冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―

紫月 由良

文字の大きさ
29 / 30
2章 ダンジョン講習

15. 報酬

「トールさん、お帰りなさい!」

 声をかけてきたのは、受付カウンターではなく、解体班に所属する職員だった。
 昼を少し過ぎた時間帯は、獲物の引き渡しをする冒険者が少なく、割と暇なころだ。

「俺とニール個別の査定と、共同討伐分の査定を頼みたいんだが」
「ああ、じゃあ人を呼んで来るんで、その間に出しといてください」

 どこに、という指示はない。手近の机の上にそれぞれ獲物を積み上げるのだが、職員だけあってそこは言わずに通じるのだ。
 ニールに説明しながら、自分の分を別の作業机に積み上げ終わる頃、助っ人を二人連れて戻ってきた。

「魔鶏は……羽根だけ?」
「肉は食った。町で食糧を調達する時間がなかったからな。余ってる分もすべて調理済みだから無い」

「そうなんですねえ……。それと炎野牛フレイムバッファローに、極冠狼ポーラウルフとは珍しい。あとは……大箆鹿ヒュージエルクって、四〇階層まで下りて何を狩ってるんですか」

 解体班の職員が言うのはもっともだ。普通は大箆鹿ヒュージエルクではなくレッサードラゴンを狙うところだからだ。下級冒険者向けの個人講習とはいえ、標的が変わることはない。

「興奮した群れに突撃されたんで、ついでに狩ったんだ。狙ったわけじゃないよ」
「ああ、そういうことなら納得です」
 偶然の結果なのだと知って、それ以上は突っ込んでこなかった。

「それで、一週間潜って、戦果はこれだけなんですか?」

「いや、共同討伐分はこっちに全部入ってる」
 収納袋マジックバッグごと差し出した。入ってるのは共同討伐した獲物だけなので、わざわざ出す必要はない」」

「了解です。確認しますね……」
 そう言いつつ、状態がイマイチなのと、良いのがあるなどと確認していく。

 全ての魔獣を出し終え、受付を終わらせるのに半時間ほど。
 その後はニールと別れて事務所に向かう。徹夜明けでダンジョンに潜ったのだから、このまま帰宅して寝たいと思うが、報告書が待っているのだ。

 ――今回は割とキツかった。

 主に徹夜明けで糧食を整えずに、ダンジョンに潜らねばならなかった辺りが。
 三食すべて鶏肉という食事を三日続けて、というのは食べることしか楽しみのない地下世界では、少々、苦しいものだった。

 だが……成果は悪くない。

 割と強引だとは思うものの、業務中の成果を丸ごと自分の取り分にできたから、数か月分の給料より臨時収入の方が多い。少しばかり良い武器を買えそうだった。



 翌日、朝一の忙しい時間帯の後に来るように言っておいたニールが現れる。久々に寝台ベッドで眠れて、疲れが取れたのかすごく顔色が良い。

「なあ、報酬をもらうのに、別室に呼ばれたの初めてなんだが?」
 カウンターで支払われるのが、本来のやり方だ。
 だが今はダンジョン講習の前日に通したときと、同じ作りの面談室に通している。

「いきなり、桁違いの報酬を受け取ったら、動揺するし金銭感覚が狂うからな。そういった説明も込みで個室対応にしたんだ」

「……そんなに違うのか?」
 ゴクリと生唾を呑む音が聞こえた。

「桁が三つ以上変わる」
「…………本気マジか」
 驚くことはないと思うのだが。

 炎野牛フレイムバッファローの一頭分でさえ、丁寧に倒した結果、銀貨での支払いになるのだ。講習前日に持ち込んだコカトリスは銅貨なのだから、その時点で報酬の桁が上がるのは確定していた。
 狼種を何頭も倒し、その上レッサードラゴンも倒しているのだから、支払いが金貨になるのは容易に想像がつくはずなのだ。

「結論を言うとね、ニール君の報酬は九六ゴールドと八シルバーだね」
 俺の隣に座るウェスクが、査定額を告げる。

 通常なら俺一人で十分だが、閉鎖空間での金銭のやり取りになるため、二人での対応になる。
 ニールを見ると、口をあんぐり開けたまま固まっていた。

「今まで見たことのない額かもしれない。だがC級以上なら、珍しい額じゃない。多い方ではあるが」
 現実に意識が戻るように話し始めると、一気に目の焦点が合う。

「中層以下に下りるなら、今の武器では不足だ。しかも良い武器は値段もそれなりにする。うっかりすると今回の報酬が全額飛ぶ」

「え…………………………」
 現実に引き戻された直後に、絶望に顔が彩られる。

「武器だけじゃないぞ。ポーションもロクに持ってなかっただろう? 中層に行くなら中級ポーションだけでなく、上級ポーションも複数持ってる方が安全だ。特に独りソロなんだから五本や一〇本くらい持っていても、多すぎることはない」
 ニールの目が点になった。喜んだり絶望したり、なかなか忙しいことになっている。

「今までみたいな雑なやり方だと死ぬからな」
 ポーションをほぼ一から揃えるから、金貨が一〇枚や二〇枚は飛ぶ。

「武器や装備の手入れを小まめにするなら、今まで利用していた宿より広い部屋が必要だ。寝台ベッド以外、足の踏み場もないような部屋じゃ、荷物を広げられないだろう? 二間続きだとか、馬鹿デカい部屋はいらないが、それでも一泊一Sシルバーくらいかかる部屋がいい。すると部屋だけで一ヶ月三Gゴールド。今、上げた分だけでも報酬の大半が飛ぶだろう? まとまった金が入ったからと豪遊したり散財すると、借金が残る羽目になる。冒険者として投資が必要な分以外は、つましいくらいで丁度なんだ。まあ、ダンジョンから戻ったその日くらいは、自制せずに好きな物を食べて飲んでする冒険者が多いが」

 冷や水を浴びせている自覚はあるが、釘を刺しておかないと、身を持ち崩す冒険者が後を絶たない。特にダンジョン講習を個人で受けるような冒険者は。ニール同様、今まで稼ぎが低すぎて、まともに食べられないような連中が多い。突然、報酬がコパーからゴールドに変わって、金銭感覚が狂うのが一定数いる。

「わかった、贅沢はできないんだな……」
「まともな飯と寝床は確保できる額だ。高い肉は食えなくても、歯が立たないような筋張った硬い肉じゃなくて、ちゃんと嚙み切れる柔らかい肉を毎食たべられる」

「そうか……!」

 食事の話になって、少しだけ気分が上昇したようだ。ダンジョン内での食べっぷりからいって、食事が一番重要なのかもしれない。

「凄く良い暮らしは無理でも、そこそこ良い暮らしはできるってことだ」
「わかった!」

 肉の話をしてからの喜びように、本当に聞いていたのか疑問に思うが、追々わかってくるだろう。
感想 0

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。