ルピナスは恋を知る

葉月庵

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59話 アルト視点

出会いは突然訪れた。

冒険者ギルドのギルドマスターの俺は、現在隣町に来ていた。そこの冒険者ギルドと話す約束があったからだ。取り敢えず、そこのギルドマスターに会って、こちらに到着したことを知らせ、今日からしばらく世話になる宿を借りた。

宿を借りる際に近くで話していた内容に興味を引かれた。どうやら、やたら小さくて可愛らしい子が冒険者ギルド近くの店で今日から接客をしているらしい。

ほう、ここまで噂が広がっているとはなかなかのものだな。一度見て気に入ったら俺のハーレムに加えるのも良いかもしれない。冒険者ギルド近くの店と言えば、あそこだな。この後行ってみるか。

そう思って店に入るとエプロンを揺らしながら、店内をせっせと動き回る小さな子を見つけた。近くを通った時に声をかけ、その子が振り向けば、想像以上に可愛らしかった。その上、ぎこちない笑顔まで見せてくれ、俺の心がガシッと掴まれるような感覚がした。

俺は運命の番などというものなど信じていなかったが、この胸の高鳴りと何としてでも手に入れたい衝動を感じた途端、この目の前の子が俺のそれなのだと分かった。いわゆる一目惚れだ。

後ろで纏められた艷やかでサラッと伸びた黒髪に、同じ色のくりっとした丸い瞳、男にしては高く透き通るような声。何もかもが魅力的に感じられた。それと同時に回復しつつあるが、未だ残るポーション痩せや、あまりに細い体に心配になる。

嫌われたくない一心で、どう話そうか考えている俺は、とうにハーレムに誘うことなど頭から抜け落ちていた。俺は、怪しまれないように、あくまでふらっと寄った客の一人という体で話していた。

なるほど、ハルと言うのか。いい名前だ。

俺はその名前を口の中で何度も呟いた。絶対に俺の物にしてやる、そう思いながら。

ある時、さりげなく軽いスキンシップをとるとハルは抵抗する素振りは見せず、逆に顔を赤らめていた。その様子がとても可愛らしくていつまでも見ていたい気分になった。近づいてみて分かったが、ハルからは、獣人のマーキングがうっすらとされていた。

そんなに遠慮ばかりしているのなら、俺がハルをもらっても構わないよな?

それから、俺は何度もハルに話しかけた。俺がハルのことを好いていることを伝えるように、ハルに好かれるように。その甲斐あってか、回数を重ねる毎にハルとの距離は縮まったように感じられる。

会話の最中に好意を伝えると、毎回恥ずかしがるハルは相当初なようだ。まるで、今まで愛されることを知らなかったような……。

その後、ハルにマーキングまがいなことをしていたのがあのガルムだと判明し、俺のハルを手元に置く計画は破綻した。そのため、今は一人で自身の住む町に戻っきていた。

まだチャンスはあるはずだ。隣町くらいなら、全力で駆ければ一時間もかからずにいける。それなら、ハルには会いに行けるはずだ。

俺は、ハルに早く会いに行きたい一心でなるべく早くギルドマスターの仕事を終わらせる。職員からは、その速さに驚かれた。時折、茶化すような声も聞こえてきたが、それに反応する時間が惜しいくらい急いだ。

その結果次の日の朝にハルに会いに行くことができた。ハルに会えた途端、疲れがどこかへ消え、逆に今ならなんでもできそうな気さえしてくる。

フッ……、俺も相当ハルに惚れているな……。

ただ、悲しいかな。その後一週間の間で一回しかハルに会いに行けなかった。その間にハルはガルム達と魔法の練習を重ね、ゴブリン討伐依頼を受けられるレベルまであと少しの所まで成長したようだ。 

成長することは喜ばしいことだが、その分討伐難易度の高い魔物とも戦闘することになるため、気が気でない。

次ハルに会いに行く時は、俺も軽く剣くらいは装備していったほうがいいかもしれない。いざと言う時にハルを守れないのは格好が悪いからな。

俺はそう思いながら、目の前の書類の一つに目を通し始めるのであった。
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