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2章 ダンジョン講習
12. 再び四三層へ
「これから戻るのか?」
「ああ、そうだが……」
四四層を後に、地上を目指して階層を上がろうとたところだった。経験を積むには少々不足しているが、どういったものか感触を掴めたら良いくらいに考えたのだ。
「四三層でレッサードラゴンが暴れてる。雄同士が雌を奪い合ってるんだと思っていたら、争う雄が増えていって乱闘みたいになってる。気を付けないと踏みつぶされそうだった」
大変だったとパーティーメンバーが呟く。
「たまに三、四頭で争うのは聞くが、乱闘なんかあるもんなのか?」
不安顔でニールが聞いてくる。
「どうだったかな……」
そういった事例があったか、記憶を探った。
レッサー種に限らず、ドラゴンの雌を前にした争いは激しい。大きな傷を負うこともよくある。ライバルを追い払った直後にほかの雄が現れることがあるかと思えば、三つ巴の争いになることもままあった。
だが乱闘はそうある話では……いや、稀にある。
「……個体数が増えすぎたか」
どんな生き物でも数の増減はある。弱い魔獣が多くなれば捕食者が増えるが、各階層の食物連鎖の頂点に立つ生き物はそうもいかない。その場合、本能的なものなのか、必要以上に激しく雄同士が闘い合い傷つけあって倒れるのだ。
「一〇年に一度くらいの頻度だが、そういうことがある。ある程度、倒れて数が減らない限り異常行動は収まらない」
「じゃあ……?」
「一番手っ取り早いのは、四三層でレッサードラゴン狩りをすることだな。勝手に減っていくのを見守っても良いが、周囲への被害がデカいし、何より素材が傷だらけでろくな査定が出ない。だったらできるだけ速やかに、傷が少ないようにした方が良いだろう?」
尋ねるニールにニヤリと笑って見せた。
「あんたたち、四三層で狩るのか?」
「入れ食いだから効率が良いだろう?」
階層を下りてきた冒険者たちの問いに、当然のように返すと「本気か!?」という顔になった。
「多少、皮に傷はついていても、探す手間もなければ死角を突く必要もないんだ。楽勝だろう?」
重量が重量だけに、暴れ狂うレッサードラゴンに近づくのは、少々どころでない危険が伴うが、所詮それだけだ。使える時間が残り少ないのだから、有効に使うべきだ。
「じゃあ行こうか?」
声をかけると、ニールも「本気か!?」という顔になる。
「稼ぎどきだぞ」
「悪魔の囁きだ」
俺の言葉に対する冒険者たちの反応に、なぜかニールがうなずいていた。
「上手くすれば、装備を一新できるな」
独り言のように呟くと、ピクリと眉が動く。
「何だったら狩ったレッサードラゴンで防具を作るのもアリだ」
小さな傷であれば防御力が落ちることもない。
見た目だけの問題だ。それだってあっという間に小傷に隠れて目立たなくなる。
ドラゴン素材の防具は、軽装鎧の中で一番の高級素材であり、冒険者の憧れでもある。最弱のレッサー種であっても変わらないのだ。
己が狩ったドラゴンで防具や武器を作るのは、冒険者の夢と浪漫が詰まっている。心が動かない はずはない。
「どうする?」
再び、ニールに問う。
「………………………………行く」
「よしっ」
問われた当人の逡巡には気づかないことにした。「行くんだ……」という周囲の声も聞かなかったことにした。
「効率的に狩れる機会なんて、なかなかこないからな。きっと楽しいぞ」
年甲斐もなくわくわくする。仕事優先なのはわかっていても。
「君らもどうだ? 少々、一体ずつの査定は下がるが、時間当たりの稼ぎは良いはずだ」
四三層から下りてきた冒険者パーティに声をかける。できるだけ手早く片付けたいという以上に、ほかの冒険者たちを稼がせたい気持ちがあった。
見たところ彼らはC級冒険者の中でも、B級に昇格するにはまだ時間がかかる、ようやくレッサードラゴンを自分たちだけで狩れるようになったばかりのようだ。装備を整えるのに苦労するレベルだろう。
「俺たちの実力じゃ……」
「踏みつぶされないようにするので、手いっぱいで……」
戻りたい誘惑はあるようだったが、何体ものレッサードラゴンを相手にするのは難しいと理解した言葉が零れる。
「フォローはしよう。大丈夫、何とかなる」
提案してみる。初見の相手だが、自分の指示を聞くのなら連携は難しくない。「どうする?」「安全に稼げるなら……」メンバー間で相談する時間は短かった。
「足手まといにならないなら、一緒にお願いします」
「よし、じゃあ一緒に行こうか」
少し気張った顔をしながらついてくると返ってきた。
俺を先頭に四三層に歩き始めた。
――できるだけ手早く短時間……素材の価値を損なう前、そして周囲の被害ができるだけ少なく終わらせられれば。
冒険者ギルド職員の立場からすると、ダンジョン環境の保全は重要事項なのだ。
「ああ、そうだが……」
四四層を後に、地上を目指して階層を上がろうとたところだった。経験を積むには少々不足しているが、どういったものか感触を掴めたら良いくらいに考えたのだ。
「四三層でレッサードラゴンが暴れてる。雄同士が雌を奪い合ってるんだと思っていたら、争う雄が増えていって乱闘みたいになってる。気を付けないと踏みつぶされそうだった」
大変だったとパーティーメンバーが呟く。
「たまに三、四頭で争うのは聞くが、乱闘なんかあるもんなのか?」
不安顔でニールが聞いてくる。
「どうだったかな……」
そういった事例があったか、記憶を探った。
レッサー種に限らず、ドラゴンの雌を前にした争いは激しい。大きな傷を負うこともよくある。ライバルを追い払った直後にほかの雄が現れることがあるかと思えば、三つ巴の争いになることもままあった。
だが乱闘はそうある話では……いや、稀にある。
「……個体数が増えすぎたか」
どんな生き物でも数の増減はある。弱い魔獣が多くなれば捕食者が増えるが、各階層の食物連鎖の頂点に立つ生き物はそうもいかない。その場合、本能的なものなのか、必要以上に激しく雄同士が闘い合い傷つけあって倒れるのだ。
「一〇年に一度くらいの頻度だが、そういうことがある。ある程度、倒れて数が減らない限り異常行動は収まらない」
「じゃあ……?」
「一番手っ取り早いのは、四三層でレッサードラゴン狩りをすることだな。勝手に減っていくのを見守っても良いが、周囲への被害がデカいし、何より素材が傷だらけでろくな査定が出ない。だったらできるだけ速やかに、傷が少ないようにした方が良いだろう?」
尋ねるニールにニヤリと笑って見せた。
「あんたたち、四三層で狩るのか?」
「入れ食いだから効率が良いだろう?」
階層を下りてきた冒険者たちの問いに、当然のように返すと「本気か!?」という顔になった。
「多少、皮に傷はついていても、探す手間もなければ死角を突く必要もないんだ。楽勝だろう?」
重量が重量だけに、暴れ狂うレッサードラゴンに近づくのは、少々どころでない危険が伴うが、所詮それだけだ。使える時間が残り少ないのだから、有効に使うべきだ。
「じゃあ行こうか?」
声をかけると、ニールも「本気か!?」という顔になる。
「稼ぎどきだぞ」
「悪魔の囁きだ」
俺の言葉に対する冒険者たちの反応に、なぜかニールがうなずいていた。
「上手くすれば、装備を一新できるな」
独り言のように呟くと、ピクリと眉が動く。
「何だったら狩ったレッサードラゴンで防具を作るのもアリだ」
小さな傷であれば防御力が落ちることもない。
見た目だけの問題だ。それだってあっという間に小傷に隠れて目立たなくなる。
ドラゴン素材の防具は、軽装鎧の中で一番の高級素材であり、冒険者の憧れでもある。最弱のレッサー種であっても変わらないのだ。
己が狩ったドラゴンで防具や武器を作るのは、冒険者の夢と浪漫が詰まっている。心が動かない はずはない。
「どうする?」
再び、ニールに問う。
「………………………………行く」
「よしっ」
問われた当人の逡巡には気づかないことにした。「行くんだ……」という周囲の声も聞かなかったことにした。
「効率的に狩れる機会なんて、なかなかこないからな。きっと楽しいぞ」
年甲斐もなくわくわくする。仕事優先なのはわかっていても。
「君らもどうだ? 少々、一体ずつの査定は下がるが、時間当たりの稼ぎは良いはずだ」
四三層から下りてきた冒険者パーティに声をかける。できるだけ手早く片付けたいという以上に、ほかの冒険者たちを稼がせたい気持ちがあった。
見たところ彼らはC級冒険者の中でも、B級に昇格するにはまだ時間がかかる、ようやくレッサードラゴンを自分たちだけで狩れるようになったばかりのようだ。装備を整えるのに苦労するレベルだろう。
「俺たちの実力じゃ……」
「踏みつぶされないようにするので、手いっぱいで……」
戻りたい誘惑はあるようだったが、何体ものレッサードラゴンを相手にするのは難しいと理解した言葉が零れる。
「フォローはしよう。大丈夫、何とかなる」
提案してみる。初見の相手だが、自分の指示を聞くのなら連携は難しくない。「どうする?」「安全に稼げるなら……」メンバー間で相談する時間は短かった。
「足手まといにならないなら、一緒にお願いします」
「よし、じゃあ一緒に行こうか」
少し気張った顔をしながらついてくると返ってきた。
俺を先頭に四三層に歩き始めた。
――できるだけ手早く短時間……素材の価値を損なう前、そして周囲の被害ができるだけ少なく終わらせられれば。
冒険者ギルド職員の立場からすると、ダンジョン環境の保全は重要事項なのだ。
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