異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり

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第八章 さけたなか 湯けむりはれる 魔界旅

第133話 お風呂回()

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 便利屋の魔族も帰ったし、宿に入ろうということになった。

 部屋は、全員が個室だった。
 基本的にここに来る魔族は湯治目的のため、そもそも複数人用の部屋はあまり用意していないようだった。

 さてと、夕食の前にひとっ風呂浴びておくかな。
 街が全体的に暖かくて、少し汗をかいたし。

 ……それになにより、温泉地に来たのに、まだ温泉に入っていないしな。

 というわけで浴場に向かうと、すでに先客がいるようだった。
 
 旅館の人からは、部屋に備え付けの小さな風呂と、女性用の大浴場と男性用の小さ目な浴場があること、浴場で何かトラブルを起こせば、すぐに街から追い出され、この街への立ち入りが禁止されると説明された。

 だから、魔族の人がいるところに入っても問題ないとは思うんだけど、ちょっと不安かも。
 ……いや、今まで会って来た魔族は皆いい人だったし、悪い魔族はそもそもこの街には入れないだろうし、きっと大丈夫だろう。

 ということで、中に入るとそこには

「ふむ。やはりハクトも来たか」

 イズレが湯舟に浸かっていた。
 ……ああ、その可能性もあったな。

 汗をかいていたので、まずはしっかり身体を洗うと、湯船に入りイズレのそばに浸かった。

「ふぅ。……イズレも、すぐに温泉に来たんだな。やっぱり汗をかいたから?」

「ふむ。それなら、魔法でどうとでもなる。せっかく温泉地に来たのだ、まずは風呂に入るのが普通だと思うが」

「あー、まあ、そうかも?」

 たぶん。

「それに、ここはいい湯だ。温度もちょうど良く、日々の疲れがお湯に溶けていく感覚がする」

 日々の疲れ、ってのはともかく、今日歩いた疲れが取れてきている感じがするな。

「ふむ。今回の旅行、これだけでも来た甲斐があった。ハクト、感謝する。……いや、日頃頼んでいる、異世界からの知識の提供にも感謝すべきか」

 ……えっ? なんだか急にイズレがデレた!?
 
「急にお礼を言うなんで、どうしたんだ?」

「いやなに、今は温泉でリラックスしているからな。色々な事に思い至るのだ。普段は思考が本業に関することに向かいがちなのでな」

 なるほど?
 ……まあ言われてみれば思い当たることが色々とあるな。
 最初に出会った時も、強引に店に引っ張られたしなぁ。

「ふむ。それにしても、今度はここに家族で来たいものだな。特に、妻は仕事が」

「ふむ、聞きたいか。……まずは、出会いの話からするとしよう。あれは……」

 と、イズレの奥さんに関する話が始まったのだけれど……。
 端的に言うと、完全にのろけ話だった。

 イズレがのろけ話をするなんて意外だったけど、考えてみればイズレは、好きな物に対してはかなり積極的だったな。

 定期的に会っているようだけど、お互いがやりたいことを尊重し、普段は別々に暮らしているようだ。
 娘であるディニエルが生まれた時は、成人になるまでかなりの頻度で会っていたらしいけど。
 他にも、エルフの文化の話とか、興味深い話も色々と聞けた。 

 ……とはいえ、流石にちょっと長すぎないだろうか。
 話の途中だったけど、のぼせそうだからと言う理由でおいとまさせてもらった。

 そして部屋に戻り、夕食ができるまでの間、少しのぼせた頭をさましていた。
 それにしても、イズレに奥さんがいると知った時も驚いたけど、イズレがのろけ話をするくらいの仲というのにも驚いたな。

 ……俺の両親も、かなり仲が良かったんだよな。
 もしも今生きていたら、美味しい物を食べさせたり、温泉に連れて行ったりしたんだろうか。
 
 いや、今は楽しい旅行中だし、あんまり暗くなることを考えるのはやめよう。

 ……まあけど、元の世界に戻ったら、早めにお墓参りに行きたいな。
 報告することが色々と、……うん、本当に色々とあるから。



 そして夕食はもちろん地獄蒸しを利用した料理が色々と出てきた。
 それと、”じごくむし”ではなく、温泉蒸しという名前にしてもいいか、という相談があった。

 俺が考案したわけじゃないし、伝わりやすい方がいいと思ったので、もちろん、と言っておいた。
 ……”ドラゴンメイド”さん、聞いてますか。
 まあ、今は残念ながらいないけどさ。

 それと肝心の食事の方だが、もちろんおいしかった。
 ……ただ、便利屋の魔族が食べさせてくれたタレとの相性が抜群すぎて、若干印象が薄くなってしまった。

 いや、そもそも初めて扱う調理法できちんとおいしく作れるってだけで、すごいことなんだけどね。
 ……どう考えても、あの魔族が凄すぎるんだよな。

 それと、食事が終わった後で聞いたのだが明日イズレは帰るらしい。
 そのため、帰る前にお土産が買いたいとのことだった。

 魔界で見たことのない魔族を見ると、インスピレーションが湧いて作品を作りたくなりだろうと予想して、初めからその予定だったらしい。
 前回の魔界旅行もそうだったみたいだし、今も色々と頭の中でイメージが膨らんでいるそうだ。



 というわけで次の日。
 昨日とは違う成分の温泉で朝風呂を堪能した後、お土産を買いに行くことにした。

 温泉地でお土産と言ったら、龍が剣に巻き付いたキーホルダーを思い浮かべてしまうけど、ここは魔界。
 流石に売ってはいないようだ。

 ……と思ったら、どこから見つけて来たのか、イズレがそのキーホルダーを手に持っていた。

「ふむ。妻と娘にお土産を買おうと思うのだが、これはどうだろうか? 興味深い見た目をしているのでな」

 なぜ、これが魔界にあるんだ……。

「あー。……ディニエルは喜びそうかもな。あ、いや、もしかしたら既に持ってるかも」

 魔界のお土産ということで、既にリューナがディニエルに渡している可能性に思い至った。

 ……俺の生存報告も兼ねて、リューナに連絡してみようかな。
 まあ、ホムラが既にれんらくしてるだろうけど。

 ということで、リューナに連絡したところすぐに返信が返ってきたのだが、衝撃(?)の事実が発覚した。
 俺の無事を喜ぶ内容の後で、

『そのキーホルダーなのですが、ハクト様から聞いた内容を元に作成しました。ホムラさんにお見せしたところ、大変気に入っていただけました。また、ハクト様からは、主にお土産屋として売られている、との話もホムラさんにお伝えしましたので、そちらのお店で売られているのだと思います』

 といった内容が書かれていた。

 リューナ、お前だったのか……。魔界に例のキーホルダーを持ち込んだのは。
 ……いや、むしろ俺が原因か。

 ホムラにも確認してみたところ、リューナが予想した通りだったようだ。
 また、キーホルダーはいくつも作成したため、ディニエルにもプレゼントしたようだ。

 それと、イズレが今日帰ること、ディニエルへのお土産についても悩んでいることを伝えると、

『ディニエルさんは最近お仕事を頑張っているようですので、湯の花などはどうでしょうか? 温泉地といえばそちらが定番ですので』

 とのアドバイスをもらえた。
 それをイズレに伝えると、

「ふむ。温泉地のお土産と言えば、やはりそれがよいか。ハクト、参考になった」

 と言い、再度お土産を物色し始めた。

 ……俺も、今日は買わないけど、皆へのお土産を色々と見ておこうかな。

 そしてイズレは、湯の花に加え、温泉水、温泉から抽出した塩、それと謎のオブジェなんかを購入していた。
 ……オブジェはともかく、他はソフィアとかのお土産にいいかもな。

 あ、例のキーホルダーは自分用に買ったようだ。

 そして、ホムラがイズレを転移で送り、俺とホムラだけになった。
 
 温泉自体はともかく、街は昨日粗方あらかた巡ったけど、今日は何をするんだろう? なんて考えていると、ホムラがこちらを向き、

「あー、今日の予定なんだがな。お前に会ってほしい、いや、話してほしい魔族がいるんだ。すまんが、付き合ってもらってもいいか?」

 と、申し訳なさそうに言ってきた。
 ……旅行中に提案するってくらいだし、すごく会ってほしいのだろうな。
 
 前に会って欲しいって言われた魔族は、リューナだったよな。
 ……会うのはいいんだけど、リューナの時と同じくらい、何かがあると思っておいたほうがいいかもな。
______________________________________

 ちなみに、〇〇お前だったのか、のお話。
 元の原稿(?)では、ぐったりなったままうれしくなりました、との表記になっているようです。
 結構印象が変わる気がします。
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