怖い話10 神棚 800文字以内

雨間一晴

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神棚

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「願いが叶わなくなるから、神棚の扉は、絶対に開けたらいけないよ」

 お母さんは、毎朝長い時間、神棚に拝んでから必ず私に、こう言った。

 まだ小学生の私は、神棚のまん丸のビー玉みたいな鏡や、米や塩を入れる皿、水入れの壺、全てが小さく可愛くて、大好きだった。

 神様が住んでいるので、拝めるように高い位置にあり、脚立を登らないと近くで見れない。
 この神棚は、死んだ職人のお爺ちゃんが作ったらしい、病気でとても苦しみながら作っていたと母から聞いた事がある。
 私が産まれる前に死んでしまったので、会った事はない。でも、神棚にお爺ちゃんがいるような気がしていた。

 私は、ひのきで精巧に作られた、小さな神社のような扉の中が、どうしても見たくなった。母は買い物に出かけている。脚立を持ってきて、扉の前の鏡を少し動かし、そっと扉を開けた。

 思わず悲鳴をあげてしまい、脚立から落ちそうになる。手を引っ込める時に水入れの壺を倒してしまい、中から赤い水が出てきた、血だろうか。私は何も考えられなくなり、ただ、じっと扉の中のものと目を合わせていた。

 タバコ一箱ほどの空間に、真っ赤で黒い斑点のある爪の両側から、天井まで届くほどの黒い湾曲した髪の毛が二本伸びている。小刻みに左右に動くそれは、見た事も無いクモだった。ブーメランの様な異形な姿を、わさわさと短い八本の足が動かしている。黒い斑点に紛れた四つの目に光が反射して、こちらを見ている。

 大事そうに、白い髪の毛が絡まった小さく黄ばんだ歯を抱えながら、中央にあるお札の裏に逃げていった。とても神様とは思えない。お札にはクモの巣が絡んでいるが、赤い字でこう書かれてあった。

 〇〇が苦しみながら死にますように。

 見た事の無い読めない名前だった。それはお母さんの字だった……

 小さな鏡に反射して、すぐ後ろに誰かが立っていた。鏡が小さくて、血走った目だけが映っている。

「開けたらいけないよって言ったよね?」
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