長い。すてき……。 


 私は、一目で、恋に落ちてしまった。


 芸能人だって、漫画のキャラクターだって、中学までの同級生にも、あんなに気になる人はいなかった。教室に戻っても、どきどきする。先生、何歳だろう。結婚、してるのかな。楽しい人かな。怖い先生かな。お話、してみたいな……。

 
 帰りのホームルームが終わって。
 気が付いたら、鞄を持って、保健室の前にいた。
 自分でも、驚いてる。行動力は、全然無い方。なのに、気付いたら、ドアの前にいる。今日は始業式だけだから、みんなとっくに帰ってる。
 どうしよう。来たはいいけど、用、ないよ。たまにいる、異常なコミュ力の子みたいに、せんせ~来たよ~みたいの、できないし。
 もじもじしていたら、廊下から、きれいな声をかけられた。
「こんにちは。具合、悪いのですか」
「あっ……先生」
「覚えてくれて、ありがとう。そう、今日からここの先生なの」
 パンツスーツの上に白衣を羽織って、先生、にこっと笑ってくれる。まぶしいほど、きれい。心臓は、セーラーのリボンが揺れるほど、大きく上下する。
「あっ、手伝います。荷物」
 段ボールで、お引っ越ししてたんだ。
「大丈夫、これで最後だから。ありがとう。やさしい子。何年生?」
 やさしい子、だって。なんか、すごい。かっこいい。 去年までの厳しいおばさん先生は、何だったんだろう……。
「に、二年生です。上履きの先が青いのが、二年生」
「そうですか。教えてくれて、ありがとう。体調、大丈夫?」
 そうだった。保健室の前で、佇んで。具合が悪い、ふりしないと。
 でも、でも、つまんない嘘、つくのはいやだな。
「あの。体調、悪くないんです。せ、先生に、ご挨拶、しておきたくて」
 変じゃないよね。変じゃない。普通だよね。
「わざわざ、ありがとう。帰り、急いでますか」
 どきどきして、喋れなくて、首をぶんぶん横に振る。
「よかったら、お茶でも。他の皆には、内緒で」

 
 電気ポットに水を入れて、紅茶の準備をしてくれる。 
 私、保健室なんて来るのは、まだ二回目。調理実習で、指を切って以来。
 ベッドに腰掛けて、先生を待つ。
 どうしよう。先生はただお茶に誘ってくれただけなのに、私は勝手にどきどきしてる。先生、ほんとに、きれいな人。全然、目が離せない。なんだか、いい匂いもする。
「入りましたよ。ベッドでは飲めないから、こちらへどうぞ」
 私は机の側の、小さな丸椅子に腰掛ける。先生は、前の先生も使っていた、大きな背もたれ付きの椅子に。 
 不思議な絵のティーセットに、私の分を。先生は、金色の枝みたいな絵が書いてあるカップに、お湯だけ入ってる。
「先生は、紅茶じゃないんですか」
「私は、白湯で」
 さゆ、っていうんだ。お湯のこと。大人っぽい。 


 いただきます。
 紅茶を飲む。先生も、白湯を啜ってる。
「着任式の時に」
 先生が涼やかな声で、話し出す。
「あなた、私をじっと、見てましたね。ずうっと。先生の挨拶、変でしたか」
「えっ」
 心臓が、止まりそうになる。先生を見ると、私の目を、じっと見ている。
「み、見てません。あの、ええと、見てたかもしれません。新しい先生はみんな、気になるから」
 目を逸らして、俯いて、声が、すごく小さくなってしまう。
 どうしよう。やっぱり、来るんじゃなかった。


 先生は、カップを机に置いた、私の手を撫でる。
「そうですか。あなただけが、最初から最後まで、ずうっと見ていてくれたから。私だけを見ていてくれたのかと」
 手、溶けそう。心臓、早すぎて、止まるかも。多分、顔、真っ赤だ。
「あ、あの。ごめんなさい。先生のこと、ずっと、見てました。あんまり、きれいだったから。い、今も、あの、お話とか、してみたくて。来てしまいました。 ご、ごめんなさい」
「どうして、謝るの?なんにも悪くないのに」
 先生の、きれいな声。
 撫でられてた手の甲は、ぞくぞくして、変な感じ。今度は、人差し指で、私の手の甲をなぞる。
「可愛い子。先生のこと、気になりますか」
 私は、首を縦にぶんぶん振る。もう、声が、出せない。心臓、破裂しそう。死ぬかもしれない。
「お顔、よく見せて」
 先生は、私の両頬を、両手で持ち上げる。少し傾けて、唇に、キスをした。
 わけ、わからない。
 すぐに、すっと唇が離れる。そして先生は、
「キス、したことある?」
 と聞いた。私は本当に訳が分からなくて、涙目で、首を横に、ぶんぶん振る。
「じゃあ、これが、二回目ですね」
 と言って、先生はまた、私にキスをした。今度は、大人の、長いキスを。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

処理中です...