冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―

紫月 由良

文字の大きさ
24 / 30
2章 ダンジョン講習

10. ヘラジカ狩り ―ダンジョン3日目―

 四三層に到着したのは夕方近くだった。

 普通に歩けば昼過ぎには辿り着けたのだろうが、臨時の魔法の講義で時間を取られた。教えるのは骨が折れるかと思ったが、既に魔法を使えているため、魔力を感じるところから始める必要がなかったのは良かった。魔力を使うのも非常に限定的だったから、変な癖がないのも幸いだ。

 とはいえかなり初歩の段階からの説明をした上に、熟練度がモノをいうこともあって、それなりに時間はかかったが。

「夜営の前に、一頭くらい狩っておくか?」
「そういう軽いノリで倒せる獲物だったのか!?」
 少々感情的な返しだった。
 龍とはいえ最小最弱、所詮は"劣等レッサー"種でしかないのに。

「圧倒的に力が足りないが、図体のデカさや攻撃力を知っておいても良いと思うがどうだろう?」
「どうだろう…………って俺が聞きたいよ。攻撃は入ってもかすり傷しかつけられないだろうが」
 冒険者が弱腰なのはいけない、ここは少し自信をつける方向か……?

「レッサードラゴンが難しいなら大箆鹿ヒュージエルクはどうだ? アレも大概デカいぞ。その上、極冠狼ポーラウルフよりノロくて、銀狼シルバーウルフより力が弱い」
大灰色熊グレートグリズリーと同じくらいデカい上に俊敏で、極冠狼ポーラウルフよりも力が弱いってことだろ?」

 少々ネガティブな言い方だった。事実ではあるが、名の上がった魔獣はすべてC級相当でしかない。B級に近い実力を持つ冒険者が狩るような種とはいえ。
 いまだニール一人で狩るには難しい魔獣もあるものの、近い将来何とかなりそうである状況で、この認識はいただけない。

「そういう例えもできるな。だが大箆鹿ヒュージエルクは草食だ。無暗に襲ってこないぞ」
 ただし、敵には容赦しない苛烈な一面もある、とは言わないでおく。先ほど見たボウアイベックスよりもはるかに図体がデカいことも。

 初めて足を踏み入れる階層に、ニールは少々過敏になり過ぎている。今後の冒険者活動を考えると、不安材料は少ない方が良い。四一層より下は上の階層――地上とさして変わらない自然環境と、地上より一回り大きく力強い程度の魔獣がほとんどを占めるものとは、一線を画しているのだ。

 荒っぽいが限界まで引っ張っていくつもりであり、ニールはついてこられるポテンシャルを持っている。
 魔力反応を探り、それっぽい反応を見つけると進路を合わせた。

 できるだけ静かに移動すると、少し開けた場所に群れで草を食む大箆鹿ヒュージエルクを発見。地上では群れを形成しないらしいが、ダンジョン内では大規模な群れを作ることもある。

「角が立派なヤツを狙おう」
 小声でニールに伝える。

「狩るのはイイけど、ヤツらの速度についていくのは難しいんじゃ?」
「群れの前に回る。後はコレの出番だな」
 そういって小型の矢を見せた。腕に装着できるほど小さな弩で射るものだ。

「空に向かって放つと、落ちてくるときに音が鳴る」
 やじりの代わりに小さな筒がつく。殺傷力はほぼないが、甲高い音を出しながら落下するのだ。

 この階層は下草の丈が高い。隠れながら移動するのは容易だった。
 ニールと二人、少し距離をあけると、真上より少しだけ角度を付けて矢を放つ。

 ――!!

 風が抜けるような音を立てて矢が落下に入ると同時に、大箆鹿ヒュージエルクが一斉に走り出す。
 矢は狙い通り、群れの後方に落下軌道を取って――俺たち目がけて走り出してきた。

「潰されるなよ!」
 重量級の草食獣の群れだ。うかうかすると踏みつぶされる。

 とはいえ向こうも前方の敵に対して回避行動を取るから、早々危険な目には遭わないが。
 獲物に対して前方から走りよるため、足の速さの差はどうとでもなる。二頭仕留めたところで、群れが完全に走り去った。

「どうだ?」
「悪くない成果だ」
 収納袋マジックバッグに入れながらニールを確認すると、満面の笑みをしている。足元には体格の良い雄が三頭。頸への一撃と中々状態が良い。査定額が期待できそうだった。

「三日間で随分、腕を上げたな」
「ああ、あんたのおかげだ!」
 素材をできるだけ少ない傷で倒すコツが身に付いたみたいだ。今日までの講習でも、現状で十分やっていけるだけの技術が身についている。

 ――これならC級まで直ぐだな。

 多分、一か月か二か月といったところか。どれほど遅くても三か月かからずに昇級可能だろう。冒険者になってからの経験年数からするとやや遅いくらいだが悪くない。

 それ以上にまともに稼げるようになれば装備を一新でき、充実した冒険者生活を送れるだろう。
 とはいえ現状に満足してしまえば、その先はない。
 ここはレッサードラゴンを倒す感触を得てほしい。

「今日はここまでか」
「どこら辺で夜営する?」
 これ以上は完全に陽が暮れそうだ。納得いく戦果を出したところで、狩りを終えるのは気持ちが良い。

「そうだな……」
 どこが良いか、四三層の地形を思い出しながらこたえた。



 陽が暮れるのとほぼ同時くらいに、夜営の支度が終わった。
 ――少々、欲張りすぎたな。

 完全に暗くなりきる前に食事が終わるくらいにすべきだった。角灯ランタンに使う魔石がもったいない。魔力を補充すれば再び使えるとはいえ、魔力量の少ない平民には貴重なのだ。
 周囲に張った結界は認識阻害効果があり、明るくても魔獣が寄ってくることがないことは幸いだったが。

「鶏の捌き方を教えてくれ」
 ニールの思いのほかの食べっぷりに、昨晩二羽目をおろした。今夜、三羽目を捌くと少々多すぎになるが、収納袋マジックバッグに入れておけば劣化はない。

 それよりもやる気を削ぐ方が問題であるし、現地調達した食糧を調理できないのでは困る。
「構わないよ」

 二つ返事で引き受けて、横に並んで魔鶏を捌いた。一度では難しいだろうが、何度かやれば覚えるだろう。それに魔獣の捌き方なら、冒険者ギルドの定期講習に入っている。今回、覚えきれなくても、地上に戻ってから受講すれば問題ない。参加者の多くはD級やE級冒険者だが、戦闘系の講習と違って、C級冒険者が混じることもある。ニールが参加しても悪目立ちしないだろう。

「ムズいが、これで食糧に困らなくなるんだったら頑張れるな!」
 少年のように目をキラキラさせている。
 食べることが好きなようだから、肉を捌くのは楽しいのかもしれない。

「慣れるまで大変だが、覚えたら簡単だ。食糧の現地調達はよくあるから、鶏の捌き方だけでなく食べられる野草や果実なんかの講習もある。若手以外の冒険者も受講してる。何だったら冒険者以外も。原則、冒険者のみだが、ここら辺の大人は幼いころにF級冒険者として薬草採取で小遣い稼ぎをしてるから、一応は冒険者扱いできる」

「抜け穴だな」
「冒険者以外も受け入れる余地があるからな」
 割と頻繁に講習を行っているというのもあって、満員になることがないからできるのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。