103 / 121
第百三話 霞んだ桜色(11)
しおりを挟む
「お父さんはどこに行っちゃったの?」
少女がベッドで横になっている女性に尋ねている。二人とも顔がぼやけていて、良く分からない。不自然なくらいにセピア色した、水彩画のように薄く不安定な世界を、部屋の片隅から動けずに見つめていた。これは夢だろうか……
「……お父さんはね、ちょっと出かけているだけよ」
母親らしい人物は、少女から顔を反らして真っ黒な窓を見つめているようだった。部屋の中は眩しいくらいに明るいのに、その窓だけがカーテンも無いのに抜け落ちたように闇だった。
「……いつ、戻ってくるの?」
きっと少女は何回も同じ質問をしてきたのだろう、その小さな右手には折り紙で作られたチューリップが握られていた。力無く頭を下げる黄色いチューリップ、葉っぱの部分は緑色、ちゃんと二枚も使って作ったのだろう。
「ごめんね、お母さんにも分からないの。でもね、良い子にしてたら、きっとまた会えるから」
母親は優しく少女の頭を撫でていた。それを見ていると不思議と辛くて仕方がなかった。
「分かった!良い子にしてるよ!小学校に行ったらね、勉強も頑張るんだ!」
「あなたは本当に良い子ね。その綺麗な鼻筋もお父さんそっくりになってきたわ、きっと美人になるわよ」
「本当?やったー!」
「ええ本当よ、あなただけは幸せになるのよ、変な男に捕まらないようにね」
「うん!お父さんみたいな優しい人と結婚する!」
「……うん、そうね。きっと出来るわよ、大丈夫」
セピア色の世界の中で、漆黒の暗い窓と黄色いチューリップだけが色を痛いくらいに放っていた。
少女がベッドで横になっている女性に尋ねている。二人とも顔がぼやけていて、良く分からない。不自然なくらいにセピア色した、水彩画のように薄く不安定な世界を、部屋の片隅から動けずに見つめていた。これは夢だろうか……
「……お父さんはね、ちょっと出かけているだけよ」
母親らしい人物は、少女から顔を反らして真っ黒な窓を見つめているようだった。部屋の中は眩しいくらいに明るいのに、その窓だけがカーテンも無いのに抜け落ちたように闇だった。
「……いつ、戻ってくるの?」
きっと少女は何回も同じ質問をしてきたのだろう、その小さな右手には折り紙で作られたチューリップが握られていた。力無く頭を下げる黄色いチューリップ、葉っぱの部分は緑色、ちゃんと二枚も使って作ったのだろう。
「ごめんね、お母さんにも分からないの。でもね、良い子にしてたら、きっとまた会えるから」
母親は優しく少女の頭を撫でていた。それを見ていると不思議と辛くて仕方がなかった。
「分かった!良い子にしてるよ!小学校に行ったらね、勉強も頑張るんだ!」
「あなたは本当に良い子ね。その綺麗な鼻筋もお父さんそっくりになってきたわ、きっと美人になるわよ」
「本当?やったー!」
「ええ本当よ、あなただけは幸せになるのよ、変な男に捕まらないようにね」
「うん!お父さんみたいな優しい人と結婚する!」
「……うん、そうね。きっと出来るわよ、大丈夫」
セピア色の世界の中で、漆黒の暗い窓と黄色いチューリップだけが色を痛いくらいに放っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる