ゼラニウムの憂鬱

兎乃さくら

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◇1話◇優壱郎誕生秘話

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 猿儀えんぎが無事帰ってきたことにより、はるは無事神となる事が決まった。神になると者が出ると、その神の眷属になるための神の子が必ず、猿儀の玉錦の元にやってくるのである。何も玉錦オックムが産むわけではない。誰かが神になる時にその者の一番役に立つであろう者が必ずついてくることになっているのだ。初めは赤子の姿でやってくるが、半月もすると、立派な成体となって、新たな神の眷属けんぞくとしてきちんと働ける身体になる。中には前世を抱えて生まれて来る者もいるが、大体が神になる者の事しか考えておらず、猿儀と玉錦の事など何とも思わぬ眷属が多い。たまに一時的に育ててくれたからと、二人を親と慕ってくれる者もいるが、ほとんどが明美神社に寄り付く者など、いなかった。
 だが今回は少しばかり事情が違っていた。なんと、地獄から眷属が選ばれたというのだ。閻魔大王に呼び出された猿儀は何事かと、面会の場である出雲大社まで出向いた。閻魔大王にとっても、かなり異例の事らしく非常に混乱していたが、話を聞いた猿儀は逆に安心したくらいだった。玉錦に話をしたら、赤飯を炊かねばと大はしゃぎする程の吉報に過ぎなかったくらいだ。普段二人は遣わされた眷属に名前を付けることはない。他所の神の眷属なのだから吾子と呼び、遣える神に名を与えてもらえばいいと思っているからだ。だがこの子の名前はすぐに決まった。何せ、実の子が帰ってくるのと同義のような者だったからである。
 そこで呼び出されたのは春は当然として、朱夏しゅかが呼び出された。呼び出された朱夏自身も何故自分が呼び出されたか訳が分からなかった。
「呼び出してすまんの。二人とも」
両者はどちらとも「いえ」と首を振った。
「呼び出した用件なんやけどな。春ん眷属の事なんや」
「何か不備が?」
「いやそれが、嬉しか事なんよ」
「嬉しい事?」
「…遊壱郎ゆういちろうが眷属に選ばれた。記憶ばちゃんとある」
「遊壱郎は消滅したのでは?」
春も驚きすぎて声が上ずってしまっている。隣の朱夏はどうしたらいいのか分からない混乱している様子だ。
「遊壱郎は地獄に送られるとこやったっちゃけど、寸前で春んとこの眷属に選ばれたんやと」
「本当なんですね?」
「ああ、本当や。証拠に閻魔大王から預かってきた」
猿儀は「五行の札」を差し出した。
「これに見覚えのあるっちゃろう?」
「はい。これは遊壱郎の使っていた札に違いない」
「これは春、お前にアイツが成体になるまで預かっどって欲しい」
「はい」
「会って行くか?」
玉錦が優しく朱夏に声をかけた。
「…はい!」
すやすやと眠る赤ん坊を玉錦が抱いて現れる。朱夏は涙で言葉にならない様子だった。
「折角生まれ変わったんや、新しか名前ばやりたい。遊ぶではなく、優しいと書いて『優壱郎ゆういちろう』。『四月一日わたぬき 優壱郎』。どうやろうか?」
「いいと思います」
「私もぴったりだと」

 「ただいま」
半月後、聞きなれた優壱郎の声が明美神社に響いた。
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