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第四十六話 小さなアパートで大きな勇気を(3)
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「お姉さんって、前に美容院に来た人だよね……」
思い出すだけで口の奥が乾いていくような、異様な不快感に包まれてしまう。
「そうです!あの糞姉が!死ねば良いんだ、あんな奴!」
荒れ狂う後輩に何も言えなかった。その姉が美容院に来たとき、まだ研修中の後輩を指名して、散々いじめて帰って行ったんだ。私も先生が旅立ってすぐだったから、上手く対応出来なかったことを、未だに悔やんでいた……
「ふーん、こんなに小さな美容院で働いていたんだー。勝手に実家飛び出して、親や私に迷惑かけた結果がこれ?美容師なんてダサくない?」
「……」
私は目の前にいるお客様のカットに集中することで、隣で起きている姉妹喧嘩から、目を背けてしまっていた。先生の若い頃からの常連の方で、とても優しい叔母様といった感じが大好きだった。笑うと優しい皺だらけになる顔も、横目で心配そうに後輩を見守っていた。
「嫌な姉が来たので、関わらないで下さい。私が何とかします」
そう耳元で伝えてきた後輩は、黙って眉間に皺を走らせたまま、淡々と鋏を動かしていた。早く終わらせたいというより、切りたくないのだろう。いつもより雑なカットをしているのが、横目で見ても分かるほどだった。
「お客様が話しかけてるんですけどー。無視して良いんですかー」
「……すみません」
挑発気味に語尾を上げながら話す姉は、派手な金髪で、黒いスウェット上下には、大袈裟に訳の分からない英単語が金色で書いてあった。顔は可愛い方だが、話し方から見た目まで頭の悪そうな、後輩の姉とは関係なく、関わりたくないタイプの人だった。
「というか、隣でやってるのが店長なの?若過ぎでしょ、なんか生意気そうだし。あんた、ちゃんとした場所で働いた方が良いんじゃない?まあ無理か」
「……店長は素敵な人です」
絞るように出された声は、微かに震えていた。私は聞こえないふりをして、目の前にいるお客様の心配そうな顔も、見て見ぬふりをしてしまった。
「ふーん、どこが素敵なんだか。何か無理してお洒落してますって感じで、最高にダサい。あー、あんたもダサいから、お似合いか。あんなのが店長やれるなんて、この美容院すぐに潰れるんじゃない?」
後輩の鋏が止まって、私も硬直してしまった。
「助けてあげて」
耳を霞めるように目の前から声が届くのと同時に、後輩は鋏を振り上げて息を荒げていた。
思い出すだけで口の奥が乾いていくような、異様な不快感に包まれてしまう。
「そうです!あの糞姉が!死ねば良いんだ、あんな奴!」
荒れ狂う後輩に何も言えなかった。その姉が美容院に来たとき、まだ研修中の後輩を指名して、散々いじめて帰って行ったんだ。私も先生が旅立ってすぐだったから、上手く対応出来なかったことを、未だに悔やんでいた……
「ふーん、こんなに小さな美容院で働いていたんだー。勝手に実家飛び出して、親や私に迷惑かけた結果がこれ?美容師なんてダサくない?」
「……」
私は目の前にいるお客様のカットに集中することで、隣で起きている姉妹喧嘩から、目を背けてしまっていた。先生の若い頃からの常連の方で、とても優しい叔母様といった感じが大好きだった。笑うと優しい皺だらけになる顔も、横目で心配そうに後輩を見守っていた。
「嫌な姉が来たので、関わらないで下さい。私が何とかします」
そう耳元で伝えてきた後輩は、黙って眉間に皺を走らせたまま、淡々と鋏を動かしていた。早く終わらせたいというより、切りたくないのだろう。いつもより雑なカットをしているのが、横目で見ても分かるほどだった。
「お客様が話しかけてるんですけどー。無視して良いんですかー」
「……すみません」
挑発気味に語尾を上げながら話す姉は、派手な金髪で、黒いスウェット上下には、大袈裟に訳の分からない英単語が金色で書いてあった。顔は可愛い方だが、話し方から見た目まで頭の悪そうな、後輩の姉とは関係なく、関わりたくないタイプの人だった。
「というか、隣でやってるのが店長なの?若過ぎでしょ、なんか生意気そうだし。あんた、ちゃんとした場所で働いた方が良いんじゃない?まあ無理か」
「……店長は素敵な人です」
絞るように出された声は、微かに震えていた。私は聞こえないふりをして、目の前にいるお客様の心配そうな顔も、見て見ぬふりをしてしまった。
「ふーん、どこが素敵なんだか。何か無理してお洒落してますって感じで、最高にダサい。あー、あんたもダサいから、お似合いか。あんなのが店長やれるなんて、この美容院すぐに潰れるんじゃない?」
後輩の鋏が止まって、私も硬直してしまった。
「助けてあげて」
耳を霞めるように目の前から声が届くのと同時に、後輩は鋏を振り上げて息を荒げていた。
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