冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―

紫月 由良

文字の大きさ
9 / 30
1章 人事異動

07. 噂の出どころ

毎日更新を目指していますが、原稿のストックがないため、更新できない日もあります。

――――――――――――――――――


 支部長ギルマスを撒くために、深夜に強行したダンジョン行だが、結論を言うと当初の半月が五日に大幅短縮されて帰還になった。

「ロスの手柄だな」
 隣国との間に戦争が起きるかもしれない、そんな情報が静かに広まり、鎧など武具になりそうな素材の持ち込みが減って一ヶ月弱。

 噂の出どころが判明したのはロスの古巣、冒険者ギルドに就職する以前の、商人見習いだったころの知り合いから、もたらされた情報だった。

「まさか国境が隣国の反対隣のことだったとは……」
 確かに国境で間違いない。
 とはいえ素材が枯渇とは言わずとも減るくらいだから、もっと近い場所が戦場になるだろうと思っていた。

「事情の半分以上は、相場を弄ぼうとした商人が理由ですけどね。大手の商会なら、大量輸送の手段もありますし、あながち相場の操作だけで儲けようとは思ってなかったとは思いますけど……」
 のほほんとお茶を飲みながら話すロスは、いつもと同じ童顔ににこやかな笑みを浮かべていた。

「物の相場なら、商人の得意とすることですからね」
「ロス、君は見習いと言っていたが、役職はそれだけか?」

 下っ端の駆け出しではなく、支店長見習いとかそういう役職が付いていてもおかしくないほど情報通である。ギルド内の素材の在庫が減ってきているのは、幹部職員だけが知っている話で、解体班では緘口令が敷かれていた。ウチの部署で知っているのは俺だけで、ジョルンにさえ教えていなかった。

「本店の支配人見習いでした。育ったら支店の支配人として店を任されるという話で。でも詳細に話したら採用しなかったでしょう?」

「当然だな」
 情報漏洩に繋がる恐れがある。冒険者ギルドと商会、双方にとって。
 ウチからすれば知り得た情報を商会に流されるリスクがあり、商会からは知り得た内部情報を手土産に転職したと思われ兼ねない。
 どちらの組織から見ても有難くない話だ。

「支配人さんと商会長からは、『お前の魔獣好きは今に始まったことではないから、やりたいようにやってみろ』って送り出されたんで、円満退職ですよ」
 俺が言わんとするところを先回りする。

「今の、この部署は僕にとって天国みたいなところなんです。辞めさせるなんて言わないですよね?」
 ふわりと微笑む童顔は邪気がなく、商人になりきれていないただの下っ端の雰囲気である。

「辞めさせるとは言わんが……。それよりよく素材の持ち込みに問題があるのがわかったな」
「カウンター業務に携わってたんですよ。わかって当然じゃないですか。だから偶然飲み屋で会った昔の同僚に、ちょっと話を聞いたんです」
 あ、機密とか後から問題になりそうな情報を聞き出すような真似はしなかったですよ、とさらりと言葉を続けた。

「古巣とギルドの関係が拗れるような真似をしなければ良い」

「はい!……それでですね『隣国がきな臭い。特にこの国の反対側の治安が悪くなってるから、護衛の依頼を受けそうな冒険者に、警戒するように伝えた方が良い』と言われまして。代わりに素材があればそこそこの価格で買い取らせてほしいと」

「売買価格に関しては、俺の一存では無理だな」
 情報の対価として、値上がりしつつある素材を元の値段で卸せということか。

 相場を勘案して、買取額や売却額を決定するのは渉外の担当だ。
 大口の売買取引などを受け持つ部署だが、相場の確認のほかに価格の決定権限を持っている。

 ダンジョン四〇層で、副支部長サブマスが俺に、地上に戻れと言ったのは昨日。二○層まで戻れば、ジョルンが待っていると言われてとんぼ返りした。その日の夕方に合流してユイネを預けると、更に一人で町に戻ったのは下限の月が出た少し後だった。

「だが副支部長サブマスが相場に介入可能なように、それなりの数のドラゴンを狩って戻ってくる。まあ相場は下がるだろうな」

 冒険者のために、高値で売買できるのが良いと思われがちだ。
 しかし投機に巻き込まれたり、必要な装備を入手できなくなったりして、結局のところ痛い目に合うのだ。

副支部長サブマスが狩った分で不足するようなら、支部長ギルマスがダンジョンに行くだろうし、俺も狩ってこれる。多少、高いくらいで落ち着くんじゃないか」

「そう伝えても良いですか?」
「決定じゃないが、それでも良ければ構わない。これ以上の話なら、支部長ギルマスに面会してもらうしかないな」

「ありがとうございます」
 ロスは満面の笑みを浮かべて礼を言った。

「ところで、何で急ぎで戻って来たんですか?」
「君の話の件だと言いたいところだが……別件で緊急案件が出てな。関係者を集めて会議だ。本当は副支部長サブマスも含めたいが、素材採取があったんで抜けたんだ。既に打ち合わせは終わったが」

 どういう理由か、具体的なことは後から知るだろう。機密に触れる権限がないとロスを突っぱねる気はない。秘匿される情報に近づかなければ、それだけ身の安全が図れるというだけだ。

 今回の相場の件も、部門長以下でも知っている職員はいた。ウチの部署ならジョルンだ。新人向けのダンジョン研修なら、わざわざ俺が講師役を買って出る必要がなかったのに強行した理由を説明した結果だった。
 この件もおいおい、ロスやほかの部下たちが知ることになるだろう。

「ところで、カウンター奥の花だが……」
 唐突ともいえる話の変え方だったが、帰還ともに気になっていたのだ。今まではなかった花の存在に。

 小さな花瓶に活けられているのは、気付いたら庭の片隅に生えているハーブだった。ポーション作りには使われないが、香りが良いのでハーブ茶にして飲まれることが多い。

「アミラです。花の一つでもあれば、少しは華やかになるかもとかなんとか。雑草を飾っても華やかかどうかはわかりませんが、雰囲気は和らぎますね。花の配色も絶妙だし、良いですよね?」

 薄紅色と白の花を思い出しながら言うロスに、どう返そうか悩みながら俺は曖昧な顔を作るしかなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。