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15. スキットル
夫の手には一つのスキットル。
ピューター製のヴィンテージだ。
ステンレス製とは違う重みと質感が堪らないと言う。戦後に作られたものだけど、大量生産にない趣。
錫の器は酒から角が取れてまろみがでるのだと、蘊蓄を滔々と語る。
彼の友人たちが聞きながら頷く。
「君は本物志向だから」
私は生暖かい目で見ていた。
夫が倒れた。彼の友人を招いた日から一年も経っていない。
診断名は肝硬変。
朝食はビール。
通勤列車の中で缶ビールを飲み出社するほど酒飲みだった。
貧血も長く続く倦怠感も、酒を主食と言い放つ偏食の所為。
象徴のようなスキットルは、それでも手放さない。今ではお茶を入れて飲んでいる。
大切にしてますねと言う看護師に、俺を呼ぶ声が聞こえたんだと、照れたように返す。
シミの浮かんだ手で大切そうにしながら。
本当は私が買ったものなのにね。
五年前の一人旅、ロンドンの日曜マーケットで目に留めた。
生地のムラ加減や刻印の無いところからアンティークだと推測して。
ピューター製のヴィンテージだ。
ステンレス製とは違う重みと質感が堪らないと言う。戦後に作られたものだけど、大量生産にない趣。
錫の器は酒から角が取れてまろみがでるのだと、蘊蓄を滔々と語る。
彼の友人たちが聞きながら頷く。
「君は本物志向だから」
私は生暖かい目で見ていた。
夫が倒れた。彼の友人を招いた日から一年も経っていない。
診断名は肝硬変。
朝食はビール。
通勤列車の中で缶ビールを飲み出社するほど酒飲みだった。
貧血も長く続く倦怠感も、酒を主食と言い放つ偏食の所為。
象徴のようなスキットルは、それでも手放さない。今ではお茶を入れて飲んでいる。
大切にしてますねと言う看護師に、俺を呼ぶ声が聞こえたんだと、照れたように返す。
シミの浮かんだ手で大切そうにしながら。
本当は私が買ったものなのにね。
五年前の一人旅、ロンドンの日曜マーケットで目に留めた。
生地のムラ加減や刻印の無いところからアンティークだと推測して。
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みんなの感想(1件)
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