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1章 人事異動
06-2. 大人の相談2
「それは困るな」
全然、困っているようには見えない顔でしれっと返してくる。
――食えないおっさんだな。
自分もおっさんだというのは、この際、脇に置いておく。
食えないからこそ、支部長なんかになっているのだろうが。ダンジョンブレイクなど有事の際に冒険者を率いる必要があるからこそ、支部長と副支部長は高ランクでなければいけないという規定がある。
だがA級冒険者の人数より、支部の数の方が圧倒的に少ない。強いだけでなれる役職ではないのだ。
「取敢えず、普段通り暴走すれば良いんじゃないですかね。部下を巻き込まない形で」
「お前を巻き込むのは良いのか?」
「俺を巻き込んでも目くらましにはならんでしょうが」
深層以外なら独りで狩りをしながら潜れる。連れて行っても戦力として数えられるのがオチだと、気付かないはずはない。 ただ揶揄ってるだけだ。
「いっそのことウェスクを連れて行ったらどうです? 形だけとはいえ彼も一応はD級冒険者だ。生のドラゴンを見せてやると言えば、嬉々として付いていきますよ」
生きたままの魔獣を見たい。狩った直後に血抜きをしてみたいと煩悩に突き動かされた結果、必要ないのにD級まで昇格してみせたのだ。職業的使命感からの努力でないのは、一度でもダンジョンに付き合った連中なら知っている。
「今の状況で解体班を連れて行ったら、不足した素材を目の前で指示して狩ってると思われるだけだ」
「しかしユイネを泣かせるのは……。いっそのことジョルンを連れて行くのはどうです? A級を目指しているみたいだし、深層を見せると言えば泣いて喜ぶでしょう」
泣いて抵抗するの間違いかもしれないが、いずれ通る道であり、早いか遅いかの違いしかない。
「それでも構わんが、帰ってきたばかりで直ぐにダンジョンに行かせるのは不自然だ」
「不自然でも、D級を深層には連れて行かせませんよ。もちろん下層にも」
ユイネだけでなく、ロスやイストも下層や深層に連れて行くのは反対だった。
「ジョルンから調査のやり直しを伝えるよう指示を出します。絶対に一人で下層に行ってください。深層に向かうのはほかの冒険者に気取られないように。バフと気合でなんとかなるでしょう?」
なんともならないという言葉は受け付けない。
「どうしてもと言うならイストも連れて行って四○層で二人を帰します。俺だけなら深層も付き合えなくはないし、D級とはいえ二人一緒なら四○層からでもなんとかなるでしょう」
かなり厳しい行程にはなるだろうが、それでも下層に連れて行くよりはマシだ。
平行線の続く話し合いに、折れたのは支部長の方だった。
大きく溜息をついた後に、上目遣いでこちらを伺う。
座っている支部長と立っている俺の身長差だからこそできる技であるが、可愛くないおっさんがやってもウザいだけなので、止めた方がいい。
「どうしても駄目か?」
「はい」
即答する。話し合いの余地はないと知れ。
「どうしても?」
「はい」
再び即答。だから話し合いの余地は(ry)
「だが行きたいんだよなあ」
「お一人で」
しつこいな。だが無理なものは無理なのだ。
「諦めるしかないか?」
「ええ、諦めてください」
きっぱり。断る一択なのに、何を追いすがるか。
「仕方がないなあ……。君らが行った後に、ジョルンと調整するよ」
「そうしてください」
一応の解決をみたところで事務所に戻る。
何としても支部長の同行は避けねばならなかった。
事務所に戻ると同時にジョルンとユイネを呼び出し、三人で打ち合わせに入った。
「――そういう訳で支部長を同行させたくない。悪いが引き止め工作を頼む」
ほかの部門長たちにも根回しをしようと思いながら、ジョルンに指示を出した。
「ユイネは仕事がひと段落したら早退して、明日のための買い出しを。食糧は多目で」
最初から半月の日程で予定は組んである。支部長が合流したところで、日程の延長はないだろう。
それに万が一、合流したとして、自分の分は用意しているだろうが念のためだ。
「ジョルンとユイネは日付が変わるころにギルドの裏で待ち合わせる。夜に出るぞ」
「夜はさすがに……」
「四層あたりで夜を明かす。ジョルンは露払いを手伝ってくれ。それと薬草を採取しながら、就業時間に間に合うように戻れ」
ジョルンが難色を示したが、俺の無茶なんか支部長や副支部長と比べたら児戯にも等しい。
四層までなら魔獣もほとんど出なくて安全だ。
「ユイネ、三五層まで一気に下りるから、その気でいてくれ」
D級冒険者の脚力なら途中で一泊するのが普通だが、今回は悠長なことはしない。
二人の鼻が白じんだが、構っている余裕はなかった。
「かなり厳しいようだが、支部長の無茶よりはマシだと思ってくれ」
そう言い切ると、二人の顔が「ああ……」とい言いたげになった。虚無の顔とも言う。
「すまないと思っている。だが今回は諦めてくれ」
俺もこんな強行軍は嫌なのだ。
我慢、忍耐、辛苦といった言葉が頭を過るが、気のせいだと思うことにした。
まだ朝の早い時間帯であり、カウンターの冒険者対応が減ったばかりの頃だったが時間が足りない。やることが多過ぎるのだ。部下のケアを後回しにして、物資流通課――解体班を含む部署に足を運んだ。
「ウェスク、済まないが明日からダンジョンなんだ。ポーションを出してもらえるかな?」
「ああ、聞いてるよ」
そう言いながらポーションを出してくる。
「手持ちはどれくらいだっけ?」
「まだそれなりに残っているが、、もしかしたら支部長に捕まるかもしれん……」
暗に無茶な潜行に付き合わされる可能性を匂わす。ロスとユイネが無理矢理、下層に連れていかれたのを知っているからか、「ああ……」としか言わない。
「上級ポーションも持っていくか?」
「怪我はしないだろうが、体力回復系は欲しいな。ついでに魔力回復も」
言った後、小さく溜息をつくと、ウェスクも釣られたように溜息をつく。
「困った上司だよね」
しみじみとした口調だ。振り回されるのは俺だけではないらしい。
「まったく……」
再び溜息をついた。今度はハモる。
「そういうことなら、調剤室に行こうか」
冒険者が町の薬師に行く暇がなかったとき用に、ギルド内で販売するポーションを作成する部門だ。職員がダンジョンに潜る時に支給される分も、ここから出ている。
ここでポーション類を補充した後は、用意している分に追加して食糧その他を買い込みに出る必要があった。
全然、困っているようには見えない顔でしれっと返してくる。
――食えないおっさんだな。
自分もおっさんだというのは、この際、脇に置いておく。
食えないからこそ、支部長なんかになっているのだろうが。ダンジョンブレイクなど有事の際に冒険者を率いる必要があるからこそ、支部長と副支部長は高ランクでなければいけないという規定がある。
だがA級冒険者の人数より、支部の数の方が圧倒的に少ない。強いだけでなれる役職ではないのだ。
「取敢えず、普段通り暴走すれば良いんじゃないですかね。部下を巻き込まない形で」
「お前を巻き込むのは良いのか?」
「俺を巻き込んでも目くらましにはならんでしょうが」
深層以外なら独りで狩りをしながら潜れる。連れて行っても戦力として数えられるのがオチだと、気付かないはずはない。 ただ揶揄ってるだけだ。
「いっそのことウェスクを連れて行ったらどうです? 形だけとはいえ彼も一応はD級冒険者だ。生のドラゴンを見せてやると言えば、嬉々として付いていきますよ」
生きたままの魔獣を見たい。狩った直後に血抜きをしてみたいと煩悩に突き動かされた結果、必要ないのにD級まで昇格してみせたのだ。職業的使命感からの努力でないのは、一度でもダンジョンに付き合った連中なら知っている。
「今の状況で解体班を連れて行ったら、不足した素材を目の前で指示して狩ってると思われるだけだ」
「しかしユイネを泣かせるのは……。いっそのことジョルンを連れて行くのはどうです? A級を目指しているみたいだし、深層を見せると言えば泣いて喜ぶでしょう」
泣いて抵抗するの間違いかもしれないが、いずれ通る道であり、早いか遅いかの違いしかない。
「それでも構わんが、帰ってきたばかりで直ぐにダンジョンに行かせるのは不自然だ」
「不自然でも、D級を深層には連れて行かせませんよ。もちろん下層にも」
ユイネだけでなく、ロスやイストも下層や深層に連れて行くのは反対だった。
「ジョルンから調査のやり直しを伝えるよう指示を出します。絶対に一人で下層に行ってください。深層に向かうのはほかの冒険者に気取られないように。バフと気合でなんとかなるでしょう?」
なんともならないという言葉は受け付けない。
「どうしてもと言うならイストも連れて行って四○層で二人を帰します。俺だけなら深層も付き合えなくはないし、D級とはいえ二人一緒なら四○層からでもなんとかなるでしょう」
かなり厳しい行程にはなるだろうが、それでも下層に連れて行くよりはマシだ。
平行線の続く話し合いに、折れたのは支部長の方だった。
大きく溜息をついた後に、上目遣いでこちらを伺う。
座っている支部長と立っている俺の身長差だからこそできる技であるが、可愛くないおっさんがやってもウザいだけなので、止めた方がいい。
「どうしても駄目か?」
「はい」
即答する。話し合いの余地はないと知れ。
「どうしても?」
「はい」
再び即答。だから話し合いの余地は(ry)
「だが行きたいんだよなあ」
「お一人で」
しつこいな。だが無理なものは無理なのだ。
「諦めるしかないか?」
「ええ、諦めてください」
きっぱり。断る一択なのに、何を追いすがるか。
「仕方がないなあ……。君らが行った後に、ジョルンと調整するよ」
「そうしてください」
一応の解決をみたところで事務所に戻る。
何としても支部長の同行は避けねばならなかった。
事務所に戻ると同時にジョルンとユイネを呼び出し、三人で打ち合わせに入った。
「――そういう訳で支部長を同行させたくない。悪いが引き止め工作を頼む」
ほかの部門長たちにも根回しをしようと思いながら、ジョルンに指示を出した。
「ユイネは仕事がひと段落したら早退して、明日のための買い出しを。食糧は多目で」
最初から半月の日程で予定は組んである。支部長が合流したところで、日程の延長はないだろう。
それに万が一、合流したとして、自分の分は用意しているだろうが念のためだ。
「ジョルンとユイネは日付が変わるころにギルドの裏で待ち合わせる。夜に出るぞ」
「夜はさすがに……」
「四層あたりで夜を明かす。ジョルンは露払いを手伝ってくれ。それと薬草を採取しながら、就業時間に間に合うように戻れ」
ジョルンが難色を示したが、俺の無茶なんか支部長や副支部長と比べたら児戯にも等しい。
四層までなら魔獣もほとんど出なくて安全だ。
「ユイネ、三五層まで一気に下りるから、その気でいてくれ」
D級冒険者の脚力なら途中で一泊するのが普通だが、今回は悠長なことはしない。
二人の鼻が白じんだが、構っている余裕はなかった。
「かなり厳しいようだが、支部長の無茶よりはマシだと思ってくれ」
そう言い切ると、二人の顔が「ああ……」とい言いたげになった。虚無の顔とも言う。
「すまないと思っている。だが今回は諦めてくれ」
俺もこんな強行軍は嫌なのだ。
我慢、忍耐、辛苦といった言葉が頭を過るが、気のせいだと思うことにした。
まだ朝の早い時間帯であり、カウンターの冒険者対応が減ったばかりの頃だったが時間が足りない。やることが多過ぎるのだ。部下のケアを後回しにして、物資流通課――解体班を含む部署に足を運んだ。
「ウェスク、済まないが明日からダンジョンなんだ。ポーションを出してもらえるかな?」
「ああ、聞いてるよ」
そう言いながらポーションを出してくる。
「手持ちはどれくらいだっけ?」
「まだそれなりに残っているが、、もしかしたら支部長に捕まるかもしれん……」
暗に無茶な潜行に付き合わされる可能性を匂わす。ロスとユイネが無理矢理、下層に連れていかれたのを知っているからか、「ああ……」としか言わない。
「上級ポーションも持っていくか?」
「怪我はしないだろうが、体力回復系は欲しいな。ついでに魔力回復も」
言った後、小さく溜息をつくと、ウェスクも釣られたように溜息をつく。
「困った上司だよね」
しみじみとした口調だ。振り回されるのは俺だけではないらしい。
「まったく……」
再び溜息をついた。今度はハモる。
「そういうことなら、調剤室に行こうか」
冒険者が町の薬師に行く暇がなかったとき用に、ギルド内で販売するポーションを作成する部門だ。職員がダンジョンに潜る時に支給される分も、ここから出ている。
ここでポーション類を補充した後は、用意している分に追加して食糧その他を買い込みに出る必要があった。
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