冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―

紫月 由良

文字の大きさ
25 / 30
2章 ダンジョン講習

11. 夜営からの四四層へ ―ダンジョン3日目~4日目―

更新が止まってすみません。
あと3,4話で2章完結です。
________________


 寝入った直後だった。
 ――レッサードラゴンか。

 跳び起きると手早く身支度を調える。といっても枕元に置いた剣を、身に着ける程度しかやることはないが。

 再びの咆哮。
 夏の終わり、繁殖期間の最中だ。雄同士が雌を賭けて争っているのだろう。レッサードラゴンの声に混じって何かが走る音がある。近くにいた獣たちが怯えて逃げまどっているのだろう。

 ――移動するか?

 それなりに騒動から距離はある。
 だが声が聞こえるなら予想より近いかもしれなかった。レッサードラゴンの雌をかけた闘いに巻き込まれなくとも、逃げ惑う草食獣の群れに巻き込まれる可能性はあるのだ。

「何だ?」
「繁殖期によくあるヤツだ」
 少し遅れてニールが顔を出す。夜営のためのマットなどを回収すれば、直ぐにでも移動できる出立ちだ。

「レッサードラゴンは昼間の行動だと思っていたが?」
「一部を除いてドラゴンは基本昼行性だ。とはいえ人間のように寝るわけじゃないから、この時間に活動するのもおかしいとまでは言えないが……」
 話しながらこの先の行動を考える。一キロ以上の距離はあるとはいえ、このまま夜営を続けて大丈夫か。

「寝てていいぞ」
 地面に座ると火を起こす。状況が変わるまで様子を見たかった。
「うるさすぎて眠れん」

 ニールが俺の向かいに座った。
 咆哮の合間にパチパチと木の皮がはぜる音が聞こえる。
 火にかけた小さな鍋で湯が沸き、コポコポと泡立つ。その中に布袋に入れた茶葉を放り込んだ。
 昼間は暑いくらいでも夜には冷える。涼しい中で飲む熱い茶は美味い。

「入れるか?」
 スキットルを渡され、一昨日と違ってありがたく受け取った。注ぎ口からはふわりと甘い香りが漂ってくる。

「美味いな」
「だろう?」
 爽やかな酸味と甘い香りが茶の香りと合わさる。
 ニールのニヤリとした笑みは少年のようだ。

「長年作ってるだけある。売り物の酒と同じかそれ以上の味だ」
「そりゃあ年季が違うからな」
 言葉こそ偉そうだが、心から嬉しそうに言うのが微笑ましい。いたずらっ子のような、十代前半の少年のような笑みだった。
 半時間ほど雑談をしながら様子を窺ったが、雄の闘いが収まる気配はない。

「階層を下りようか」
「今からか? 夜の移動は危なくないか?」
 視界の利かない中は昼よりも危険度は上がる。

 だが――。

「このまま寝ずに明日動きたいか?」
「……それは、嫌だな」
 こたえると立ち上がり、手早く荷物をまとめ始める。数分後には二人とも出発できる状態だった。

 角灯カンテラの光量を強めにする。夜のダンジョンでは目立つが、四三層は肉食で警戒すべきはレッサードラゴンだけ。それよりも大箆鹿ヒュージエルクを始めとする、大型の草食獣の群れを避ける方が安全性が上がるのだ。
 魔法で探査をしながら、昼間とさほど変わらない速度でダンジョンを突っ切って四四層に辿り着いたのは、夜営地を後にして二時間ほど経ったころだった。



 朝、空が白む頃に目を覚ました。

 どれほど遅い時間に寝ても、同じ時間に起床するのは若いころから変わらない。少し離れたところに、夜営している冒険者パーティが何組か。俺たちと同じく発情期の雄同士の争いを避けて、上の階層から避難してきたのかもしれない。

「早いな」
 身支度を整えていると、ニールも起き出してきた。俺とほんの数分の差だ。
 夜具を片付けると、火を起して茶を淹れる。夏の終わりとはいえ、夜はそれなりに涼しく熱い茶が美味い。

「今日は昼頃までこの階層でレッサードラゴン狩りだ、できるだけ多く倒そう。その後は上に上がる」

 ダンジョン講習は五日間とはいえ、往復の移動も込みだ。今日中に三十層くらいまでは戻らないと、明日中に地上への帰還は難しい。一応、何か問題が発生すれば対応することになるから、厳密に五日間で帰還しなければ捜索されるなんてことにはならないが。

 予定を説明すると朝食を手早く済ます。昨夜のうちに作っておいたから、大して時間はかからなかった。
 探査魔法で確認しながらレッサードラゴンに近づく。図体がデカいだけあって、割と簡単に見つかるのは楽だ。

「関節の裏は皮が薄いし肉も少ない。有効なダメージを与えるなら、そこを狙え」
「わかった!」
 餌となる草食魔獣を探しているのか、ゆったりと歩く獲物を見ながら指示を出す。

 下草に隠れながら近づいていくのを確認しつつ、囮とばかりにレッサードラゴンの前に姿を曝した。
 上げる咆哮を聞きながら跳躍する。後ろ脚を斬られて体勢を崩し、頸が無防備になったところへの一撃。
 断末魔を思わせる咆哮を最後に、地響きとともに倒れる。

「有効な一撃だったみたいだな」
「ああ、脛を斬っても駄目だったが、膝裏はイケたみたいだ」
 ニールの与えた傷からは腱が見える。予想以上に関節の内側は皮が薄いようだった。

「この調子でもう少し頑張ろうか」
「次の獲物はどれにしようか?」
 レッサードラゴンに有効打を与えた自信からか、昨日とは打って変わって良い返事だった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。