そこにある愛を抱きしめて

第九十二話 傷物（３１）

「ふふ、本当に仲良いわね」

「仲良くないです！」

「……仲良くない？本当は嫌いなの？」

　少女が急に立ち止まり消えそうな声で呟いた。後輩は慌ててブレーキをかけて前のめりになりながら、少女の背中から目線を外して答える。

「仲良くないよ！こんな生意気な妹いても困るだけだし！」

「……うう」

　少女はうずくまったと思った次の瞬間には、両手で顔を抑えて大声で泣き出していた。私は慌てて助けを求めるようにお爺さんを見たが、優しい微笑みのまま見守っていた。

「ちょっと！あんた！また言い過ぎでしょ！」

「だって！こいつが生意気なこと言うから！」

「こいつじゃないでしょ！ちゃんと謝りなさい！」

「う……」

　後輩は口を尖らせて少し顔を赤くしながら、少女の前に回り込んで同じ目線になるように屈んだ。

「その、ごめん。言い過ぎた」

　私はお爺さんと目を合わせて、微笑みながら首を少し傾げた。悪戯っぽい彼の顔はとても若々しく見えた。

「……ぷ」

「ちょっと、どうしたの？手が痛む？ごめん、本当ごめんね」

　少女の肩を掴んで慌てるように謝り続ける後輩を前にして、少女は勢いよく顔を隠していた両手を翼のように広げた。

「あはは！嘘だよー！引っ掛かった！」

「ちょ！こいつ！」

　私とお爺さんも声を出して笑い合った。少し広い寝室で、大きな桜が描かれたステンドクラスの窓から、どこまでも優しい日差しが差し込んでいた。