冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―

紫月 由良

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1章 人事異動

03. 飲みニケーション

 夕方、ギルドを出る直前だった。持ち込まれた素材を解体する部門の長、ウェスクと顔を合わせたのは。

「久しぶりだな」
「狭いギルドなのにな」

 ウェスクは仕事柄、余所の部署に顔をだすことは少ない。
 俺も同様ではあるが、一階の受付カウンターと二階の事務所を往復したり、訓練所に足を運ぶため、結果的にギルド内をあちこち動き回っている。

「久しぶりに一杯どうだ?」
「いいね」
 ウェスクの誘いに二つ返事で応えた。


 入ったのはそれなりに喧騒はあるものの、 テーブルの間隔が広めで腰を落ち着けて飲める店だった。冒険者ギルドより鍛冶屋街の方が近い場所だけあって客は職人が多い。
 エールとともに何品か頼んだ。

「知り合いのいない店はいいなあ……」
 ウェスクのしみじみとした言葉に、俺も納得する。

 言葉をぼかしているが、冒険者の多い店で飲んでいると「俺たちの稼ぎで旨いものを食いやがって」と難癖をつけられることがあるのだ。「お前程度の稼ぎなんかたかが知れてるだろう」と言い返したいところだが、立場的に我慢しつつ適当にあしらうのは面倒臭い。絡んでくるのは必ずD級か、頑張った末にようやくC級に昇格した冒険者ばかりで、正直なところ稼ぎが悪い連中だ。

「最近はちょっと仕事が少ないらしいな?」
 あまり良い獲物が持ち込まれないと、解体班にいる職員がぼやいていた。

「それな、どうも国境辺りがキナ臭いことになりそうなんで、ファイアードラゴンだとかケルピーみたいな高額取引が極端に減ってるんだよ」

「聞いたことないな、ガセじゃないか?」
 冒険者はダンジョンを攻略するだけでなく、護衛任務などであちこち旅をしている者も多く、情報はかなり早く出回る。
 とはいえ誤情報も多い。

「とりあえず素材採取の依頼を注意深く確認する」
「こちらも解体に回る素材の記録を見直しておくよ」

 隣国との関係はさほど悪くない。国王が代ったという話もなければ、ダンジョンブレイクが発生したという話もない。

 多分、誤情報だが、もしかしたら素材の値上がりを意図して、どこかの商人が仕組んだという可能性もある。
 ウェスクが飲みに誘ってきたのは、情報収集のためだったかと思いながら、できあがった料理をつついた。

「ところで、部下が一気に二人も減ったって?」
「ああ、冒険者になるらしい。教えた直後に辞められるのは少し困る」
 政治向きな話が終わった途端、部下の話に跳ぶ。

「それでユイネちゃんをカウンターから引き抜いたと?」
「あくまで人手不足になったときのフォロー要員だ。ほかの業務もできる部下が多い方が仕事を回しやすいからな」

 部下の中で一番の古参になったユイネは、ウェスクもよく知っている。それどころか古株の職員全員が就職する前のF級やE級だったころの彼女を知っていた。

「昔は可愛いばかりの女の子だったけど、ずいぶん頼もしいお姉さんになったらしいじゃないか」
「ああ、冒険者も殴りとばす強さだ」
 絡んできた連中を物理で説教できるのは、今のカウンターで彼女しかいない。

「君のところは退職が少なくて羨ましいよ」
「うん、それだけは助かってる。でも生きた魔獣もみたいと言って、ダンジョン休暇を取ったまま帰ってこないのもたまにいるけどね」

 冒険者ギルドはダンジョンや魔獣が好きな連中が多いのだ。帰ってこなかった彼の部下たちは、肉の鮮度に目を輝かせながら、嬉々として魔獣を狩っているだろう。

 ダンジョン休暇は職員が冒険者ランクを上げるための制度で、下層や深層に潜るためにまとまった休みが必要なのでできた。本来、探索統括課の職員にしか必要ないが、ほかの部署の職員もよく取得する。

「元解体班だったら、活きの良いのが入ってくるだろう?」
「そりゃあもう、血抜きから何から完璧だよ! お陰で彼の討伐した獲物は、課内で引っ張りだこの人気商品だ」
 収納袋マジックバッグにしまう前に、手早く処置をしているのだろうか。解体班仕込みの技が気になる。

「講習を依頼したら受けてくれるかな? 一応、声をかけておいてくれないか」
「彼は面倒見が良いところもあるし、きっと受けると思うよ。……それよりもコカトリスの砂肝! 美味いと思わないか?」

「冒険者ギルドの近くでしか食えないと思ってたが、鍛冶屋街の近くでも食えるんだな」
 炭火で焼いて塩を振っただけだが、鮮度が良いからか臭みもなく良い味だ。

「実はさ、今日の昼間、ここの大将が買いに来てたから、絶対に美味いのが出るって思ったんだ」
 コリコリとした食感を味わいながら、幸せそうに湯気を吐く。

 冒険者が討伐したものはすべてギルドが買い取る。その後、職人や商人が買いに来るのだ。枝肉を肉屋が買いに来ることもあるが、熟成が終わるまでギルドの冷蔵倉庫に保管したものを、料理屋が買いに来ることもある。

「ここはさ、内臓料理が絶品なんだよ」
 新たに運ばれてきたキドニーパイとトマトベースのもつ煮込みトリッパを前に満面の笑みだ。

「人を選ぶ店だな。俺は平気だが」
「うんうん、だから誘ったんだよ!」

 ダンジョンに潜る時は、あらかじめ作り置きした料理や、焼くだけになった肉なんかが多い。とはいえ食糧が尽きることもある。だから冒険者は基本的に何でも食べられるようになっていく。

「君は相変わらず内臓好きだよね」
「そりゃあもう! だからギルドに就職したんだよ! 新鮮な内臓を触ったり食べたりできるからね!!」

 ウェスクは肉好きだ。食べるのもだが捌くのも。特に内臓が好きらしく、解体時は繊細な硝子細工を扱うように、慎重に扱うらしい。小さい魔獣や、毒腺を持つ魔獣など難しいものを一手に引き受けてはニヨニヨしているとか。

「仔牛のブレゼも絶品だよ」
 仔牛の胸腺リドヴォーを使った蒸し煮料理は、ねっとりとした食感とクセのない味わいがたまらなく美味い。半分取り分けて、残りをウェスクの方に押しやった。

 鮮度の良い内臓は臭みやエグみがなく、濃厚な風味がやみつきになる。
 とはいえ一人で飯屋に入ったら、これほど多く頼まなかっただろう。

 この後に出てきた黒牛ブラックキャトル――魔牛だが町の外にある牧場で飼育されている――のレバーパテが乗ったブルスケッタや、ブラッドソーセージも絶品だった。

「凄いな、生臭くない」
 ブラッドソーセージは少しでも鮮度の低い血を使うと、途端に臭みが出てくる。香辛料を多く使っても好き嫌いが分かれるほど癖が強い食べ物だ。
 正直なところ、俺もあまり好きな料理ではない。だがこの店のなら美味しいと感じる。

 しかも――。
「魔力が回復する……?」

 ポーションを飲むような、劇的な効果はない。かすかな魔力の揺らぎを感じるのと同時に、回復を感じた。
 だがダンジョンの中では、回復を助けるのは十分にメリットだった。

「この店は持ち帰りできるか?」
 常連らしいウェスクに尋ねる。

「どうだろうな? 一度も試したことがないからわからないが」
 美味く感じるのは雰囲気も重要だと考えるウェスクに、持ち帰りの可否を尋ねるのは間違いだった。

 だがつい聞いてしまいたくなる一品なのだ。
 エールのおかわりついでに聞いてみたら大丈夫だと返ってきた。
 山盛りのブラッドソーセージを、収納袋マジックバッグから取り出した自前の容器に移し替える。

「最近でもダンジョンに潜ってるのか?」
「ほとんど部下任せだ。ジョルンが良い感じに育って助かってるよ。だがまだC級だからな。下層より下は危険すぎるから俺が潜ってるよ」

 八〇層からなるダンジョンで、中層と呼ばれる四〇層までは部下に任せている。ジョルンは独りソロでも大丈夫だったが、もう一人の部下は同じC級とはいえまだ未熟だった。だから支部長ギルマス副支部長サブマスに随伴を頼んでいたのだが……。
 さらにその下の、下層と呼ばれる四〇層以下になると、さすがに部下任せは難しい。

「早く育つと良いな」
「ああ、ジョルンはA級を目指しているみたいだ。期待してるよ」

 まずはB級だが、コツコツと堅実に実績を上げる部下なら、到達できる目標だと思っている。
 俺を超える日がいつになるか、楽しみになりながらエールの入ったジョッキを空にしたのだった。


――――――――――――――――
登場人物
ウェスク:
魔獣解体、素材鑑定などを行う部門のトップ、内臓大好きおじさん。D級冒険者。
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