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第八十一話 傷物(20)
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「どなたに似ているんですか?」
私もその懐かしむような顔を、どこかで見たことがあった気がした。
「……あの子の母親にだよ。もう亡くなってしまったがね」
「そうだったんですか……」
私より早く落ち込む後輩を見て、彼女も何も知らなかったのだろうと思った。そして、先程少女に向けて放ってしまった言葉が重くなってしまっていることも。きっと、ただの家出では無いのだろう。
「彼女も子供が大好きだったんだよ、いつも子供と僕の心配ばかりでね。私にとっては、彼女が子供なのにね」
「娘さんだったんですね……」
「……私、あの子に酷いこと言っちゃった。謝らなきゃ」
彼は笑うと少し皺《しわ》が浮かび上がるらしい、普段は年齢が分からないような綺麗な色白の肌に、歴史を感じさせるような深い溝が出来るのが、何とも芸術的で彫刻のようだった。
「ふふ、あの子も治療されながら同じことを言っていたよ。大好きなお姉ちゃんに酷いことを言っちゃったって」
「……私なんか、大好きって言ってもらえるような人間じゃないんです」
首から頭が外れたように下げて、静かに涙を落とす後輩の背中を、気付いたら撫でていた。
「ごめんなさい、この子も今日色々ありまして!本当、色々ありまして……」
私の首も力を無くして、自分が白い安物のサンダルを履いていることに初めて気付いた。その血が少し滲んだサンダルの横にある、血と土で汚れた小さな素足を見て、涙で世界がぼやけようとしたときに、暖かい物が顔を覆った。
私もその懐かしむような顔を、どこかで見たことがあった気がした。
「……あの子の母親にだよ。もう亡くなってしまったがね」
「そうだったんですか……」
私より早く落ち込む後輩を見て、彼女も何も知らなかったのだろうと思った。そして、先程少女に向けて放ってしまった言葉が重くなってしまっていることも。きっと、ただの家出では無いのだろう。
「彼女も子供が大好きだったんだよ、いつも子供と僕の心配ばかりでね。私にとっては、彼女が子供なのにね」
「娘さんだったんですね……」
「……私、あの子に酷いこと言っちゃった。謝らなきゃ」
彼は笑うと少し皺《しわ》が浮かび上がるらしい、普段は年齢が分からないような綺麗な色白の肌に、歴史を感じさせるような深い溝が出来るのが、何とも芸術的で彫刻のようだった。
「ふふ、あの子も治療されながら同じことを言っていたよ。大好きなお姉ちゃんに酷いことを言っちゃったって」
「……私なんか、大好きって言ってもらえるような人間じゃないんです」
首から頭が外れたように下げて、静かに涙を落とす後輩の背中を、気付いたら撫でていた。
「ごめんなさい、この子も今日色々ありまして!本当、色々ありまして……」
私の首も力を無くして、自分が白い安物のサンダルを履いていることに初めて気付いた。その血が少し滲んだサンダルの横にある、血と土で汚れた小さな素足を見て、涙で世界がぼやけようとしたときに、暖かい物が顔を覆った。
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