異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり

文字の大きさ
142 / 161
第八章 さけたなか 湯けむりはれる 魔界旅

第134話 早すぎたmein Sohn(まいんぞん)、ではなく再会

しおりを挟む
 ホムラに会うことを伝えると、すぐにリンフォンで連絡をした。
 そして、

「向こうも大丈夫みたいだな。んじゃ、行くか」

 と、いつも通り転移させられた。



 転移した場所は、いつものホムラの土地だった。

「それで、会わせたい魔族は、ホムラが迎えに行くのか?」

「いんや、あいつも転移が使えるからな。少し待てば来るはずだぜ」

 転移が使えるってことは、強い魔族ってことだよな。
 最近会う魔族のほとんどが転移を使えるから、忘れがちになるけど。

「おっ、来たみたいだぜ」

 俺も魔力を感知したので、その方向を見てみると……、

「……便利屋の魔族?」

 そこには、昨日出会った、便利屋を名乗る魔族がいた。

「昨日ぶりっすね。今日もよろしくっす!」

「えっと、よろしく? あっ、昨日言おうと思っていたんだけど、温泉で蒸した野菜とタレの相性が抜群で、すごくおいしかったよ! ごちそうさま」

 ちょっと混乱しつつも、せっかく彼女に会えたということで、昨日言えなかったお礼を伝えておいた。

「よろこんでもらえてよかったっす!」

 お礼を言えたのはいいけど、そもそもなぜ今、ホムラは彼女と俺を会わせたのだろうか
 ……色々器用にできるようだし、俺の試練を手伝ってくれる、とかかな?

 けどそれなら、態々わざわざ旅行中に会わなくてもいい気もするけど……。
 というか、昨日の時点で軽い打ち合わせをしてもよかった気がする。

 ……うーむ。
 わからないなら聞いてみるか。

「それでホムラ。どうして今日、彼女と会って欲しいと言ったんだ? 昨日も会ったし、そこで済ませられない用事だとは思うんだけど……」

「あー。まずそもそも今回の旅行では、ハクトが問題なければ今日会ってもらう予定でいたんだ。だから、昨日こいつを呼ぶか、かなり悩んだんだよなぁ。……結局は、温泉で蒸した料理を食いたい、って欲に負けちまったぜ」

 だから、珍しくあんなに悩んでいる感じだったのか。
 ……結局は、食欲に負けてたけど。

「んで、わざわざ今日も会ってもらった理由だけど……」

「ホムラの姉御、説明は自分がするっすよ。……まずは、わたしの正体を話しておかないとっすね。……実はわたし、いや、我は、人間界で魔王と呼ばれている存在なんすよ」

 ……まおう?
 魔王って、あの魔王?

 人間界に乗り込んで、勇者にボコボコにされた、あの?
 
「ええーっ!!」

 思わず、ユズばりに驚いてしまった。

「昨日は黙っていて、申し訳なかったっす。……正体を明かすと、怖がらせてしまうと思ったんすよ」

「うーん。今みたいに驚きはしただろうけど、理由もなく怖がる、とかはないかな? それに、ホムラが呼んだってことは、少なくとも、こちらに危害を加えるような魔族、ってことはないだろうしな」

 俺が怖がらない、と言った時は驚いた表情をして、ホムラの下りを話すと納得した表情になった。
 けどな、

「それと、温泉で蒸した野菜の件もあるな。味がおいしかったのはもちろん、食べる人のことを考えてるように感じたよ」

 味を確かめるだけなら、蒸した野菜を渡すだけでもよかったはずだ。
 けど、食べやすい大きさに切ってくれたり、その野菜のおいしさをより感じられるよう、わざわざタレを作ってくれたりと、気遣いを感じだ。

「だから、魔王、って聞いただけで怖がったりはしないよ。今の俺の認識としては、おいしい料理を作ってくれる、色々と器用な魔族、って感じかな」

「ほらな? だから言っただろ、大丈夫だって」

「……本当だったっすね。けど、ホムラの姉御は結構大雑把おおざっぱな時もあるから、やっぱり心配だったっす」

「お前自身が信じられなかっただけだろう? まあ、オレが大雑把なのは否定しないが」

 あ、そこは認めるんだ。

 そして、人間界で魔王と呼ばれている彼女は、人間界に乗り込んだ時の説明をし始めた。
 
 まず、魔界と人間界が繋がったことを気づいたのは彼女自身だったようだ。
 そして、自分の配下である四人の魔族と相談したところ、その世界でなら魔王になれるかも、他の魔族が気づく前にすぐに行こう、ということになり、人間界へと転移したようだ。

 ……四人、ってことだけど、まさか四天王とか名乗ってたりしないよな。

 そして、転移先で魔力を感知し、近くにいた強い魔力を持つ者に対して勝負を挑み、勝利したところで、そちらが従う存在はいるか、いないのであればこちらに従え、と翻訳魔法で告げたようだが拒否されてしまったようだ。
 他にも話をしようとしたようだが、話が全然通じなかったために、翻訳の魔法が上手く働かなかったと考えたみたいだ。
 ……後でわかったことだが、翻訳の魔法が原因ではなく、魔界と人間界のルールや環境が違うことによるすれ違いだったようだ。

 そして、少し悩んだ彼女とその取り巻きは、一番強い存在、つまり一番偉いはずの人に勝ってから考えよう、という結論になったようだ。
 ……なんというか、脳筋すぎる考え方だな。

 その後は、より強い存在を見つけては勝負を挑んだり、一番強い存在は誰だ? といった質問を周囲にしていたようだが、最終的に駆けつけた勇者によってボコボコにされたようだ。

 勇者に負けた彼女は、負けたのでそちらに従うが、その前に現在自分が従っている魔族、つまりホムラに話をしてからにしてほしい、と提案したようだ。

 話を聞いた勇者は混乱しつつも、まずはその存在に会おう、ということで彼女を伴って魔界へと転移したようだ。
 勇者と魔皇たちとの話し合いが終わった後で、彼女はホムラに怒られたようだ。
 ただ、怒られた内容は、未知の世界へと、自分に報告する前に勝手に行った事に関してだった。

 ホムラ曰く、その理由は

「その当時の魔界の常識からすれば、他の魔族も同じように行動する可能性が高かったんだ。それと、悪い魔族が先に行動していた場合は、もっと最悪な事態に発展していたかもしれねぇんだ。だから、その点に関しては怒れなかったんだ」

 とのことだった。

 ……魔界の常識を考えると、むしろ最初に人間界に乗り込んだのが、ホムラに従っている彼女でよかった、って見かたもできるもんなぁ。
 ちょっと、いや、かなり考え無しなしの行動ではあったけど、彼女も悪意があったって感じではないしなぁ。
 ある意味、不幸な出来事だったとも言えるのか。

 とはいえ、何もおとがめなし、ってのは被害を受けた人間界側へ示しがつかない。
 ただ、魔界と人間界では常識もルールも違うため、どうすればよいかは魔皇側も悩んだようだ。

 そんな時、勇者が魔界と人間界側の間を取り持ってくれることになったようだ。
 勇者からはまず、人間界側は魔界と敵対する意思がないことを告げられたそうだ。

 勇者の個人的な見解として、魔族が全力で人間界に攻め入ってきた場合、人間界側は太刀打ちできないからだと思う、と言われたようだ。
 ……異世界から来たとはいえ、その勇者は色々と正直すぎるな。

 それと、勇者が持ち帰った魔界の情報を聞いた人間界側の代表から、交易などをしていきたい、といった提案があったと告げられたらしい。
 ……実際、魔界の食材はかなりおいしかったしな。
 それに、魔界でしか取れない、魔力が籠った素材とかもあるのだろう。

 そういったこともあって、それぞれが穏便な形で終れるよう、人間界側での発表では、勝手に魔王を名乗った魔族とその取り巻きが乗り込んだこと、その魔族は魔界のルールで裁かれた、ということにしたようだ。

 もちろん、魔界にはそんなルールはないので、本当に形だけ、という感じだったようだけど。

 逆に魔界側では、人間界側には勇者という強い存在がいること、この件は魔皇が取り組むことを通知した程度だった。
 ……魔界は強い者に従うって環境だから、それで問題なかったようだ。
______________________________________
 魔王、というと、RPGのラスボスというイメージが強いですが、ゲーテ(シューベルト)の魔王なども思い浮かびます。

 曲の最初にある馬が駆けるような部分と、Mein Vater、と父親に助けを求めたり、Mein Sohn、と息子をなだめる部分がかなり印象的でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

処理中です...