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1章 人事異動
01. 人事異動
登場人物が多すぎなため、章末に人物紹介ページを作成しています。
――――――――――――――――――――――
「退職か異動か考えています」
発端は部下のこの一言だった。
冒険者ギルドの受付カウンターに配属されている部下の「辞めたい」は、よくある話くらいの感想だった。
――冒険者ギルドは退職率高いからな。
正確にはギルドではなく俺の担当部署が。
俺がトップを務める探索統括課は、冒険者対応とダンジョンの保全管理をしている。任務の受付と完了報告だけでなくランクや実績などの管理と、ダンジョンの定期的な視察や、異常発生時の対応まで多岐に渡る。
そしてどの部門よりも退職率が高い。理由は冒険者になったほうが稼げるからだ。
制限なくダンジョンに潜るためには、D級以上の冒険者でなくてはいけないという規則がある。ギルド職員であっても例外はない。
D級の間は職員の給料の方が、冒険者の収入より良いが、C級に上がってしばらくすると逆転する。僅差ではなく何倍もの差をつけて。
お陰で「稼ぎたいから辞めます」という職員が後を絶たない。
この支部だけでなく、国内のギルド支部のどこでも同じ問題を抱えている。
と言っても、辞めた後に冒険者として活動していれば、結果的にギルドにとって悪くない話なので、基本的に対策はせず放置だ。
受付対応として入って、ギルド内の研修を職員価格で受けながら実力と冒険者ランクを上げ、C級になったら退職の準備をするのが、昔からの流れである。
とはいえ辞めたいというこの部下は受付カウンター業務だった。
――これはこれで、どうなんだという理由なんだが。
以前から溜め込んでいた不満が、とうとう限界を超えたのだろう。女性の下で働きたくないという。
これが冒険者に絡まれるのが嫌だとか辛いというなら、多少は対策の余地もあるのだが……。
リーダーが女性だから嫌なんて、実に下らないと思うが、まだ十九歳の彼には重要なのかもしれない。
「 『迷宮管理・冒険者管理班』に異動してみるか?」
定員二人に欠員はいないが、どちらか一人が辞めてしまうと、残った方に負担が大きくのしかかる。試しに三人にしてみようとは以前から考えていた。この際、試すのもアリだろう。
受付カウンターで頑張り続ければ、リーダーになる将来もあるとは言わずにおいた。女だと思って舐めた態度を取る冒険者と、根っこの部分で変わらないと思いながら。
半月後――。
「上手くいっているみたいだね」
教育を担当している部下ジョルンに話を振ってみた。
「まあ、悪くはないですね」
可もなく不可もないといった評価を口にする。
「やる気はあるけど辞めそう?」
「間違いなく辞めますね、C級に昇格したら直ぐに」
きっぱりはっきり。
そうか、同僚の目からしても辞めそうか。
ついでに言えば元から居るもう一人の部下も辞めそうだ。こちらはすでにC級になり、以前から精力的に休暇をダンジョンで過ごしている。着々と退職の準備を進めていた。
「君に辞める気がなくて助かったよ」
ジョルンはC級になって長いが、そういった気配は一向にない。彼の先輩と後輩二人が冒険者になって辞めたのを、本人は淡々と見送っていた。
「俺はA級に昇格して、支部長になるのが目標なんです。辞めませんよ」
「いいね、この町はA級冒険者が少ないし、後任を考えたら職員の中にA級がいるのは良い事だ」
大きすぎる目標だが悪くない。
支部長になる夢が、ではない。A級になるのがだ。
E級以上の全冒険者の最終ランクは大半がC級。A級は約一割しか到達できない狭き門だ。
「トールさんはどうなんですか? A級に上がれそうって聞いたことあるんですけど?」
「そういうのはいいかな。田舎でのんびり余生を送りたいし」
俺はB級になって長い。頑張ればなれるかもしれないが、職員を続けながら休日ごとにダンジョンを潜り、実力と実績を積んでいくのは体力的に厳しい。
まだ二十代のジョルンと違って、既にイイ歳したおっさんの俺が、無理に上を目指す必要はなかった。
「大体、C級っていっても実力差は大きいじゃないですか。一番層が厚いって言われてるランクですよ。C級になったら絶対稼げるなんて訳ないでしょう。甘いんですよ、辞めてった連中のほとんどが」
皮肉交じりの言葉だけど、実際のところ正しい。実入りは大きいが出費も大きく、うっかりすると金銭感覚が狂ってしまう。剣一本が職員の給与数年分と同等なんてのもザラにある。庶民の感覚からかけ離れているのだ。
「何より、冒険者は保障がありません。怪我をしても自己責任です。でもギルド職員だったら、腕や足の一本がなくなっても仕事がありますから」
なかなか世知辛い。でも真理だ。
ジョルンの先輩は職員時代に幼馴染と再会して、二人で田舎に帰ると決めた。
その前に稼げるだけ稼ごうと、冒険者になって職員の生涯年収ほどを稼ぎ、すっぱりと足を洗った。今では郷里で剣の先生をしながら、愛妻と子供に囲まれて幸せにやっている。たまに森に出る狼の群れを掃ったり、希少な薬草を見つけてギルドに売りに来る。だが後輩の一人は無茶をし過ぎて、ダンジョンで帰らぬ人となった。
「そんな訳で、募集は多目にお願いします」
「二人募集してるけど、三人にした方が良さそうだね」
麗らかな昼下がり、二人しかいない事務所で話すには生臭いものだった。
そして商人見習いのロスが仲間になり、入れ替わるようにカウンター班から異動したばかりの部下と、もう一人いた『迷宮管理・冒険者管理班』の部下が退職した。元カウンター班の部下はC級に昇格した直後だったが、辞めた二人でパーティを組むというから、なんとかなると踏んだのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――
登場人物
ジョルン:ダンジョン保全、冒険者向け講習担当。C級冒険者。
ロス:元商人見習いの新人。童顔でかわいい見た目。D級冒険者。
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「退職か異動か考えています」
発端は部下のこの一言だった。
冒険者ギルドの受付カウンターに配属されている部下の「辞めたい」は、よくある話くらいの感想だった。
――冒険者ギルドは退職率高いからな。
正確にはギルドではなく俺の担当部署が。
俺がトップを務める探索統括課は、冒険者対応とダンジョンの保全管理をしている。任務の受付と完了報告だけでなくランクや実績などの管理と、ダンジョンの定期的な視察や、異常発生時の対応まで多岐に渡る。
そしてどの部門よりも退職率が高い。理由は冒険者になったほうが稼げるからだ。
制限なくダンジョンに潜るためには、D級以上の冒険者でなくてはいけないという規則がある。ギルド職員であっても例外はない。
D級の間は職員の給料の方が、冒険者の収入より良いが、C級に上がってしばらくすると逆転する。僅差ではなく何倍もの差をつけて。
お陰で「稼ぎたいから辞めます」という職員が後を絶たない。
この支部だけでなく、国内のギルド支部のどこでも同じ問題を抱えている。
と言っても、辞めた後に冒険者として活動していれば、結果的にギルドにとって悪くない話なので、基本的に対策はせず放置だ。
受付対応として入って、ギルド内の研修を職員価格で受けながら実力と冒険者ランクを上げ、C級になったら退職の準備をするのが、昔からの流れである。
とはいえ辞めたいというこの部下は受付カウンター業務だった。
――これはこれで、どうなんだという理由なんだが。
以前から溜め込んでいた不満が、とうとう限界を超えたのだろう。女性の下で働きたくないという。
これが冒険者に絡まれるのが嫌だとか辛いというなら、多少は対策の余地もあるのだが……。
リーダーが女性だから嫌なんて、実に下らないと思うが、まだ十九歳の彼には重要なのかもしれない。
「 『迷宮管理・冒険者管理班』に異動してみるか?」
定員二人に欠員はいないが、どちらか一人が辞めてしまうと、残った方に負担が大きくのしかかる。試しに三人にしてみようとは以前から考えていた。この際、試すのもアリだろう。
受付カウンターで頑張り続ければ、リーダーになる将来もあるとは言わずにおいた。女だと思って舐めた態度を取る冒険者と、根っこの部分で変わらないと思いながら。
半月後――。
「上手くいっているみたいだね」
教育を担当している部下ジョルンに話を振ってみた。
「まあ、悪くはないですね」
可もなく不可もないといった評価を口にする。
「やる気はあるけど辞めそう?」
「間違いなく辞めますね、C級に昇格したら直ぐに」
きっぱりはっきり。
そうか、同僚の目からしても辞めそうか。
ついでに言えば元から居るもう一人の部下も辞めそうだ。こちらはすでにC級になり、以前から精力的に休暇をダンジョンで過ごしている。着々と退職の準備を進めていた。
「君に辞める気がなくて助かったよ」
ジョルンはC級になって長いが、そういった気配は一向にない。彼の先輩と後輩二人が冒険者になって辞めたのを、本人は淡々と見送っていた。
「俺はA級に昇格して、支部長になるのが目標なんです。辞めませんよ」
「いいね、この町はA級冒険者が少ないし、後任を考えたら職員の中にA級がいるのは良い事だ」
大きすぎる目標だが悪くない。
支部長になる夢が、ではない。A級になるのがだ。
E級以上の全冒険者の最終ランクは大半がC級。A級は約一割しか到達できない狭き門だ。
「トールさんはどうなんですか? A級に上がれそうって聞いたことあるんですけど?」
「そういうのはいいかな。田舎でのんびり余生を送りたいし」
俺はB級になって長い。頑張ればなれるかもしれないが、職員を続けながら休日ごとにダンジョンを潜り、実力と実績を積んでいくのは体力的に厳しい。
まだ二十代のジョルンと違って、既にイイ歳したおっさんの俺が、無理に上を目指す必要はなかった。
「大体、C級っていっても実力差は大きいじゃないですか。一番層が厚いって言われてるランクですよ。C級になったら絶対稼げるなんて訳ないでしょう。甘いんですよ、辞めてった連中のほとんどが」
皮肉交じりの言葉だけど、実際のところ正しい。実入りは大きいが出費も大きく、うっかりすると金銭感覚が狂ってしまう。剣一本が職員の給与数年分と同等なんてのもザラにある。庶民の感覚からかけ離れているのだ。
「何より、冒険者は保障がありません。怪我をしても自己責任です。でもギルド職員だったら、腕や足の一本がなくなっても仕事がありますから」
なかなか世知辛い。でも真理だ。
ジョルンの先輩は職員時代に幼馴染と再会して、二人で田舎に帰ると決めた。
その前に稼げるだけ稼ごうと、冒険者になって職員の生涯年収ほどを稼ぎ、すっぱりと足を洗った。今では郷里で剣の先生をしながら、愛妻と子供に囲まれて幸せにやっている。たまに森に出る狼の群れを掃ったり、希少な薬草を見つけてギルドに売りに来る。だが後輩の一人は無茶をし過ぎて、ダンジョンで帰らぬ人となった。
「そんな訳で、募集は多目にお願いします」
「二人募集してるけど、三人にした方が良さそうだね」
麗らかな昼下がり、二人しかいない事務所で話すには生臭いものだった。
そして商人見習いのロスが仲間になり、入れ替わるようにカウンター班から異動したばかりの部下と、もう一人いた『迷宮管理・冒険者管理班』の部下が退職した。元カウンター班の部下はC級に昇格した直後だったが、辞めた二人でパーティを組むというから、なんとかなると踏んだのだろう。
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登場人物
ジョルン:ダンジョン保全、冒険者向け講習担当。C級冒険者。
ロス:元商人見習いの新人。童顔でかわいい見た目。D級冒険者。
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