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「今……羽柴さんに会っちゃいました」

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*三上尚人side*

「あー、掴まんねぇ」


今日は朝から空振りばかり。
例の如く、カットモデルやってくれる人を探してる訳だけど…………

正直、羽柴さんがカットモデルしてくれてから後は、どう考えたってその上を行くような人は居なくて……
最高レベルの人をもう連れて行ってしまったから……今、苦戦してる…。

店長たちも、羽柴さんで目が肥えちゃってるとこあるから、連れて行く人のカッコいい度がすげぇ引き上げられた気がする…。

あーもう、腹減ったし………一旦店戻ろうかな……

って、思った瞬間……何となく見た、俺の横を走って行った車の助手席に乗ってた人が………めっちゃイケメンだった気がする……

信号待ちの為に速度を落としてたから、割と見えた。

何なら、羽柴さんに似てたような……
……ってか……もしかして…羽柴さんだったりして…?


俺は、何となくその車の方へ歩いた。

シルエットしか見えないけど運転席の人と何か話してる助手席の人……
近付いてみて、やっぱり羽柴さんだって分かった瞬間、俺は勝手に猛ダッシュしてた。

直ぐに気付いて窓を開けて、顔を出してくれた人………


やっぱり………


最高級レベルの美人………



「羽柴さんっ!?」


信号が赤の間に追い付いて、声をかけた。
すごく驚いた顔してるけど、どんな顔しても可愛いだけだよ、もう…


「やっぱり羽柴さんだ」


俺の言葉にビックリ顔から表情が緩んで、ペコッと頭を下げて微笑んでくれた。

マジでかわいいんですけどぉーーーっ!!


「この間はどうも」


叫び出したい気持ちを押さえて、平静を装って言った。


「ヘアサロンの美容師さんだよ、カットモデルの声かけてくれた三上さん」


羽柴さんが運転席を振り返り、その人に俺の説明をしてる。

気にはなってた。
男の人だったから。

俺は羽柴さん側で立ってるから、まだどんな人かは見れてないけど……さっき後ろから見えたシルエットで男だって分かる。

俺を美容師だと説明した羽柴さんの発言を、少し腰を屈めて「まだ美容師見習いですけど」と訂正しながら、運転席の人を窓越しに腰を屈めて覗き込んだ。






……………はい、出た。


これまた超イケメンだよ。


マジで…マジでカッコいい。


羽柴さんとはタイプ違うけど……


羽柴さんを美人とするなら、この人はほんとに「カッコいい」の一言に尽きる感じ。
誰が見てもそう言うだろう。


その、イケメン運転手が俺につられるように軽くお辞儀を返してくれた。


やっぱ……これくらいイケメンじゃないと、羽柴さんを助手席に乗っけるなんて事不可能なんだろうな……
ってか、こんな一般人を軽く超越してる2人が揃ってどこ行ってんだよっ!

とか、考えてるうちに、信号が青に変わった。
イケメンが車をゆっくり発進させる。


「あ、じゃあまた」

慌てたように羽柴さんが言う。


あっ、そうだ!聞きたい事あったんだっ!

「あっ、羽柴さん、バイト受かったんですか?」
「え、あ、はいっ」

質問が行き成りすぎて、またちょっとビックリ顔になってるけど……受かったんだ。

「良かった!じゃあ、また」

会話はそこまで。
前後の流れに乗って走り去って行く羽柴さんを乗せた車を、ブンブンと手を振って見送る。



……やっぱ違う。


やっぱり……今まで声かけて来た人の中であんなにキレイな人居なかったし……何なら俺が今までの人生で出会って来た人達の中でも……ほんとに一番美人だよ…。

男なのに……何であんなにキレイなの?



そして……


すんげぇ気になるんですけど……


運転席のイケメンは、誰なんだよぉーっ!!!



友達?
でも、羽柴さんよりは少し年上に見えたな…。


先輩?……それか…お兄さんっ?
すごくフレンドリーに話してたし……


あーーーっ、もうっ、考えるの止めたっ。


羽柴さんに会った事で、更にこの後カットモデルの声掛けが出来る気がしなくて、俺は一旦店に戻った。








店に戻ると、ちょうどお客さんを送り出してる所だった。

「ありがとうございました、お気をつけて」

店長が声をかけてる横に合流して俺も頭を下げて送り出す。

「店長」
「ん?」

次のお客さんの時間とカルテ確認のためにカウンターに入った店長に、さっきの事を話す。

「今……羽柴さんに会っちゃいました」
「えぇっ!?」

今やすっかり羽柴さんファンの俺ら全員は、毎日1回は誰かが羽柴さんの話題を出すほどだ。
特に店長はだいぶ羽柴さんの可愛さにやられてしまってるから、凄い勢いで俺の話に食い付いて来た。

店長の驚きの声が店内に響いて、店内に居た全員にチラッと見られてる。

「どこでっ」
「カットモデル探してて」
「歩いてたの?」
「いえ、車でした」
「車?」

羽柴さんが車に乗ってるイメージが沸かなかったんだろうな…。

「助手席に乗ってて」
「あぁ、」
「信号待ちで止まったんで、ほんの少しだけですけど話しました」

お前~っ、と心底悔しがってるし…。

「あと、もう1つ衝撃的な事があって、」
「何」
「運転してた人……めっ………………っちゃイケメンでした」

だいぶためてから言った。
その方が、イケメン具合を表現出来ると思ったから。

「え…そうなの?誰?」
「や、そこまでは…」

誰ですか、なんて聞けないし…。
今度もし会ったら聞いてみたいけど……

「やっぱ可愛かった?」
「はい、それはもう」

即答した。

「でも…カットモデルの日から少し日が空いたから、ちょっと分からなくなってましたけど……実際会うと想像してる以上に可愛いですね、やっぱ」
「マジでか…」

ほんとに悔しがってるよ…

「でも、店長…バイト受かったみたいですよ」
「ってことは、」
「ここの道、通りますね」

もう、俺ら、どんだけファンなんだよ、って言いたくなる…。


バイトに行く羽柴さんにもし会えたら……

話しかけて、もっと仲良くなって、連絡先交換したり………



ふと、あのイケメン運転手の存在が過る。

『ヘアサロンの美容師さんだよ、カットモデルの声かけてくれた三上さん』

……すごく緊張した感じで敬語で話す羽柴さんしか知らなかったけど……そのイケメンにはすごくフレンドリーにタメ口で話してて……


一言で言うとすごく羨ましい。


……そう言えば……俺の名前、憶えてくれてたな……


バイトは何時からなんだろう…

……しばらく、外の道を意識的に見てしまうかも……
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