冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―

紫月 由良

文字の大きさ
17 / 30
2章 ダンジョン講習

03. 炎野牛(フレイムバッファロー) ―ダンジョン1日目―

 砂漠階層は三階層ほど続く。
 その前後の階層は乾燥しているが、カラカラに干からびた感じより湿気があって過ごしやすい。

「キツいよな……」
 ニールがぼやくのも頷ける。昼間は死ぬほど暑いのに、夜は水が氷るほど冷えるのだ。

 その上、陽射し――太陽がないのに、強い影ができるほどの陽光を感じる――を遮る、背の高い樹木が少ない。理由がなければ長居したい階層ではないのだ。

「少し川に寄っていかないか?」
「次の階層までの道にあったな、そういえば」

 最短に近い所を歩いているが、枯れそうで枯れない細い川があった。
 水辺には魔獣も集まる。上手くいけば休憩がてら何か狩れるかもしれない。



 ……と思った自分が馬鹿だった。
 だがしみじみとしている暇はない。

 炎野牛フレイムバッファローの群れに襲撃されている今は。
「腹は傷つけるなよ、肉が不味くなる!」
「そういうコト言ってる余裕あるのかよ!?」

 多少は危機的状況だが、何も考えられないほどではない。
 連中がいきり立っているとはいえ、圧倒的な力の差を見せつければ逃げ行く。

「胃とか腸を傷つけると臭くて食えたモンじゃなくなるだろう! 狙うんだったら頭か首だ!!」
 冒険者なのだ。常に高値で買い取られるのを前提にするのは当然のこと。何をいわんや、である。

「――ちっ!」
 一頭が全力疾走してくる。角は鋭くないが太くて長い。突かれたら死んでもおかしくなかった。

 自身にバフをかけるのと同時に炎野牛フレイムバッファローに向かって走る。ぶつかり合う直前で横に避け、身体が交差する刹那、首を斬る。落ちはしなかったが、致命傷には十分だった。

 背後で倒れる音がした。
 振り返る余裕はない。無論、収納袋マジックバッグに仕舞う余裕も。倒した炎野牛フレイムバッファローが踏みつけられてボロボロになるかもしれないが、諦めるしかなさそうだ。

 二頭目、三頭目を斬り倒す中で、ニールの様子を観察する。
 余裕が無さそうでいて、きっちり首を狙っていた。

 ――悪くない。
 だが既に息が上がっている。群れが逃げていく前に体力が尽きそうだった。

 体力がない、と断じる気はない。
 ニールは未だD級。狩り方が下手で買い取り査定が付きにくいからであるが、事情を差し引いたところで、C級相当でしかないのだ。B級オレの感覚で評価するのは忍びない。

 ――少し負担を減らす必要があるな。
 炎野牛フレイムバッファローを避けつつ、いつの間にか開いていたニールとの距離を縮めながら、彼の前に出た。多少は露払いになるだろうと思いながら。
 しかし通り過ぎた炎野牛フレイムバッファローは大きく弧を描いて再び襲ってくる。

 ――俺たちをただの脅威と思っているのではなく、排除すべき敵だと判断したか?
 群れを全滅させるのは、面倒臭いができなくはない。乱獲になりかねないから、できれば避けたいが。
 一〇〇頭に満たないような群れだ。その中には角のない雌や子牛も混じっている。冒険者二人でどうにでもなるとはいえ……。

「盾で身を守って、目を閉じろ!」
 懐から閃光玉を出すと、地面に叩きつけた。

 キツく瞼を閉じていても眩しいが、うっかり目を開けててもしばらく何も見えない程度で、さしたる害はない。
 とはいえ目眩ましには十分だった。気勢を削がれたのか、更に襲ってこようとはしない。
 突っ込んできた炎野牛フレイムバッファローは勢いそのままに駆け抜けていき、戻ってはこなかった。

「踏みつぶされなかったみたいだな」
 倒した個体に大きな損傷は見当たらなかった。群れで生活する獣は、敵に突っ込んでくるのは基本的に雄。倒れていたのもすべて牡牛だった。

「角が良い値段になるぞ、肉だって悪くない」
 良かったなと声をかけると、ニールの疲れた顔が一気に笑顔になった。

「そうかなのか! これだけで一ヶ月分の稼ぎになるか!?」
 嬉しさを隠さず収納袋マジックバッグに入れていく。俺が六頭、ニールが四頭と悪くない成果だった。

「雑に倒すより面倒だったと思うが、今までと査定額が全然違うから期待していいぞ」
 別にギルドだって安く買い叩きたい訳じゃない。状態が良ければそれなりに金は払う。渋れば冒険者のモチベーションは維持できないのだ。

「どれくらいになる?」
「大きさによるが一頭三から五Gゴールドってところか。肉だけでなく角と皮も売れるから、それも上乗せした額だ。デカい個体なら六Gゴールドいくこともある。正確なところは査定班でないとわからん」

 二人とも雄しか倒してないから、三ゴールドよりも五ゴールドに近い査定額になるだろうとは思う。
 だがぬか喜びさせたくはない。少し低めの額を口にした。

「スゲーな。炎野牛フレイムバッファローだけで一〇Gゴールドくらいは稼げたのか!」

 日常生活は銅貨カパーがあれば事足りる。家賃やひと月分の宿代になれば金貨ゴールドの出番もあるが、大抵は銀貨シルバーでの取引になる。
 報酬が金貨の単位になるのは、若手冒険者の成長の通過点だ。

 一Gゴールドは一〇シルバー、一シルバーは一〇〇カパーだから、一Gゴールドは一〇〇〇カパーになる。一番安い個室の宿で三〇カパー、冒険者ギルドが貸す新人冒険者向けの部屋も同額だが、ベッド以外、何も置けないような部屋ではなく、もう少し上の価格帯でもっと広い部屋と同じランクだ。

「一ヶ月間の生活費だけなら十分だが、装備を揃えるとなれば全然足りない額だな」
 剣はそれなりにマシなものを持っているが、軽装の革鎧は随分草臥れている。きっと夜営装備など戦闘に関係ないものは、もっと酷い物だろうと、容易に想像ついた。

「肉類は全部売らずに、食糧用に残した方が安上がりだ。それに出回りにくい肉があれば、潜っている間に飽きがこない」
「違いない!」

 魔鶏と魔牛は地上でも育てられているが、気性の荒い魔猪などはダンジョンでしか手に入らないから、牛より少しだけ高い。炎野牛フレイムバッファローは高級肉ではないものの更にそれ以上の値がつく。

「収納し終えたなら、もっと稼げる階層まで行こうか」
 砂漠階層は暑くくて過ごしにくい。せめてもう少し穏やかな環境に辿り着きたかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。