あいと

西似居ハイロ

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愛斗

召喚(※友人目線)

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珍しいヤツから電話かかってきたな…
そう思いながら山下すずは『神野』と電話相手の名を表示しているスマートフォンを手に取った。

「もしもし?どーしたの?」

『あ?すず?今大丈夫?』

横目で時計を見ると就業時間は終わってる。
(今日は宿直でもない…)
「大丈夫よ。どーしたの?」

『今兄弟から性虐待受けたトラウマ持ちの男性保護してるんだけどさぁ~』

「は?」

『昨日フラッシュバック起こしちゃったらしくて過呼吸でぶっ倒れちゃって』

「は???」

『2日経っても目、覚めないんだよね…』
「…」

情報過多もいいところだ。
片手で目を覆い天井を仰いぐ。

『鈴,精神科医だし見てもらえたりしないかな~なんt』

「あんたの家、行けばいいの?」

『ありがとう!そうしてくれると助かる!』

「…私、まだ新米だしできることは少ないよ」

『わかってる。でも手伝ってくれると心強い』

「わかった。じゃ。」

そう言って電話を切った。



ため息を付きながらインターホンを押す。
ぴんぽーん
無機質で軽い音がなる。
ガチャっとドアが音を出し神野が顔を出した。

「いらっしゃい」

心なしかやつれた…かな…?

「大丈夫?」

「うん…俺はね?」

ちょっとあんた隈すごいんだけど…?ホントに大丈夫?
「本題はこっち。」とある部屋に案内された。
そこには紫っぽい髪色をした見るからに華奢な青年…?が眠っていた。

「綺麗な髪色…」

「ね。目もガラス玉みたいでキレイだよ」

(そんな顔できるんだ)
神野はものすごく柔らかい笑顔と眼差しを彼に向けていた。ずーっと1緒にいる私にはそんな眼差し向けてくれたことなんて1ッッ回もないんだけど?????
まあいいんだけどさ…いいんだけどさ…

「ただ眠ってるだけみたいなんだけど…2日もこのまんまだから心配で…」

どうやら神野は家にいられる間は頻繁に彼の様子を確認しているようだ。

(そりゃよくは寝られずに隈できるよね…)

「うぅ…」
呻くような声がしてバッと布団の方に顔を向ける。
布団の中で彼が魘されていた。目には涙が浮かんでいる。

「愛斗さん!」

小さく神野が叫び,側によって軽く体を揺すると彼が目を開けた。
グレーなような透明に近い薄い青のような…神野が言うようにとにかくガラス玉のような綺麗な目だった。

(キレイ…)
うっかり見とれてしまったがすぐに我に返る。
”愛斗さん”と呼ばれた彼は浅い呼吸を繰り返していた。

(過呼吸だな)
「大丈夫ですか?取り敢えず深呼吸しましょう!」
『彼の名前は?』
小声で神野に尋ねる。

『佐藤愛斗さん』
神野も小声で返してきた。

ありがとう、と目線で伝え彼──もとい佐藤さんに向き直る。
未だその呼吸は浅い。
彼の姿勢を前屈みぎみにさせる。

「佐藤さん大丈夫。今ここにあなたを傷つけるような人はいない。私も神野もあなたの味方です。ゆっくり呼吸しましょう。はい吸ってー…吐いて―…吸ってー…」

1度だけ佐藤さんが私を見て、すぐに自分の背中をさすっている神野を見た。神野の姿を確認したからか目を閉じ私の掛け声に合わせ呼吸をし始めてくれる。

段々と呼吸が落ち着いて、数分後には普通の呼吸になってくれた。
ただ、佐藤さんの目はどこか遠くを見ている。
その様子に気がついた神野は「愛斗さん?愛斗さん??」と呼びかけて不安そうに周りをうろちょろしてる。犬か。落ち着け?

「神野…おちつi」
動きを止めるように言おうとした時、急に佐藤さんが立ち上がってふらふらと部屋から出ていってしまった。
ばたばたと2人で追うとシャワーの音がして佐藤さんがお風呂に入りに行ったことがわかった。

「はぁ…」
デカいため息を付きながら神野がリビングのソファーに座った。
私も近くに転がっていたクッションを下敷きにして座る。

「状況はわかった。カウンセリングが必要そうなことも…」

「うん…さっき話した通り、あの人実の兄から性暴力受けてたみたいで…それに………あることがバレてから母親に無理やり家を追い出されたらしいんだ。1昨日、トラウマになってる事件の時にいたヤツにあったらしくて、それで過呼吸になったらしい…。」

「…あんたも相当参ってそうね?大丈夫?」

「…愛斗さん、初めて会った時自殺しようとしてたんだ。俺必死に止めてさ…なんとか連れ帰ったんだけど…1昨日さ『あんたが止めなきゃ死ねたのに…助けてくれなくてよかったのに!お前になんて会いたくなかった!』なんて言われちゃって…結構…精神的にキたんだよね……」

そう言いながらソファーに横になって両手で目を覆った神野。

「…佐藤さんが”本当”に言いたくてそんなこと言ったんじゃないのはわかってるでしょ?」

「…うん。でも”生きること”や”感謝”を強制しちゃったのはホントだからさ…」

「確かにそうだけど…あなたは間違ったことしてないよ。彼は多分今どん底に限りなく近いところにいる。だからあなたに当たってしまったんじゃないかな。でも”本心”は違うところにあるんじゃない?その言葉は彼なりのSOSサインかもよ?」

「…」

「彼を救えるのは今しかないんじゃないかって私は思う。そして今1番近くにいる私達がやるべきだとも思う。幸い私は超新米とはいえ精神科医だしね?」

「…」
たっぷり1分黙ったあと、神野は口を開いた。

「俺、愛斗さんを救いたい。俺なんかにできることは少ないかもしれないけどできる限りのことを精一杯やりたい!」

「…色々辛いことあるかもしれないけど大丈夫?」

「おう。」
そう答えた神野の声は力強く、強い意識が感じられた。

「私もやれることはやるからね。あと、これは”義務”じゃないし、あなたにすごい負担がかかること。1瞬でも『もう無理』って思ったらすぐ私に相談しなさい。いいね?」

「わかった」

「よし。取り敢えず今日は帰るわ。また明日か明後日辺りくるわね」

「ああ。ありがとう。」



■■

私はさっきずるい言い方をした。
神野に佐藤さんを救う”役割”を引き受けさせるような言葉を使った。わざと。
でも、佐藤さんを救えるのは神野しかいないと思う。

佐藤さん、神野を見た瞬間、安心した表情をした…)

「2人にいい未来が訪れますように…」

今はそう祈ることしかできなかった。私はまだ未熟だし、結局精神科医はすることしかできないから。





そして…私はきっと焦りすぎてたんだ。
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