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第三章 要するに この章ほとんど デートかい
第51話 魔皇
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さてと。夕飯までかなり時間があるし、どうしようかな?
……そういえばメイを案内して以来、教会に行ってないな。
ソフィアが居れば、ヒカリから連絡が来るまで漫画を読ませてもらうのもいいかも。
それに、夕食のお店をソフィアに聞いてみるのもいいかもしれない。
うん。そうと決まればさっそく行こう。
◇
結果として、ソフィアからはいいお店の情報が聞けた。
ただ、メイから魔皇全員とデートしていることを聞いていたみたいで、
「今日は、魔皇の方とデートをしている日ではなかったでしょうか?」
と質問してきた。
「え、あっ、いや、そうなんだけどな」
まさかソフィアが知っていると思っていなくて、焦ったように返事をしてしまった。すると、
「……なるほど、そういうことですか。わかりました。私も同行しますので、謝りに行きましょうか」
なんて返事が返ってきた。
……どうしてそうなった。
「多分、というか、完全に勘違いしていると思うんだけど、そうなった理由はなんだ?」
「ハクトさんがデート中何か粗相をしてしまい、相手を怒らせてしまった。そこで、対処方法を私に相談しに来た、ということではないのでしょうか?」
「うん、全くもって違う。今日は光魔皇と出かけていたんだけどな、……」
と今までの経緯と、ソフィアにいい店がないかを聞きに来たことを説明した。
というか、さっき一緒に同行して謝るって言っていたよな。
……デート相手への謝罪に同行する、ってどういう状況だ?
「なるほど。それでしたら、よいお店がいくつかありますが……。そうですね、せっかくのデートということですし……」
と言うと、空間魔法でカード状の何かを取り出した。
「こちらは、すき焼きを提供しているお店の紹介状です。この紹介状を提示しますと、予約が必要な個室を利用できると思います。そのため、今回のデートに有効利用できるのではないかと思います」
なんだかすごく的確なサポートをしてくれた。
……さっき、デートの謝罪に同行する、なんて言ってた人物とは思えないな。
「それは助かる。ありがたく使わせてもらうよ。……ちなみにそのお店には、すき焼きのレシピを伝えたのか?」
「そうですね」
まあ、そりゃそうか。
◇
漫画を読んでいるとヒカリから連絡があったので、再度転移門に向かった。
ヒカリは合流するなり
「すみません、ハクトさん。それと、他の皆からもハクトさんに謝罪しておいて欲しいとのことでした」
と、再度謝罪して来た。
これから美味しいものを食べるつもりだし、あんまり気に病んでほしくないな。
「そもそもの原因はヒカリにも他の皆にもあるわけじゃないし、謝られることじゃないよ。それより、まだ夕飯まで時間もあるし、ちょっと街を散策しようぜ。料理に使う道具を扱うお店とかに寄ったりしてさ」
「それはいいですね。……ハクトさん、ありがとうございます」
「俺もちょっと気になってたしな。それじゃ、行こうか」
お店を案内するお礼ってことにして、さっそく出発した。
◇
街を散策している内に丁度いい時間になったので、ソフィアに紹介されたお店に向かった。
……前のうなぎ屋もそうだったけど、このお店もすごく高級そうな佇《たたず》まいだ。
お店に入ると店員さんがいて
「ようこそお越しくださいました。本店は完全予約制となっておりますが、本日はご予約されていますでしょうか?」
と話しかけてきた。
……ちょっと話が違うぞ、ソフィア。
うーん、駄目元で紹介状を見せてみるか。
「あー、えっと。知人の紹介でこちらのお店に来てみたんだけど……」
といいつつ紹介状を見せると、店員さんは目を見開いた。
しかし、すぐに落ち着くと、
「……大変失礼致しました。ソフィア様のご友人様ですね。すぐに個室にご案内致します」
と、以前お城に行く途中にあったみたいに、より一層丁寧な態度に変わった。
……ソフィアが教えたレシピの効果だろうか?
なんだかそれだけじゃない気もするけど、まあいっか。
案内された個室は、素人目からしてもすごくお金がかかっていそうな部屋だった。
すごいVIP待遇だ。
……本物のVIPが横にいるけど。
「お決まりになりましたら、こちらの魔道具でお呼びください。本日こちらの個室をご予約のお客様はおりませんので、ごゆっくりお過ごしください」
と説明した店員さんが下がると、ヒカリが話しかけてきた。
「とても丁寧な対応をしていただけましたが、そちらの紹介状の効果でしょうか? ソフィアさんの名前が聞こえましたが……」
「このお店はソフィアから紹介してもらったんだ。ソフィアはあちこちのお店にレシピを伝えているんだけど、このお店もそうなんだ」
「なるほど……。教会で本を見せたりレシピを提供したりと、ソフィアさんは素晴らしい方ですね」
と納得したみたいだ。
……実はソフィアがレシピを提供しているのは、自分で作ると大変だから、なんて言えない。
◇
昨日のうなぎも美味しかったけど、今日のすき焼きもすっごく美味しかった。
綺麗にサシの入った、見るからにいいお肉と分かる霜降り肉、それに絡《から》む割り下、口にいれたらとろけるような食感……。
ああ、思い出しただけでまた食べたくなってくる。
何か特別なお祝いの日に、また来よう。次はきちんと予約をしてな。
「ハクトさん、とても美味しかったです。ありがとうございました」
「喜んでもらえて良かったよ。……ん? 何か気になる事でもあるのか?」
ヒカリはお礼を言った後、一瞬だけ浮かない表情をした気がした。
「あっ……。えっと、その。今日はハクトさんにも魔皇の皆にも、色々迷惑をかけちゃって。それなのに、最後にこんなにいい体験をしてしまったのが申し訳なく思ってしまって」
「さっきも言ったけれど、ヒカリが原因てわけじゃないし、俺は気にしてないから大丈夫だよ」
「でも、魔界での行動は誰かに頼まれたことではなく、私が勝手にやっていることですし……」
……なるほどな。
自分が好きで勝手にやっていることなのに、皆を巻き込んでしまって申し訳ない、って感じなのか。
「皆はむしろ、進んでヒカリの手伝いをしていると思うんだ。特にハヤテなんか、やりたくない~、とか、面倒くさい~、なんて言って他の魔皇に押し付けそうだしな」
俺はハヤテのモノマネを交えつつ、そう伝えた。
「ふふっ。確かに、ハヤテちゃんなら言いそうですね」
よし。何でもいいから、笑ってもらえてよかった。
「でも、実際はそうじゃなかった。それにな、ハヤテは俺と夕食を食べるのは面白そうだ、って言いつつもヒカリを手伝う準備を優先したんだ」
「……そうだったんですね」
「ヒカリは前に、皆の姉みたいな存在って言ったよな。他の皆も、……まあ姉と思っているかはともかく、大切な家族だと思っているように見えたよ。だから、皆には申し訳ないって思うんじゃなくて、皆のお陰で今日は楽しめた、ありがとう、って言ってもらえた方が、皆も嬉しいんじゃないかな」
多分だけどずっと皆の姉、というか保護者っていう感覚でいたんじゃないだろうか。
だから、無意識に皆に頼り過ぎないようにって考えてたんじゃないかな。
まあ、俺の勝手な予想だけどな。
「それに、もっと皆に頼ってもいいと思うんだ。例えばアオイなら、何か魔道具を作ってくれるだろうし、メイは読書が好きだから、色んな知識を教えてくれるかな? ……そうやって、自分が得意な事で頼られたら悪い気はしないだろうし、それが大切な家族からなら絶対嬉しいと思うんだ。あ、異世界の知識が必要なら、俺に頼ってもらっていいぜ!」
最後はちょっと茶化しながら、そう伝えてみた。
「そう、ですね。皆が喜んで手伝ってくれる光景が思い浮かびました。……ハクトさん、今日はとても楽しい時間でした。ありがとうございます」
「おう! 俺も楽しかったよ」
そんな感じで明るい雰囲気になったヒカリと、しばらく他愛ない話をした。
ちなみに、帰りがけにそれとなく尋ねてみたら、このお店はソフィアからレシピを伝えられる前は潰れる寸前だった、という話を店員さんから聞けた。
そりゃ、ソフィアには感謝してもしきれないだろうな。
……ますます、ソフィアがレシピを提供している理由は言えなくなった気がする。
いや、仮に教えてもソフィアは気にしないだろうけどさ。
◇
二日後、今日はいることを確認してから、ソフィアの手伝いに行くことにした。
すき焼きのお礼もあるしな。
……それと、お店が完全予約制だったていうのも伝えておかないと。
ノックをして入室すると、何故か魔皇全員が揃っていて
「あっ! ハクト、いらっしゃ~い」
「おう! 来たか!」
「……おはよう」
「おはよう、ハクト。ここには変わった本がいっぱいあるのね」
「やあ、ハクト君。レイの言う通り、ここにある本は興味深いね」
「ハクトさん、おはようございます。今日はお邪魔していますね」
なんて、それぞれから挨拶された。
……どういうこと?
「おはようございます、ハクトさん。メイさんから、ハクトさんが次に来る日を知りたい、とのことでしたので本日いらっしゃることを伝えしました。皆さん、ハクトさんに用があるみたいですね」
「先日言われたことをさっそく皆に相談してみたら、ハクトさんも交えて相談したほうがいい、という結論になり、本日はソフィアさんのご厚意でこの場所を使用させてもらうことになりました。ハヤテちゃんが伝えていたと思うのですが」
それを聞いた俺はすぐにハヤテの方を見た。
ハヤテはあからさまに顔を逸らしたと思うと、肩が震えだした。
……こいつ、笑ってやがる。
それを見たヒカリは、にこりとしながら、
「ハヤテちゃん? また、かしら?」
と、話しかけていた。……ちょっと怖い。
「えっとね、今回は伝えるのを忘れちゃった~。でも、ハクトの驚いた顔が面白かったよ~」
いやいや、でも、じゃないが。
「もう。笑わないで、きちんと謝りましょうね」
「そうだね。ハクト、ごめんなさい~」
「……まあ、ちょっとびっくりしただけだしな」
なんてやりとりをしていたら、ソフィアが
「本日の相談というのはもしかして、ハクトさんが七人目の魔皇になるための相談でしょうか? 先日のデートを通じて、皆さんとの仲も深まったようですし」
と言ってきた。
さっそく訂正しようとしたが、
「お、それもいいかもな! ハクトは魔力がやばいし、無属性の魔皇っていうのはまだいないしな」
なんて、ホムラがのってきてしまった。
「そしたら、ハクトも魔皇としての自分の名前を考えないとね~」
「せっかくだし、何か武器を持ってみないかしら?」
「魔道具で魔族みたいな見た目にするのもいいね」
「……魔皇になるまでの話を、本にしてみる?」
「私も相談にのっていただけましたし、それもいいかもしれませんね」
「まさかの魔皇全員から!?」
まさかヒカリまでのってくるとは!
「ふふふっ、冗談です。……でも、本当になってみてもいいんですよ?」
「え、遠慮しておきます」
俺の答えに対して、遠慮しなくてもいんだよ~、とか、なら模擬戦しようぜ! みたいな言葉が魔皇から飛び交った。
いや、模擬戦関係ないじゃん。
◇
そんな感じで、肝心の相談に入るまでに、ずいぶん時間が掛かった。
しかも、本を参考にしようって意見が出た結果、最後は読書会みたいになっちゃったけど。
それにしても魔皇全員とのデート、最初はどうなるかなと思ったけど、結果として皆とは前よりも仲良くなれたし、やってよかったな。
……とはいえ、デートって言われると何だかんだ気を遣うので、またすぐにっていうのは勘弁してほしいけど。
……そういえばメイを案内して以来、教会に行ってないな。
ソフィアが居れば、ヒカリから連絡が来るまで漫画を読ませてもらうのもいいかも。
それに、夕食のお店をソフィアに聞いてみるのもいいかもしれない。
うん。そうと決まればさっそく行こう。
◇
結果として、ソフィアからはいいお店の情報が聞けた。
ただ、メイから魔皇全員とデートしていることを聞いていたみたいで、
「今日は、魔皇の方とデートをしている日ではなかったでしょうか?」
と質問してきた。
「え、あっ、いや、そうなんだけどな」
まさかソフィアが知っていると思っていなくて、焦ったように返事をしてしまった。すると、
「……なるほど、そういうことですか。わかりました。私も同行しますので、謝りに行きましょうか」
なんて返事が返ってきた。
……どうしてそうなった。
「多分、というか、完全に勘違いしていると思うんだけど、そうなった理由はなんだ?」
「ハクトさんがデート中何か粗相をしてしまい、相手を怒らせてしまった。そこで、対処方法を私に相談しに来た、ということではないのでしょうか?」
「うん、全くもって違う。今日は光魔皇と出かけていたんだけどな、……」
と今までの経緯と、ソフィアにいい店がないかを聞きに来たことを説明した。
というか、さっき一緒に同行して謝るって言っていたよな。
……デート相手への謝罪に同行する、ってどういう状況だ?
「なるほど。それでしたら、よいお店がいくつかありますが……。そうですね、せっかくのデートということですし……」
と言うと、空間魔法でカード状の何かを取り出した。
「こちらは、すき焼きを提供しているお店の紹介状です。この紹介状を提示しますと、予約が必要な個室を利用できると思います。そのため、今回のデートに有効利用できるのではないかと思います」
なんだかすごく的確なサポートをしてくれた。
……さっき、デートの謝罪に同行する、なんて言ってた人物とは思えないな。
「それは助かる。ありがたく使わせてもらうよ。……ちなみにそのお店には、すき焼きのレシピを伝えたのか?」
「そうですね」
まあ、そりゃそうか。
◇
漫画を読んでいるとヒカリから連絡があったので、再度転移門に向かった。
ヒカリは合流するなり
「すみません、ハクトさん。それと、他の皆からもハクトさんに謝罪しておいて欲しいとのことでした」
と、再度謝罪して来た。
これから美味しいものを食べるつもりだし、あんまり気に病んでほしくないな。
「そもそもの原因はヒカリにも他の皆にもあるわけじゃないし、謝られることじゃないよ。それより、まだ夕飯まで時間もあるし、ちょっと街を散策しようぜ。料理に使う道具を扱うお店とかに寄ったりしてさ」
「それはいいですね。……ハクトさん、ありがとうございます」
「俺もちょっと気になってたしな。それじゃ、行こうか」
お店を案内するお礼ってことにして、さっそく出発した。
◇
街を散策している内に丁度いい時間になったので、ソフィアに紹介されたお店に向かった。
……前のうなぎ屋もそうだったけど、このお店もすごく高級そうな佇《たたず》まいだ。
お店に入ると店員さんがいて
「ようこそお越しくださいました。本店は完全予約制となっておりますが、本日はご予約されていますでしょうか?」
と話しかけてきた。
……ちょっと話が違うぞ、ソフィア。
うーん、駄目元で紹介状を見せてみるか。
「あー、えっと。知人の紹介でこちらのお店に来てみたんだけど……」
といいつつ紹介状を見せると、店員さんは目を見開いた。
しかし、すぐに落ち着くと、
「……大変失礼致しました。ソフィア様のご友人様ですね。すぐに個室にご案内致します」
と、以前お城に行く途中にあったみたいに、より一層丁寧な態度に変わった。
……ソフィアが教えたレシピの効果だろうか?
なんだかそれだけじゃない気もするけど、まあいっか。
案内された個室は、素人目からしてもすごくお金がかかっていそうな部屋だった。
すごいVIP待遇だ。
……本物のVIPが横にいるけど。
「お決まりになりましたら、こちらの魔道具でお呼びください。本日こちらの個室をご予約のお客様はおりませんので、ごゆっくりお過ごしください」
と説明した店員さんが下がると、ヒカリが話しかけてきた。
「とても丁寧な対応をしていただけましたが、そちらの紹介状の効果でしょうか? ソフィアさんの名前が聞こえましたが……」
「このお店はソフィアから紹介してもらったんだ。ソフィアはあちこちのお店にレシピを伝えているんだけど、このお店もそうなんだ」
「なるほど……。教会で本を見せたりレシピを提供したりと、ソフィアさんは素晴らしい方ですね」
と納得したみたいだ。
……実はソフィアがレシピを提供しているのは、自分で作ると大変だから、なんて言えない。
◇
昨日のうなぎも美味しかったけど、今日のすき焼きもすっごく美味しかった。
綺麗にサシの入った、見るからにいいお肉と分かる霜降り肉、それに絡《から》む割り下、口にいれたらとろけるような食感……。
ああ、思い出しただけでまた食べたくなってくる。
何か特別なお祝いの日に、また来よう。次はきちんと予約をしてな。
「ハクトさん、とても美味しかったです。ありがとうございました」
「喜んでもらえて良かったよ。……ん? 何か気になる事でもあるのか?」
ヒカリはお礼を言った後、一瞬だけ浮かない表情をした気がした。
「あっ……。えっと、その。今日はハクトさんにも魔皇の皆にも、色々迷惑をかけちゃって。それなのに、最後にこんなにいい体験をしてしまったのが申し訳なく思ってしまって」
「さっきも言ったけれど、ヒカリが原因てわけじゃないし、俺は気にしてないから大丈夫だよ」
「でも、魔界での行動は誰かに頼まれたことではなく、私が勝手にやっていることですし……」
……なるほどな。
自分が好きで勝手にやっていることなのに、皆を巻き込んでしまって申し訳ない、って感じなのか。
「皆はむしろ、進んでヒカリの手伝いをしていると思うんだ。特にハヤテなんか、やりたくない~、とか、面倒くさい~、なんて言って他の魔皇に押し付けそうだしな」
俺はハヤテのモノマネを交えつつ、そう伝えた。
「ふふっ。確かに、ハヤテちゃんなら言いそうですね」
よし。何でもいいから、笑ってもらえてよかった。
「でも、実際はそうじゃなかった。それにな、ハヤテは俺と夕食を食べるのは面白そうだ、って言いつつもヒカリを手伝う準備を優先したんだ」
「……そうだったんですね」
「ヒカリは前に、皆の姉みたいな存在って言ったよな。他の皆も、……まあ姉と思っているかはともかく、大切な家族だと思っているように見えたよ。だから、皆には申し訳ないって思うんじゃなくて、皆のお陰で今日は楽しめた、ありがとう、って言ってもらえた方が、皆も嬉しいんじゃないかな」
多分だけどずっと皆の姉、というか保護者っていう感覚でいたんじゃないだろうか。
だから、無意識に皆に頼り過ぎないようにって考えてたんじゃないかな。
まあ、俺の勝手な予想だけどな。
「それに、もっと皆に頼ってもいいと思うんだ。例えばアオイなら、何か魔道具を作ってくれるだろうし、メイは読書が好きだから、色んな知識を教えてくれるかな? ……そうやって、自分が得意な事で頼られたら悪い気はしないだろうし、それが大切な家族からなら絶対嬉しいと思うんだ。あ、異世界の知識が必要なら、俺に頼ってもらっていいぜ!」
最後はちょっと茶化しながら、そう伝えてみた。
「そう、ですね。皆が喜んで手伝ってくれる光景が思い浮かびました。……ハクトさん、今日はとても楽しい時間でした。ありがとうございます」
「おう! 俺も楽しかったよ」
そんな感じで明るい雰囲気になったヒカリと、しばらく他愛ない話をした。
ちなみに、帰りがけにそれとなく尋ねてみたら、このお店はソフィアからレシピを伝えられる前は潰れる寸前だった、という話を店員さんから聞けた。
そりゃ、ソフィアには感謝してもしきれないだろうな。
……ますます、ソフィアがレシピを提供している理由は言えなくなった気がする。
いや、仮に教えてもソフィアは気にしないだろうけどさ。
◇
二日後、今日はいることを確認してから、ソフィアの手伝いに行くことにした。
すき焼きのお礼もあるしな。
……それと、お店が完全予約制だったていうのも伝えておかないと。
ノックをして入室すると、何故か魔皇全員が揃っていて
「あっ! ハクト、いらっしゃ~い」
「おう! 来たか!」
「……おはよう」
「おはよう、ハクト。ここには変わった本がいっぱいあるのね」
「やあ、ハクト君。レイの言う通り、ここにある本は興味深いね」
「ハクトさん、おはようございます。今日はお邪魔していますね」
なんて、それぞれから挨拶された。
……どういうこと?
「おはようございます、ハクトさん。メイさんから、ハクトさんが次に来る日を知りたい、とのことでしたので本日いらっしゃることを伝えしました。皆さん、ハクトさんに用があるみたいですね」
「先日言われたことをさっそく皆に相談してみたら、ハクトさんも交えて相談したほうがいい、という結論になり、本日はソフィアさんのご厚意でこの場所を使用させてもらうことになりました。ハヤテちゃんが伝えていたと思うのですが」
それを聞いた俺はすぐにハヤテの方を見た。
ハヤテはあからさまに顔を逸らしたと思うと、肩が震えだした。
……こいつ、笑ってやがる。
それを見たヒカリは、にこりとしながら、
「ハヤテちゃん? また、かしら?」
と、話しかけていた。……ちょっと怖い。
「えっとね、今回は伝えるのを忘れちゃった~。でも、ハクトの驚いた顔が面白かったよ~」
いやいや、でも、じゃないが。
「もう。笑わないで、きちんと謝りましょうね」
「そうだね。ハクト、ごめんなさい~」
「……まあ、ちょっとびっくりしただけだしな」
なんてやりとりをしていたら、ソフィアが
「本日の相談というのはもしかして、ハクトさんが七人目の魔皇になるための相談でしょうか? 先日のデートを通じて、皆さんとの仲も深まったようですし」
と言ってきた。
さっそく訂正しようとしたが、
「お、それもいいかもな! ハクトは魔力がやばいし、無属性の魔皇っていうのはまだいないしな」
なんて、ホムラがのってきてしまった。
「そしたら、ハクトも魔皇としての自分の名前を考えないとね~」
「せっかくだし、何か武器を持ってみないかしら?」
「魔道具で魔族みたいな見た目にするのもいいね」
「……魔皇になるまでの話を、本にしてみる?」
「私も相談にのっていただけましたし、それもいいかもしれませんね」
「まさかの魔皇全員から!?」
まさかヒカリまでのってくるとは!
「ふふふっ、冗談です。……でも、本当になってみてもいいんですよ?」
「え、遠慮しておきます」
俺の答えに対して、遠慮しなくてもいんだよ~、とか、なら模擬戦しようぜ! みたいな言葉が魔皇から飛び交った。
いや、模擬戦関係ないじゃん。
◇
そんな感じで、肝心の相談に入るまでに、ずいぶん時間が掛かった。
しかも、本を参考にしようって意見が出た結果、最後は読書会みたいになっちゃったけど。
それにしても魔皇全員とのデート、最初はどうなるかなと思ったけど、結果として皆とは前よりも仲良くなれたし、やってよかったな。
……とはいえ、デートって言われると何だかんだ気を遣うので、またすぐにっていうのは勘弁してほしいけど。
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