京都大学という大学の皮を被ったニート養成所に救いの手を!

taka1gou

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第13話 妹と僕の出会い

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 僕は妹の綾奈の事が嫌いだ。顔を合わせるだけで気まずくなってしまう程に、アイツのことが好きではない。
 まあでも、妹のことが嫌いな兄というのも、今時珍しくはないだろう。兄妹が居る人なら恐らく満場一致で賛同してくれるだろうけれど、たいていの場合、兄妹が居るヤツというのは、その相手のことが嫌いだ。

 恋人や夫婦のように『お互いに好き合ってるから一緒に住んでいる』というわけでもなく、ただ『同じ親から生まれた』という理由だけで、同じ屋根の下暮らさなければならない。それもずっと永遠に。よくよく考えてみれば、それは中々にキツいことだ。だって恋人や夫婦なら、同居人は“好きな相手”であるわけだから、その生活に嫌なことなんて殆ど起きないだろう。むしろ楽しいことばかりで、幸せな生活を送れるに違いない。そしてもし、何かがあって相手のことが嫌いになったとしても、それなら別居すれば良いだけ。明日からは赤の他人だ。けれど、兄妹の場合はそうもいかない。
 相手がどんなに嫌なヤツだったとしても、顔を見るだけで吐き気を覚えるような邪悪な人間だったとしても、ずっと一緒に暮らさなければならない。なぜなら、家族だから。

 家族。それはある意味、人間を縛り付ける史上最も厄介な繋がりだ。歴史を見ればわかるように、その繋がりが原因で多くの血が流れてきた。
 どれだけ切りたいと願っても、無くなって欲しいと思っても、自分の体の中を流れる、相手と同じ血。それが決して、自分から家族という繋がりを断ち切ってはくれない。相手がどれほど憎くて憎くて仕方の無い、嫌いな相手だったとしても。

 そして……何より厄介でどうしようもないのは、血も繋がっていないのに”家族にさせられてしまう”という事なのかもしれないと、僕は自分の経験を通して思わざるを得ないのだ。

 僕が妹の綾奈と最初に会ったのは、僕が小学2年生の頃だった。それまで一人っ子として、父と母からの愛情を一身に受けていた僕の家に、4歳年の離れた妹、綾奈が突然やって来たのだ。

 当時のことは、今でもよく知らない。父さんと母さんは、綾奈がなぜ我が家に連れてこられたのか、それに関する詳しいことを僕に話してくれなかったのだ。わかっていたのは、綾奈は“遠い親戚の娘”で、しかし彼女の父母がわけあって綾奈を育てられなくなったので、養子として僕の家に連れてこられたと言うことだけだった。

 血の繋がっていない妹。きっと、“妹萌え”な展開が大好きな紳士諸兄からしてみれば、凄まじく羨ましい展開だろう。実際僕も、綾奈が我が家にやって来たときは、前々から欲しかった“妹”というものが出来て嬉しかったのを覚えている。
 けれど……期待に胸を膨らませていた僕に現実が突きつけられるのには、そう時間は掛からなかった。

『まるで綾奈の方がお姉ちゃんで、星矢の方が弟みたいね』
母さんは僕たち兄妹の事を見て、そう言った。
そう。僕は兄になれなかった。妹に頼られる、尊敬される、そんな兄貴になることが出来なかったのだ。
 綾奈は極めて優等生だった。優等生の中の優等生、キングオブ優等生だった。あの出来杉くんですらビンタ出来るような、途方もない良い子だった。
それまで一人っ子として甘やかされて育てられていた僕なんかとは違い、自分の事は全部自分で出来る、そんなしっかり者。大人の求める“理想の子供”だった。一方の僕はと言うと、掃除も洗濯も、何もかもを親に頼りきりで、生活はだらしなく、悪戯もしょっちゅうで、まさに大人の嫌がる“悪ガキ”だった。ネットとかでイキリ倒してるような、そんな性格最悪のクソガキだったのだ。
 理想の子供と悪ガキ。そのどちらが兄で、どちらが姉に見えるのか。それは考えるまでもないだろう。そして、そんな二人を前にしたとき、その親はどちらをより可愛がり、どちらを疎ましく思うのか。言うまでも無い。

 僕は次第に家で孤立するようになった。
 綾奈が褒められている隣で、それを羨ましそうに見る。かつて僕が受けていた親からの愛情を全て奪い去っていった綾奈のことを、恨めしく見るようになっていったのだ。
 綾奈の居る場所。本当は、そこは僕が居るべき場所なのに。僕が受けるべき愛情なのに。なんでアイツばっかり。突然僕の家に押しかけてきた他人のくせに。どうして。どうして。
 当時幼かった僕は、自分の悪いところなんて棚に上げて、ある意味『逆恨み』とも言えるようなそんな感情を昂ぶらせていた。僕が孤立していたのは、綾奈が来たからではなくて、自身が悪戯ばかりする悪ガキだったからだというのに。
 しかし幼さ故に、どうしたら良いのかわからなかった当時の僕は結局、そのイライラをさらなる悪戯や、綾奈への嫌がらせなんかで発散し、より一層家の中での立場を失っていった。

 けれど、そんな僕でも唯一、綾奈よりも優れていたことがあった。勉強だ。
 綾奈は確かに、とても“良い子”だった。けれど、真面目ではあったのだけれど、なぜか勉強だけはどうしても出来なかった。要領が悪い……とでも言うのだろうか? 頑張っては居るのだが、結果が着いてこない。そんな感じだった。反対に僕は、日常生活はだらしなかったけれど、勉強だけは出来た。
 いつもは妹ばかり褒めている親も、勉強に関してだけは、僕の事を褒めてくれたのだ。……いや、テストで良い点数ばかり取ってくる僕を“褒めざるを得なかった”と言うのが正しいか。今思えば。

 親から愛される妹が羨ましい。妬ましい。疎ましい。けれど、勉強だけは僕が勝っている。勉強に関してだけは、僕が愛情を独り占めできる。
 僕はそれに気がついた。だから、その“唯一愛される方法”を手放すまいと、勤勉に努めた。この日から、僕の勤勉な人生が始まったと言っても良いかもしれない。

 勉強だけに打ち込むのは、楽だったとは口が裂けても言えない。前にも言ったように、その所為で高校ではイジメを受けたりもしたし、友達も出来なかった。でも、それでも僕は良かった。少なくとも良い成績を取っている間だけは、両親に愛されていると感じられたから。そして僕は、親に愛されたい一心で受験戦争を突破し、ついには天下の京都大学に合格までした。

 この時僕は、二人の親が「きっととてつもなく褒めてくれるに違いない」と考えていた。なんせ京都大学なのだ。日本で三本の指に入るような大学。そこに入学した。褒められないわけがない。両親も僕の事を誇らしく思ってくれるに違いない。そう思っていた。
 そして、そんな考えを後押しする出来事もあった。綾奈が高校受験で第一志望の高校に落ちてしまったのだ。

 京都大学に合格した兄。かたや高校受験に失敗した妹。どちらを誇らしく思うのか、一目瞭然だ。きっと二人は、僕が京都大学に受かったと知ったら、喜んでくれるに違いない。褒めてくれるはずだ。もしかしたら、綾奈に向けていた愛情の全てを、僕に向けて方向転換してくれるかも知れない。
 僕はそう考え、夕食の席で、自分が京都大学に合格したと言うことを嬉々として家族に伝えた。もちろん、綾奈も居る前で。これから褒められるという高揚感と、それを嫌いな綾奈の前で見せつけられるという優越感で、僕は心を昂ぶらせて、家族に話をした。隣で肩をふるわせる、妹の姿にも気がつかずに。

 僕が報告を終えたとき、部屋はしんと静まり返っていた。そして……綾奈が泣き始めた。

 父さんは僕に「よくも綾奈の前でそんな事を……!」と、怒りに満ちた表情で言った。それに対して僕はなんと言ったかよく覚えていないけれど、きっと相当酷いことを言ったんだと思う。でなきゃ、いつも優しかった父さんが、僕の事を殴り飛ばしはしないだろうから。

 褒められると思っていたのに、賞賛の代わりに飛んで来たのは拳だった。理解できない鉄拳制裁。当然のことながら、僕はわけもわからず困惑した。そして、得体の知れない感情に襲われた。怒り……とは少し違う。哀しさと、恐怖と、何より悔しさがミックスされた、言葉にならない感情だ。
 僕はすぐさま立ち上がると、僕を殴り飛ばし肩で息をしていた父さんの顔を、思いっきり殴り返した。父さんは体勢を崩し、テーブルの上に並んでいた夕食を床にばらまきながら倒れたけれど、しかしそれでも感情が収まらなかった僕は、倒れた父さんに掴みかかった。
 でもそんな家庭内暴力も斯くやという修羅場を、綾奈の「やめて!」という叫びが、押しとめた。

「お願い……もう止めてパパ! 私は平気だから……! ごめんね、お兄ちゃん……私のせいで……こんな……こんな事になって……」
「……っ!」

 綾奈は泣いていた。涙を流し、でも、それでも平静を装おうと、必死に笑顔を浮かべていた。綾奈の気持ちも考えず、自分が褒められることしか考えていなかった僕なんかのために、笑おうとしてくれていた。

「おめでとう……お兄ちゃん! 私……嬉しい! 自慢できるお兄ちゃんが居て……くれて……」

そう言って綾奈は、涙をポツポツと流すのだった。
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