1 / 1
神棚
しおりを挟む
「願いが叶わなくなるから、神棚の扉は、絶対に開けたらいけないよ」
お母さんは、毎朝長い時間、神棚に拝んでから必ず私に、こう言った。
まだ小学生の私は、神棚のまん丸のビー玉みたいな鏡や、米や塩を入れる皿、水入れの壺、全てが小さく可愛くて、大好きだった。
神様が住んでいるので、拝めるように高い位置にあり、脚立を登らないと近くで見れない。
この神棚は、死んだ職人のお爺ちゃんが作ったらしい、病気でとても苦しみながら作っていたと母から聞いた事がある。
私が産まれる前に死んでしまったので、会った事はない。でも、神棚にお爺ちゃんがいるような気がしていた。
私は、ひのきで精巧に作られた、小さな神社のような扉の中が、どうしても見たくなった。母は買い物に出かけている。脚立を持ってきて、扉の前の鏡を少し動かし、そっと扉を開けた。
思わず悲鳴をあげてしまい、脚立から落ちそうになる。手を引っ込める時に水入れの壺を倒してしまい、中から赤い水が出てきた、血だろうか。私は何も考えられなくなり、ただ、じっと扉の中のものと目を合わせていた。
タバコ一箱ほどの空間に、真っ赤で黒い斑点のある爪の両側から、天井まで届くほどの黒い湾曲した髪の毛が二本伸びている。小刻みに左右に動くそれは、見た事も無いクモだった。ブーメランの様な異形な姿を、わさわさと短い八本の足が動かしている。黒い斑点に紛れた四つの目に光が反射して、こちらを見ている。
大事そうに、白い髪の毛が絡まった小さく黄ばんだ歯を抱えながら、中央にあるお札の裏に逃げていった。とても神様とは思えない。お札にはクモの巣が絡んでいるが、赤い字でこう書かれてあった。
〇〇が苦しみながら死にますように。
見た事の無い読めない名前だった。それはお母さんの字だった……
小さな鏡に反射して、すぐ後ろに誰かが立っていた。鏡が小さくて、血走った目だけが映っている。
「開けたらいけないよって言ったよね?」
お母さんは、毎朝長い時間、神棚に拝んでから必ず私に、こう言った。
まだ小学生の私は、神棚のまん丸のビー玉みたいな鏡や、米や塩を入れる皿、水入れの壺、全てが小さく可愛くて、大好きだった。
神様が住んでいるので、拝めるように高い位置にあり、脚立を登らないと近くで見れない。
この神棚は、死んだ職人のお爺ちゃんが作ったらしい、病気でとても苦しみながら作っていたと母から聞いた事がある。
私が産まれる前に死んでしまったので、会った事はない。でも、神棚にお爺ちゃんがいるような気がしていた。
私は、ひのきで精巧に作られた、小さな神社のような扉の中が、どうしても見たくなった。母は買い物に出かけている。脚立を持ってきて、扉の前の鏡を少し動かし、そっと扉を開けた。
思わず悲鳴をあげてしまい、脚立から落ちそうになる。手を引っ込める時に水入れの壺を倒してしまい、中から赤い水が出てきた、血だろうか。私は何も考えられなくなり、ただ、じっと扉の中のものと目を合わせていた。
タバコ一箱ほどの空間に、真っ赤で黒い斑点のある爪の両側から、天井まで届くほどの黒い湾曲した髪の毛が二本伸びている。小刻みに左右に動くそれは、見た事も無いクモだった。ブーメランの様な異形な姿を、わさわさと短い八本の足が動かしている。黒い斑点に紛れた四つの目に光が反射して、こちらを見ている。
大事そうに、白い髪の毛が絡まった小さく黄ばんだ歯を抱えながら、中央にあるお札の裏に逃げていった。とても神様とは思えない。お札にはクモの巣が絡んでいるが、赤い字でこう書かれてあった。
〇〇が苦しみながら死にますように。
見た事の無い読めない名前だった。それはお母さんの字だった……
小さな鏡に反射して、すぐ後ろに誰かが立っていた。鏡が小さくて、血走った目だけが映っている。
「開けたらいけないよって言ったよね?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる