laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

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「好きだ……やっぱり……忘れられない」

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*工藤side*

岬さんに話してから数日……少し気持ちは楽になったものの……やっぱり羽柴くんへの気持ちが冷めるような事はまだ無くて…

時間はかかるだろうとは思ってたけど、自分の想像以上に長くかかるかも知れないって……どっかでは気付いてる

……どうしても手に入らないって思うから……余計に、気持ちばかりが大きくなってる気がする…。


今日だって……


「羽柴くん、これ持ってって大丈夫?」

羽柴くんの後ろに置かれてる、完成品が入ったコンテナ。

「あ、はいっ、大丈夫です。こっちもあと少しで一杯になります」

可愛らしい笑顔で返してくれる。
きっと、普通に接しようとしてくれてるんだろう……優しいもんな、羽柴くんは。

俺にあんな事されて、諦めるから、とか言われても……普通で居られる訳ないよね…。
ずっと……休憩も誘えていない………何となく気まずくて、俺が時間を業とずらしてる。

「あ、じゃあこっち先数えてるから一杯になったら言って」
「はい」

コンテナの数を数えながら、何気に羽柴くんの後ろ姿を見る。

仕事中は上着はもちろん脱いでるから、華奢な体がすごく分かる。
無意識に、細い首や手首を見ちゃって……勝手に変な妄想したりして……もう、俺病気かもって思う…。



「工藤さん、これ、出来ました」

そう言って、羽柴くんが満タンになったコンテナを俺の隣の床に下ろした。

「よいしょ、っと」とか、可愛い掛け声とは逆に、隣で低い姿勢になった襟元から少しだけ見えるキレイな首のラインが、色っぽいなって思う。

ずっと着けてるネックレスと……いつも羽柴くんから香る少し甘い匂い。

柔らかそうな焦げ茶の髪に……触れてみたい、って衝動的に思った自分を急いで打ち消した。

「ありがと、じゃあ一旦持って行くね」

コンテナを運び出しながら……羽柴くんの全てを自分の物に出来る彼に、やっぱり…嫉妬心が沸いてる事に気付く…。



*侑利side*

年始の休みが終わり、今日からまた仕事が始まった。
年が明けて初めての営業って事で、今日は全員出勤。

開店準備も終わって、オープンまでの自由な時間。

「久我さんっ」

呼ばれて振り返ると、嬉しそうな顔で奏太が立ってた。

「どした?」
「慶ちゃん何か言ってました?」
「何かって?」

楽しそうに、奏太とのランチの事を話してはくれたけど…

「友達として前進するために、慶ちゃんに敬語止めて貰いました」
「あ~、言ってた言ってた」
「奏太さん、っていう呼び方も変えて貰おうと思ってるんですけど、一気に言うとパニクっちゃうと思ったんで、止めときました」
「はは、そだな」

確かにな、一気にはアイツには無理だわ。

「でも…僕、ほんとに慶ちゃん大好きだから、ランチ誘って良かったです。久我さんの色んな話聞けたし~」
「何だよ、その顔」
「あはは、何でもないで~す」

どうせ、俺と天馬のダメ出しして盛り上がったんだろ…。

「あと…あの…」
「ん?」

ちょっと真面目な顔して、俺に一歩近付いた。

「職場の工藤さんって人の事も聞きました」
「あぁ、…」
「…僕も、警戒した方が良いって言いました。何かすごく本気っぽいし…」
「…ん、」

工藤は俺にはあんな風に言ったけど、毎日会ってたら忘れるなんて事出来ねぇだろ…。

「その人……大丈夫なんですか?」

奏太が不安そうに聞いて来る。

「大丈夫って…思うしかねぇけど…」
「心配ですよね…僕でもこんなに心配なんだから…久我さんなんか、もう大変ですよね…」

まぁ、そりゃな。
毎日、今日は何も無かったかって聞いて…安心する…みたいな。

「あまり続くようなら、久我さんが慶ちゃんに言ってるように、バイト変わるのも良いって僕も思います。慶ちゃんは、頑張りたいって言ってたけど……何か…あってからじゃ遅いし、何かあるかもって心配しながら続けるのもしんどいし…」

奏太は慶の事をこんなに心配してくれてんだな、って改めて嬉しく思う。
こんなに自分を思ってくれる奴が居るなんてさ……慶はきっと、泣いて喜ぶだろうな。

「今日、もっかい慶に話してみるわ。…心配してくれてありがとな」
「…はい」

奏太は不安一杯の顔してるけど、笑顔で頷いた。




*工藤side*

今日も…休憩は誘えなかった。
何となく……距離を置いてしまって……ここ数日、仕事中の話くらいしかしてないな…。

さっき、タイムカードを押しに事務所に来たけど、俺は取引先との電話中だったから何も声をかける事は出来なかった。

……羽柴くんは、明日は休みになってるから……今日はもう会えないだろうから、次会えるのは明後日だな……

等と考えながら、岬さんに頼まれた去年のデータの資料を取りに資料室へ行ってた時……


裏出口の方から、聞こえて来た声……



「終わったよ~」



優しくて可愛い声…。

羽柴くんの声だ。

俺は、出口手前の通路の壁際に立って…何となく、様子を伺う。


「うん……そう、…けっこう降ってるよ」


電話してる。
会話の相手はきっとあの彼だろう。

工場からは外の様子はほとんど分からないから、ここまで来て雨が降ってる事に気付いたんだろう。
天気予報でも、今日は雨とは言って無かったと思う。


「何も持って無いし……うん……大丈夫、ちょっと待ってみる」


俺には見せる事のない、緩く砕けた口調。

立ち聞きなんて悪趣味だし……聞いてどうするんだって思うけど……何処かへ去ろうなんて考えは俺の中に浮かんで来なかった。

どんな風に、何を話すのか………聞きたい…。


「侑利くん、何してるの?……うん……え?…そうなの?……いいなぁ~、今度作ってよぉ~、」


そうだ……
羽柴くんは彼の事を「ゆうりくん」と呼んでいた………やっぱり、電話の相手は彼で間違いないみたいだ…。

すごく甘えてるような………いつもとは違う…彼だけに聞かせる声だ。

俺は絶対…聞く事のない声。


「今日遅いの?……ううん……早く会いたいし……うん、……それぐらいなら起きとくよ~、」


……何か……一気に体が熱くなった。

彼は、羽柴くんに会いたい等と言って貰えるんだな…って……どうしても、俺の中に……沸々としたものが湧き上がって来る。

彼の帰りを起きて待つんだって思ったら……こんなに好きになった気持ちを押さえつけないといけない俺がすごく惨めに思えて……



「侑利くん…大好き」



心臓が思い切り大きく鳴った。


これは正直………聞きたく無かった。


俺の気持ちが、完全に無視されてるような……俺だけが空回りしてるような気がして……


「大好き」だなんて簡単に言って貰える彼に対して……苛立つ感情と……
俺には「ごめんなさい」と言ったのに、彼には「大好き」と簡単に言ってしまう羽柴くんに対する……俺の中の黒い感情が……この一瞬でグチャグチャに混ざって……


もう、ダメだと思った。


彼しか見て無い羽柴くんに……もう一度、気持ちを伝えたい。

少しでも……俺を見て欲しい……今だけでも……って……


叶いもしない妄想を…羽柴くんにぶつけようとしてる……



何となく…


止まれない気がした。



「うん、気を付ける、会社出たらまた連絡するね~」



嬉しそうな…楽しそうな……幸せそうな声を彼に向ける。


こんなに…好きになってしまってるのに…諦めるしかないなんて……不公平なんじゃないか……

後から好きになったから、諦めないといけないなんて決まり…どこにもない……。



年末からろくに……普通の会話も出来てない事へのストレスもあって……毎日苦しいばかりで……



俺はやっぱり、もう……



止まれなくなっていた。



「羽柴くん、」


彼との電話を切るのを待って静かに近付き後ろから声をかけると、俺が居る事に気付いて無かった羽柴くんは、ビクッと肩を竦ませて急いで振り返った。

何か言いかけた羽柴くんが声を発する前に、その腕を掴んですぐ目の前の来客室に引っ張って行った。

「ど…どうしたんですか…?」

押し込む様に部屋に入り、俺がドア側に立つ。
つまり俺を退かせないと出られない様に…。

照明は点けない。

来客室は、駐車場の街灯の灯りが差し込むだけで、暗くて…表情はほとんど見えない。

掴んでた腕はそのままで詰め寄り、羽柴くんの体ごと来客室のテーブルに押し倒す。
勢いでテーブルごと少し後ろにズレて……その揺れでテーブルに置いてあった灰皿やティッシュが床に落ちて派手な音を立てた。

「工藤さんっ…止め、」

止めて、と言いかけた羽柴くんの口を、前触れなく自分の唇で塞いだ。

俺はもう、最低最悪の変態野郎に成り下がった。
もう、誤魔化しも、後戻りも出来ない。

完全に欲望が勝ってて………ここが会社だろうが…このまま羽柴くんを自分のものにしてしまいたい、って……強く思った。

キスを解こうと暴れようとする羽柴くんを力で押さえつける。
ラグビーで鍛えた俺の体格と力は…羽柴くんには到底解けるものではないだろう。

「…やっ、……だ……止め……」

逃げようとするその顔を抑えて、再び唇を奪う。
自分がやってる事の重大さよりも……羽柴くんとキスをしてるっていう現実が…俺の正気を奪って行く。

「好きだ……やっぱり……忘れられない」
「嫌だっ、い、…っ、嫌……あ…」

嫌だ、と繰り返す羽柴くんの呼吸がだんだん乱れて来てる。
必死に俺を押し退けようとして来る。

街頭の灯りで……時折見える表情。
恐怖で引き攣ってるし、辛そうに…苦しそうに、泣いている。

こんな事してる自分を……客観的に見てる自分も居て……

もうこれで……羽柴くんとは完全に終わったな、とか…
こんな事して、会社にも居られなくなるかもな…とか…

案外冷静に考えてる自分が居て驚く。

俺の下で、恐怖に震えてる羽柴くんが居ると言うのに…。

キスを首筋へずらす…。
羽柴くんの甘い香りを直に感じて……こんな状況なのに、俺は酷く高揚していた。

「止めろっ、」

羽柴くんの絞り出すような声。
俺を完全に……拒絶してる声だって分かる。

だけど……俺はもう…ブレーキがぶっ飛んでしまって……止まれない。

羽柴くんは必死で暴れてテーブルの端まで動き、そのまま床に落ちた事で俺から体が解放された隙を狙って、ドアに向かって走り出そうとした。

けど……きっと、体が震えてて力が入らないんだろう……その体は俺に簡単に阻止されて……苦しそうな呼吸と嗚咽が静かな部屋に響く。

俺はそのまま羽柴くんを床に押し倒した。
逃れようとする羽柴くんの体を押さえつけて、またキスをする。

せめてもの抵抗なのか、キスを深くされないように羽柴くんは必死で歯を食いしばってる。
隙あらば顔を左右に振って、どうにか俺を退かそうとしてる…。

チャリ……と、小さな金属音。
羽柴くんのキレイな首に光ってたネックレスのチェーンが千切れて落ちた。

それに気付いた瞬間、羽柴くんの目から一気に大量の涙が零れ落ちた。
……きっと……彼からのプレゼントだったんだろうな、とか……こんな時まで考えてしまう。


俺のやってる事は、きっと強姦だろう…。

相手が女の人じゃないってだけで……多分犯罪レベルだ…。

「羽柴くん…好きなんだ…すごく…」
「嫌だっ、…お、俺は……すっ、好きじゃないっ…もう、や……っ、止めて………」

好きじゃない、って……はっきりと言われた。
そりゃそうだよな……こんな事…許される訳ないよ……

「…苦し、…お願い……っ、は……止めて……」

羽柴くんの呼吸の仕方がおかしいと気付いたのは……この時だった。
苦しそうだとは思ってたけど……明らかに……変だ。

ちゃんと…呼吸出来てない………って思った瞬間……


「工藤くんっ!!何やってんのっ!!」

部屋の照明が点いたと同時、突如として別の人の声…………岬さんだ。
きっと、資料を取りに行った俺の帰りが遅いから、見に来たんだろう。

岬さんは俺の体を押し退けると、どう見ても変な呼吸をしてる羽柴くんの体を起こす。

「羽柴くんっ!大丈夫っ?…ちょっとこれ、過呼吸じゃないのっ!?」


…岬さんに言われて……ハッとした…。

……俺は……何て事をしたんだ…ってこの時初めて……思ったんだ…。


「工藤くんのバカッ!!何でこんなっ…!」

岬さんは苦しそうに息をしてる羽柴くんの体を摩りながら、部屋にあった会社の大きな封筒を広げて袋代わりに羽柴くんの口元にあてる。

「大丈夫、大丈夫…ゆっくりね…」

そう言いながら震える羽柴くんの背中を摩り続けた。

俺はただ………その様子を呆然と眺める事しか出来なかった。




*侑利side*

「久我さん、そろそろ行きます?」
「あぁ、そだな」

奏太と一緒の休憩だったから、色々話してた。
この前、慶と行ったランチの話とか、天馬とのケンカとか、その他も色々。

奏太は天馬があんまり嫉妬しても態度に出してくれない、とか言ってたけど、俺と話す時はだいたい天馬は奏太の話だし、俺には敵わないけどそこそこ嫉妬する方だな、って思ってたから、奏太が満足するように態度に出すにはきっと俺ぐらいのレベルじゃないと無理だな、とか考えた。

まぁ、俺は、自分でも完全に嫉妬の塊だって認めてるけどな。

立ち上がって伸びをする。
つられて奏太も同じように伸びをして、2人で部屋を出ようとした時…………また、俺の携帯が鳴った。

画面は、慶からの着信を表示してる。

雨が上がって、会社出たって連絡だろうと思った俺には………衝撃的すぎる内容の電話だった。


電話は慶のふんわりした声じゃなく………慶の会社の事務の女性。


その女性は、俺に信じ難い内容を告げた。





工藤が慶に手を出した。


無理矢理。


慶はショックで動けないから、迎えに来て欲しい……と。





「…久我さん…?」


電話を切った俺の様子が明らかにおかしい事に気付いたんだろう。
奏太が心配そうに俺を見てる。


「奏太……遅かったわ」

「…え、?」


何かあってからじゃ遅い、って……話したばっかだもんな……。


俺はこの怒りを……抑えられる自信がねぇ。



それだけ言って休憩室を出た俺を、急いで奏太が追って来てるのか背中で分かった。

俺は、フロアに戻り桐ケ谷さんの所まで歩く。

「…お、…侑利?」

桐ケ谷さんは、俺の顔を見てきっと何かあったって察したんだろう。
俺の腕を掴んで、カウンターの端の余り客が居ない所へ引っ張って行く。

今、奏太から俺の事を聞いたであろう天馬も、近くまで来て様子を見てる。


「どした」

桐ケ谷さんの方から聞いてくれた。

「…すみません、ちょっと抜けます」
「お前…大丈夫か?何があった?」

きっと酷い顔してんだろうな、俺。

「会社の上司が…無理矢理、慶を……」

桐ケ谷さんが眉間に大きく皺を寄せた。
天馬も、絶句してる。

「慶を迎えに来て欲しいって、会社の事務の人から電話がありました」

発した俺の声は……震えていた。
……怒りが……頂点を超えてるのが分かる。

「分かったけど、無茶はするなよ。俺はお前を大事に思ってる」
「…分かってます。…すみません、行って来ます」

そう言って、行こうとした俺の背後で…

「天馬、一緒に行って来い」

という、桐ケ谷さんの声が聞こえた。





「侑利、俺の車な。今のお前には運転させらんねぇ」

天馬がそう言って、自分の車の方へ俺を呼ぶ。
…俺は素直にそれに従って、天馬の車の助手席へ乗り込む。


しばらく……無言で走った。

なんとか冷静を保つために、湧き上がる怒りを鎮めるように深呼吸を何度かしたが……大して意味を成さない。


「天馬…」

「ん?」

「…アイツを1発だけ殴る。……だから…それ以上…俺が何かやりそうになったら、」

「止めりゃ良いんだろ?」

「………頼む」


自分では……止まれないって思ってる。

目の前にしたら……どうなるか分からない。



……やっぱり……忘年会の事があった時に……辞めさせておくべきだった…。

諦める、などと言ったアイツの言葉を、丸っきり信じた訳では無かったけど……だけど……どこかで……もう…忘れて行くんだろう、と思ってた。

今は無理かも知れないけど、その内……って…。


……慶は……どうしてるだろう……


俺との電話を切った、直ぐ後だ…。


……早く……顔が見たい…。
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