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2章 ダンジョン講習
11. 夜営からの四四層へ ―ダンジョン3日目~4日目―
更新が止まってすみません。
あと3,4話で2章完結です。
________________
寝入った直後だった。
――レッサードラゴンか。
跳び起きると手早く身支度を調える。といっても枕元に置いた剣を、身に着ける程度しかやることはないが。
再びの咆哮。
夏の終わり、繁殖期間の最中だ。雄同士が雌を賭けて争っているのだろう。レッサードラゴンの声に混じって何かが走る音がある。近くにいた獣たちが怯えて逃げまどっているのだろう。
――移動するか?
それなりに騒動から距離はある。
だが声が聞こえるなら予想より近いかもしれなかった。レッサードラゴンの雌をかけた闘いに巻き込まれなくとも、逃げ惑う草食獣の群れに巻き込まれる可能性はあるのだ。
「何だ?」
「繁殖期によくあるヤツだ」
少し遅れてニールが顔を出す。夜営のためのマットなどを回収すれば、直ぐにでも移動できる出立ちだ。
「レッサードラゴンは昼間の行動だと思っていたが?」
「一部を除いてドラゴンは基本昼行性だ。とはいえ人間のように寝るわけじゃないから、この時間に活動するのもおかしいとまでは言えないが……」
話しながらこの先の行動を考える。一キロ以上の距離はあるとはいえ、このまま夜営を続けて大丈夫か。
「寝てていいぞ」
地面に座ると火を起こす。状況が変わるまで様子を見たかった。
「うるさすぎて眠れん」
ニールが俺の向かいに座った。
咆哮の合間にパチパチと木の皮がはぜる音が聞こえる。
火にかけた小さな鍋で湯が沸き、コポコポと泡立つ。その中に布袋に入れた茶葉を放り込んだ。
昼間は暑いくらいでも夜には冷える。涼しい中で飲む熱い茶は美味い。
「入れるか?」
スキットルを渡され、一昨日と違ってありがたく受け取った。注ぎ口からはふわりと甘い香りが漂ってくる。
「美味いな」
「だろう?」
爽やかな酸味と甘い香りが茶の香りと合わさる。
ニールのニヤリとした笑みは少年のようだ。
「長年作ってるだけある。売り物の酒と同じかそれ以上の味だ」
「そりゃあ年季が違うからな」
言葉こそ偉そうだが、心から嬉しそうに言うのが微笑ましい。いたずらっ子のような、十代前半の少年のような笑みだった。
半時間ほど雑談をしながら様子を窺ったが、雄の闘いが収まる気配はない。
「階層を下りようか」
「今からか? 夜の移動は危なくないか?」
視界の利かない中は昼よりも危険度は上がる。
だが――。
「このまま寝ずに明日動きたいか?」
「……それは、嫌だな」
こたえると立ち上がり、手早く荷物をまとめ始める。数分後には二人とも出発できる状態だった。
角灯の光量を強めにする。夜のダンジョンでは目立つが、四三層は肉食で警戒すべきはレッサードラゴンだけ。それよりも大箆鹿を始めとする、大型の草食獣の群れを避ける方が安全性が上がるのだ。
魔法で探査をしながら、昼間とさほど変わらない速度でダンジョンを突っ切って四四層に辿り着いたのは、夜営地を後にして二時間ほど経ったころだった。
朝、空が白む頃に目を覚ました。
どれほど遅い時間に寝ても、同じ時間に起床するのは若いころから変わらない。少し離れたところに、夜営している冒険者パーティが何組か。俺たちと同じく発情期の雄同士の争いを避けて、上の階層から避難してきたのかもしれない。
「早いな」
身支度を整えていると、ニールも起き出してきた。俺とほんの数分の差だ。
夜具を片付けると、火を起して茶を淹れる。夏の終わりとはいえ、夜はそれなりに涼しく熱い茶が美味い。
「今日は昼頃までこの階層でレッサードラゴン狩りだ、できるだけ多く倒そう。その後は上に上がる」
ダンジョン講習は五日間とはいえ、往復の移動も込みだ。今日中に三十層くらいまでは戻らないと、明日中に地上への帰還は難しい。一応、何か問題が発生すれば対応することになるから、厳密に五日間で帰還しなければ捜索されるなんてことにはならないが。
予定を説明すると朝食を手早く済ます。昨夜のうちに作っておいたから、大して時間はかからなかった。
探査魔法で確認しながらレッサードラゴンに近づく。図体がデカいだけあって、割と簡単に見つかるのは楽だ。
「関節の裏は皮が薄いし肉も少ない。有効なダメージを与えるなら、そこを狙え」
「わかった!」
餌となる草食魔獣を探しているのか、ゆったりと歩く獲物を見ながら指示を出す。
下草に隠れながら近づいていくのを確認しつつ、囮とばかりにレッサードラゴンの前に姿を曝した。
上げる咆哮を聞きながら跳躍する。後ろ脚を斬られて体勢を崩し、頸が無防備になったところへの一撃。
断末魔を思わせる咆哮を最後に、地響きとともに倒れる。
「有効な一撃だったみたいだな」
「ああ、脛を斬っても駄目だったが、膝裏はイケたみたいだ」
ニールの与えた傷からは腱が見える。予想以上に関節の内側は皮が薄いようだった。
「この調子でもう少し頑張ろうか」
「次の獲物はどれにしようか?」
レッサードラゴンに有効打を与えた自信からか、昨日とは打って変わって良い返事だった。
あと3,4話で2章完結です。
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寝入った直後だった。
――レッサードラゴンか。
跳び起きると手早く身支度を調える。といっても枕元に置いた剣を、身に着ける程度しかやることはないが。
再びの咆哮。
夏の終わり、繁殖期間の最中だ。雄同士が雌を賭けて争っているのだろう。レッサードラゴンの声に混じって何かが走る音がある。近くにいた獣たちが怯えて逃げまどっているのだろう。
――移動するか?
それなりに騒動から距離はある。
だが声が聞こえるなら予想より近いかもしれなかった。レッサードラゴンの雌をかけた闘いに巻き込まれなくとも、逃げ惑う草食獣の群れに巻き込まれる可能性はあるのだ。
「何だ?」
「繁殖期によくあるヤツだ」
少し遅れてニールが顔を出す。夜営のためのマットなどを回収すれば、直ぐにでも移動できる出立ちだ。
「レッサードラゴンは昼間の行動だと思っていたが?」
「一部を除いてドラゴンは基本昼行性だ。とはいえ人間のように寝るわけじゃないから、この時間に活動するのもおかしいとまでは言えないが……」
話しながらこの先の行動を考える。一キロ以上の距離はあるとはいえ、このまま夜営を続けて大丈夫か。
「寝てていいぞ」
地面に座ると火を起こす。状況が変わるまで様子を見たかった。
「うるさすぎて眠れん」
ニールが俺の向かいに座った。
咆哮の合間にパチパチと木の皮がはぜる音が聞こえる。
火にかけた小さな鍋で湯が沸き、コポコポと泡立つ。その中に布袋に入れた茶葉を放り込んだ。
昼間は暑いくらいでも夜には冷える。涼しい中で飲む熱い茶は美味い。
「入れるか?」
スキットルを渡され、一昨日と違ってありがたく受け取った。注ぎ口からはふわりと甘い香りが漂ってくる。
「美味いな」
「だろう?」
爽やかな酸味と甘い香りが茶の香りと合わさる。
ニールのニヤリとした笑みは少年のようだ。
「長年作ってるだけある。売り物の酒と同じかそれ以上の味だ」
「そりゃあ年季が違うからな」
言葉こそ偉そうだが、心から嬉しそうに言うのが微笑ましい。いたずらっ子のような、十代前半の少年のような笑みだった。
半時間ほど雑談をしながら様子を窺ったが、雄の闘いが収まる気配はない。
「階層を下りようか」
「今からか? 夜の移動は危なくないか?」
視界の利かない中は昼よりも危険度は上がる。
だが――。
「このまま寝ずに明日動きたいか?」
「……それは、嫌だな」
こたえると立ち上がり、手早く荷物をまとめ始める。数分後には二人とも出発できる状態だった。
角灯の光量を強めにする。夜のダンジョンでは目立つが、四三層は肉食で警戒すべきはレッサードラゴンだけ。それよりも大箆鹿を始めとする、大型の草食獣の群れを避ける方が安全性が上がるのだ。
魔法で探査をしながら、昼間とさほど変わらない速度でダンジョンを突っ切って四四層に辿り着いたのは、夜営地を後にして二時間ほど経ったころだった。
朝、空が白む頃に目を覚ました。
どれほど遅い時間に寝ても、同じ時間に起床するのは若いころから変わらない。少し離れたところに、夜営している冒険者パーティが何組か。俺たちと同じく発情期の雄同士の争いを避けて、上の階層から避難してきたのかもしれない。
「早いな」
身支度を整えていると、ニールも起き出してきた。俺とほんの数分の差だ。
夜具を片付けると、火を起して茶を淹れる。夏の終わりとはいえ、夜はそれなりに涼しく熱い茶が美味い。
「今日は昼頃までこの階層でレッサードラゴン狩りだ、できるだけ多く倒そう。その後は上に上がる」
ダンジョン講習は五日間とはいえ、往復の移動も込みだ。今日中に三十層くらいまでは戻らないと、明日中に地上への帰還は難しい。一応、何か問題が発生すれば対応することになるから、厳密に五日間で帰還しなければ捜索されるなんてことにはならないが。
予定を説明すると朝食を手早く済ます。昨夜のうちに作っておいたから、大して時間はかからなかった。
探査魔法で確認しながらレッサードラゴンに近づく。図体がデカいだけあって、割と簡単に見つかるのは楽だ。
「関節の裏は皮が薄いし肉も少ない。有効なダメージを与えるなら、そこを狙え」
「わかった!」
餌となる草食魔獣を探しているのか、ゆったりと歩く獲物を見ながら指示を出す。
下草に隠れながら近づいていくのを確認しつつ、囮とばかりにレッサードラゴンの前に姿を曝した。
上げる咆哮を聞きながら跳躍する。後ろ脚を斬られて体勢を崩し、頸が無防備になったところへの一撃。
断末魔を思わせる咆哮を最後に、地響きとともに倒れる。
「有効な一撃だったみたいだな」
「ああ、脛を斬っても駄目だったが、膝裏はイケたみたいだ」
ニールの与えた傷からは腱が見える。予想以上に関節の内側は皮が薄いようだった。
「この調子でもう少し頑張ろうか」
「次の獲物はどれにしようか?」
レッサードラゴンに有効打を与えた自信からか、昨日とは打って変わって良い返事だった。
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