laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「俺、今、お前を1人にする気にはなれねぇから」

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*三上尚人side *

羽柴さんは、あれからだいぶ落ち着いて……店長と俺が他愛もない話を振ったら、少しずつ話してくれるようになった。

…もう直ぐ、あの運転席の超イケメンがここへ来る。
……俺もあんな男前だったらなぁ……人生変わってたかもな…。

「羽柴さん、バイト夜なんだね」
「はい、5時から10時です」
「休憩はあるの?」
「30分だけ貰えます」
「しかし、羽柴さんが工場でバイトとはなぁ~~」

それ、一番意外ですよね…。
箱作ってるって…………イメージが合致しない。

想像だけど、すんげぇ一生懸命やってそうで何か見て無いけど萌える…。

「一緒に何人か入ったんですけど、俺…多分一番慣れるの遅かったと思います…」

……しゅんとしちゃって、そんな顔も可愛い。
とにかく、全面可愛いよ…。

1日中見ていたい。
……店長もデレデレしっ放しだし……

羽柴さんに元気を出して貰いたいって言う、その気持ちだけで色んなネタを引っ張り出して話を振った。
黙ってしまうと…さっきの出来事を思い出して、また辛くなってしまうと思ったから。

そんな会話でも、少し羽柴さんを知れた気がして、何となく嬉しくなる。




15分くらい話した所で、店の前の道に1台の車が横付けされた。

ハザードを出して停まったその車の運転席が直ぐに開いて、降りて来た人影はそのまま迷う事なく入り口のドアを開けた。

開いたドアの方を振り返った羽柴さんが、突然立ち上がる。

「侑利くんっ、」

侑利くんと呼ばれたのは、この前見た通りの超イケメン。
しかも、上着は羽織ってるものの、仕事の服なのかカチッとしたのを着てて、イケメン度が3割くらい増してる。

羽柴さんは、入って来たばかりの『侑利くん』に駆け寄り、思いっ切り抱き付いた。

……それを見て、俺は………正直ドキドキしてしまった。
……2人は……恋人同士なのかな、って……

推測だけど…。

羽柴さんとこのイケメンだったら、全然問題ないわ…
付き合ってるって言われたって…何か、納得…。

でも……本心は……


羨ましいような……悔しいような……


すんごい複雑…



『侑利くん』は、羽柴さんの体を優しく離し、俺達の方を見る。
イケメン過ぎて直視出来ないけど…

「すみません、慶がご迷惑かけました」

『侑利くん』が頭を下げる。
羽柴さんの事…「慶」って呼んでるんだ……

「いえ、全然。頭上げて下さい。俺らは何も」
「でも、こんな時間まで、」
「大丈夫ですよ、明日は定休日だしゆっくり出来ますから」
「ほんとに、ありがとうございました」

もう一度頭を下げたら、羽柴さんも一緒にお辞儀した。

「あ、そうだ…あの…俺、ここで働いてるんで、」

『侑利くん』が思い出した様にポケットから名刺を出して、店長に渡した。

「良かったら、今度奢らせて下さい」

……イケメンは…やる事もイケメンだわ……

羽柴さんを引き渡したら、もうここに皆で集まってる必要ももう無くて…。


「じゃあ…行くぞ」

羽柴さんが「うん」と頷く。
…羽柴さんは多分………いや、きっと、このイケメンのもんなんだろうけど………だけど可愛いもんは可愛い…。

2人を見送るために外に出ると、羽柴さんが立ち止まり振り返った。

「ほんとにありがとうございました。2人が居てくれなかったら……」

少し思い出したのか、そこまで喋って言葉に詰まった。

「気にしないで下さい。それより、大事に至らなくてほんとに良かったです」
「羽柴さんも疲れたでしょ。ゆっくり休んでね」

俺と店長が声をかけると…もう一度深々と礼をして、車に乗り込む。
イケメンも車の中からもう一度俺らに礼を言って、ゆっくりと発進させた。

とりあえず、車が見えなくなるまで見送り………店長と2人顔を見合わせる。

「……ね、超イケメンでしょ?」
「……イケメンにもほどがあるわ」
「付き合ってんですかね」
「……知らねぇよ」
「店長………飯でも行きましょうか」
「…そうだな」

このやるせない気持ちは何だ…。
お姫様をヒーローに持ってかれた、みたいな…。

やけ食いでもすっかな。






*侑利side*

しばらく走ってレンタルビデオ店の駐車場に入る。
別に、何かをレンタルしに来た訳じゃない。

…とにかく、隣でずっと俺の腕を掴んでる慶を、ひとまず抱きしめたかったからだ。

サイドブレーキを踏み込むのを待ってたかのように、靴を脱いだ慶が運転席の俺に跨って抱き付いて来た。

ハンドルが邪魔で狭くて……咄嗟にシートを一番後ろまで下げる。
外から見られるかも知れないけど、そんな事どうでも良かった。

「何…された」
「……手首……掴まれて痛い…」
「他には?」
「壁に……押し付けられて……触ろうとして来た……」

マジでそいつぶっ殺したい。

慶がギュウギュウ抱き付いて来る。
知らない男にそんな事されたら、誰だって怖いだろう……

「それだけ………後は、突き飛ばして……逃げた…………っ、ぅ……」

最後の方は声が震えて……泣き出してしまった。

俺もギュウギュウに抱きしめる。
とにかく慶の近くに居たかった。

その変質者の事は……腸が煮えくり返るくらい憎いけど……通り魔的な奴だったら、どこのどいつか見つけ出す事はきっと不可能だろう…。

「もうさぁ……遅くに1人で外歩かないでくれ。……バイト…昼間に出来ねぇの?」

昼間にしたからって変質者が居ない訳じゃねぇけど、人目があるからそういう事も夜よりは起こり難いだろう。

「昼間はやだ…」

慶が小さな声で呟く。

「……昼間にしたら……侑利くんとほとんど会えなくなるじゃん…」

そう思ってくれるのは嬉しいけどさ……

「一緒に住んでるのに、会えないとか……無理だもん」

だもん、じゃねぇよ…。
くそ、可愛いなぁ、お前。

とは言え、俺も正直なところ、慶と会えないのは無理だ。
帰ったら寝てて起きたら居ない、とか、何日も続いたら、発狂するかも。

「じゃあさ……せめて歩き止めて自転車にしろよ。とにかく、歩きはもうダメだ、許さねぇ」

ただの思いつきの犯行だったとしてもだ……そんな事があった所を、同じように歩いて通らせるような寛大な心は、俺には無い。

時間が許すなら毎日送迎してやっても良いとさえ思う。

「……うん…分かった…」

俺の肩に顔を埋めてた慶が、素直に頷いた。

「明日、自転車買いに行く」
「…うん」

素直に返事するのが可愛くて頭を撫でる。

「携帯……画面が割れちゃった…」
「…そっか」
「落としちゃって……」
「そんなのすぐ直るよ」
「…ごめんね」

謝る事じゃねぇよ。

「…心配させてごめんね」

また、謝る。

狭いシートで向かい合う形。
外から見たら、何やってんだよ、って思われるだろうな…。

「謝んなくていい。お前が無事だったからそれでいい」

また、慶の目に少し涙が溜まって来てる。

「侑利くん………大好き」

そう言って、慶は俺にキスをした。










BIRTHに到着。
45分くらいで帰って来れた。

慶は、車で待ってるって言ったけど何か心配だし、ましてや車の中で1人なんてさ……
とにかく、慶を夜に1人で置いとくのは危険だって事が分かったから……BIRTHに連れて入った。

…ってか、元々そのつもりだったし。
終わるまで車で待たせるような発想は俺には無かった。

遠慮しいで緊張しいの慶が言った事だ。


裏口のドアを開けて、とりあえず上着を脱ぎに休憩室に入る。

「お~、侑利…………って、慶ちゃんっ!?」

横になって休憩してた巴流が飛び起きた。
その声に、テレビを見てた奏太も振り返る。

「え、慶ちゃんっ??」

飲み会以来の2人に、慶はまた少し緊張した感じで…

「お久しぶりです…」

丁寧に頭を下げる。

「え?どしたの?」

…って、なるわな、そりゃ。

「や、ちょっと、かくかくしかじかで」
「いやいや、分かんないですけど」
「その、かくかくしかじかの部分を言ってくれ」

2人に順番に突っ込まれた。

「バイト帰りに、ちょっとトラブル発生」

上着を脱いで自分のロッカーに入れる。
休憩時間超過させて貰ってるから、直ぐにフロアに戻らないと……

「トラブルって……大丈夫なの?慶ちゃん」
「あ、はい、侑利くんに迎えに来て貰って…」

心配そうに聞いて来た奏太に慶が答える。

「慶ちゃん、髪切ったんだね~。美人度が増してる~~」
「あの…カットモデルしませんか、って声かけて貰って」
「え?カットモデル?すご~い」
「無料で切ってくれるって言われて、そ、それにつられました……」
「あっはは、慶ちゃん、素直~」

慶と奏太は楽しそうに話してる。
さっきあった事で、少なからずショックを受けていたであろう慶には、奏太との何気ない会話が沈んでる気持ちを少しでも引き上げてくれるだろう。


「大丈夫か?」

巴流が隣に来て、楽しそうに話してる2人を背に小声で聞いて来た。
きっと巴流も心配してくれてんだろう……途中で抜けて迎えに行くなんて、滅多に無い事だしな…。

「あぁ、サンキュ。大丈夫。ちょっと…変な奴に何かされそうになったみたいでさ、」
「えっ、…何それ、知ってる奴?」
「や、知らねぇみたい」
「…そりゃ、怖いな。慶ちゃん、大丈夫なの?」
「なんとか」
「そっか」

巴流はそれ以上は聞いて来なかった。

俺は、慶を通路で待たせてフロアへ戻った。
フロアへのドアを開けて直ぐがカウンター。

もう一度、桐ケ谷さんを裏へ呼び、慶を桐ケ谷さんに紹介した。

「あの、…羽柴慶と言います。宜しくお願いしますっ、あの…き、急に来てすみません」

いつもの硬い挨拶をした。
硬さが面接みたいでいつも笑いそうになる。

「あ、店長の桐ケ谷です。こちらこそ宜しくね。えっと…ちょっとだけ聞いたけど…大変だったね」

慶が少し困った表情で頷く。

「うちは全然構わないから、侑利終わるまでゆっくりしてってね」
「…あ…ありがとうございますっ、」

しっかりとお辞儀をする。
俺は慶の、こんな風に真面目でちゃんとしてるところも、実はすげぇ好きだ。

「無理言ってすみませんでした」
「いやいや…そんな事より……めっちゃキレイでビビったわ」

チラッと慶を見ると、やっぱりブンブンと首を振って超謙遜してる。
ネガティブなんだよ、そういうとこ。

「うちに居たら間違いなくトップだわ」
「あー…緊張でロボット化するんで多分無理ですね」
「あははっ、そうなの?」

そこへ、休憩が終わった奏太と巴流が来て話に混ざる。

「慶ちゃん、最後まで居るんでしょ?」
「…あ…はい」
「店来たの初めてだもんね、カウンターに居なよ」
「…でも…」

慶が困ってる。

「あぁ、カウンター空いてるよ」

桐ケ谷さんもそう言ってくれる。

「じゃあ、そうさせて貰います」

俺が返事する。
慶はちょっと困り顔だけど、カウンターに居てくれたら1人になる事は無いし、俺も構えるし。

平日でこの時間だから、今はそこまで混んでないしな。


フロアに出ると、慶は初めて見るBIRTHの雰囲気にちょっと戸惑ってた。
多分…こういう店に来るのも初めてだろう。

「慶、こっち」

カウンターの一番端っこの席に呼ぶ。

「ここ座ってろ」
「あ…うん」

慶は、カウンターのスツールに腰掛ける。

「侑利くん」
「ん?」

慶が小さく手招きする。

「裏で待ってても良かったのに……ここに居て良いのかなぁ、侑利くん仕事中なのに…」

そういうとこ真面目だな…ほんと。
心配そうに言う。

「ここに居てくれた方が良い。俺、今、お前を1人にする気にはなれねぇから」

俺がそう言うと、慶は少し恥ずかしそうに「ありがとう」と言った。

「あ、そうだ、何か食うか?」
「え、」
「腹減ってるだろ?」
「…あぁ…うん」

メニューを差し出す。

「何でもどうぞ」
「…良いの?」
「良いよ」

フードメニューの多さにちょっとテンション上がってるし……

「どうしよう……ん~~……」

すんげぇ悩んでるじゃん。

「……この時間だから……あんまり重たいのも……ん~~~…と…………じゃあ、これにする」

慶が指さしたのは、ホットサンドだった。
中身が玉子、ベーコン、コールスローっていう王道級のやつで、俺もたまに食べる事がある。

「美味いよ、これ」
「だろうね~」

ホットサンドの写真を見て、嬉しそうに言う。
ほんと単純だよね、お前って…。

メニューを指差した慶の手の甲には、変質者に掴まれた痕が少しだけ残ってる。
明日には消えるだろうけど……ほんとに、そんな事があったんだな、って改めて思う。

「ちょっと待ってな」

慶にそう言って厨房に入る。
健吾は今日も出勤。

「健吾、ホットサンド1つ。俺につけといて」
「ん?誰に奢んの?」

…食い付いて来たし。

「あぁ…えっと、…今来てる」
「誰が」
「この前話した、」
「ん?侑利のっ?」

そういうとこの理解は早い。
めっちゃキラキラし出したし……もうこっち歩いて来てるし。

見る気満々過ぎんだろっ。
調理そっちのけかよっ。

「ちょっと、まず、挨拶を」
「いやいや、見たいだけでしょ」
「まぁ、そうだね」

グイグイ来るじゃん…。

健吾は、何なら俺よりも先にカウンターに出た。
慶はきっと、ロボット化するだろうな…。

「慶」

メニューを見ながら大人しく座ってた慶が顔を上げて、俺の隣の健吾を見て想像通り固まった。

「あ、初めまして、一ノ瀬健吾です」

健吾がそう言うと、慶は急いでスツールから飛び降りて、真直ぐ立った。

「あの、羽柴慶といいますっ、えっと…宜しくお願いしますっ」

深々と頭を下げる。
もう、これ、何回も見たけど……こんな深いお辞儀する奴いねぇよ。

慶のお辞儀が思いの外深かったからか、健吾も慌ててもう一度お辞儀してる。

「…はは…硬ぇ……可愛いな」

後ろで、その様子を見てた桐ケ谷さんがちょっとウケてる。

「もうロボット化してますね」
「あ、もう?」

桐ケ谷さんに説明する。
俺はこの感じ見慣れてるけどな…。

「健吾が厨房のリーダー」

そう言うと、慶は羨望の眼差しで健吾を見る。

「あ、座ってね」
「あ…はい」

ずっと立ってた事に気付いて、少し恥ずかしそうにスツールに座り直してる。

「侑利から話聞いてるよ。モデルみたいに美人だって言ってた」
「何で今言うんだよっ」
「良いじゃん、マジですっげぇ美人。俺の想像をだいぶ超えてるわ」
「…そりゃ、どうも」
「どハマりすんの分かるわぁ…」

慶は驚いた顔をして俺と健吾のやり取りを見てる。
俺は健吾の体を無理矢理厨房の方へ押し遣る。

「ホットサンド1つだよ、早く」

念押しして、健吾を厨房へ押し込んだ。
桐ケ谷さんは、俺のそんな様子が可笑しいんだろう……ずっと笑ってる。

「……侑利くん」
「ん?」
「……モデルみたいに美人だって?」

嬉しそうな顔して聞いて来る。

「あぁ……言ったかな、そんな感じで」

ボヤかしてみたけど……そのニンマリ顔止めろ。

「えへへ…」

えへへ、じゃねぇよ。

「飲み物、何にする?」

強引に話を変えた。

「飲み物はぁ………」

また、う~ん、と悩みながらもグレープフルーツジュースを選んだ。

「侑利、これ頼む、SP」
「はい」

桐ケ谷さんに料理を運ぶよう頼まれる。
SPと言って来る時は、過去に俺を指名した事のあるお客さんって事。
業界用語とかじゃなくて、単にspecialの「sp」ってだけ。

指名してくれるお客さんは、単純にそのスタッフを気に入ってる訳で、オープンして指名される事が多くなって、誰ともなく言い出したのがこの「SP」っていう言い方。

BIRTH内用語だな。

桐ケ谷さんは、大抵の常連さんの事を覚えてるから、顔を見ただけで誰贔屓かって分かるみたい。

基本、アルコールの注文はみんなカウンターに来るから、いつもカウンターに居る桐ケ谷さんはそれで覚えてしまうって言ってた。

俺たちもそこそこは覚えてるけど……全員とまではいかない。

実際、かなり前に来た人とかだと、思い出すまでに時間がかかったりする事もあるから、前にも会ったのに初対面みたいな反応したらマズいだろ、って事で、一応分かる範囲でSPと付け足してくれるようになった。

「ちょっと行って来る」

一応、慶にそう言ってから、カウンターを離れた。
慶は少し不安そうな顔をしてたけど……桐ケ谷さんも居るし、もうすぐ健吾がホットサンド作って出て来るだろうし、奏太や巴流だっているから、なんとか大丈夫だろう。

ってか、こんな心配までしてやるって、俺ってどこまで優しい男なんだ…。
きっと、こういうのが今までの俺のキャラに無くて、周りはみんな面白いんだろうな……

慶にやられてしまってるのが、前面に出てんだと思う…。


注文を運んだ先に居たのは、2ヶ月くらい前に指名してくれた人達だった。
結婚式の二次会帰りで、服がそういう感じで目立ってたからよく覚えてる。

「こんばんは、お久ぶりです」
「あっ、久我くんだぁ~」

賑やかな、4人組女子。
確か、俺と同い年。

「この前と雰囲気全然違いますね」
「あははっ、この前は思いっきり盛ってたからね~」

楽しそうによく笑う。
女子が4人も集まればそりゃ意味も無く楽しいだろうな…。
キャイキャイしてるしさ…。

「平日なのにこんな遅くまで大丈夫なんですか?」
「あと1杯だけ飲んだら解散しようって言ってて」
「来てみたら、前と雰囲気変わっててびっくりしちゃった」
「リニューアルオープンしたんです」
「メンバーは一緒?」
「はい、それは全員一緒です」
「黒瀬くんは今日居ないんだね~」
「あ、今日休みです」
「残念~~。久我くんと2人揃ってんの見たかった~」
「久々見てもやっぱりめっっちゃカッコいいね、久我くんて」
「……思いっきりはっきり言いますね」

しっかり、カッコいい、って言われたら、何て返事して良いか分かんないんですけど。

「え~、だって、居ないよ~私たちの周りにこんな男前」
「っていうか、スタッフ全員カッコいいよね、ここ」
「さっきトイレ前で会ったスタッフの人もカッコ良かった」

カッコいいってワードで推測するに、多分巴流かな。

少し話してカウンターに戻ると、慶の前に健吾と奏太が立ってて、すごく困った風にホットサンドを食べてる慶が見えてちょっと笑いそうになった。

食べ辛いわなぁ、そりゃ…。
俺が戻ると、救世主を見るような目で慶が俺を見て来た。

「あんまり緊張させないでやってくれ、フリーズするわ」
「あっははは、そんな緊張しなくてもっ」

健吾は社交的だ。
他のスタッフはあんまりしないけど、健吾は厨房の手が空いたらこうやってカウンターに出て来てお客さんと喋ったりしてる事もある。

料理好きなお客さんとは男女問わず盛り上がってる時もあったり。

ただ、今はとにかく慶に興味があって仕方ないらしい…。

「美味いだろ?」
「うんっ」

俺がそう言うと、嬉しそうに即答する。

「慶ちゃん、細いからどんどん食べなよ」
「ほんと、すんげぇ細いね。ほんとに女の子にしても良いわ」
「一ノ瀬さん、気に入ってんですよ、慶ちゃんの事~」
「や~、侑利と出会って無かったら俺が出会ってたわぁ」
「何だそれ」

健吾の脇腹を軽くパンチしてやった。
慶は何を言って良いか分からず、ハムスターみたいにただひたすらもぐもぐ食ってるし。

やっぱ、何か、お前が可愛くて仕方ねぇわ、俺。
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