ゼラニウムの憂鬱

兎乃さくら

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◇6話◇祝福の結婚式

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 妊娠も五ヶ月目を迎え、そろそろ白無垢を着ても大丈夫なんじゃないかと言われ、そろそろ結婚式をしようということになった。結婚式にはそんなに妖を呼ばず、身内だけで式をしようという話になった。朱夏は白無垢を着られれば満足でたくさんの人に見て欲しいという願望はあまりなかった。人間のように大がかりなものではなく、結婚の儀式を見守ってもらう。それだけでいいのだ。思えば優壱郎が帰ってきてから長かった。まず子どもを産む産まないから言い争いが始まり、突然のプロポーズ。入籍となかなかトントン拍子にはいかなかったが、今日のこの日を迎えられたのだから、全てが報われるというものである。入籍前後から一貫して思っているのだが、優壱郎は自分にすごく甘くなったと思う。いつもどこか刹那的に生きていて、一線を引かれていたような気がするのだが、その一線がなくなったような気がするのだ。その分前よりモテるようになってしまったのは大問題ではあるのだが、優壱郎が態度で自分が一番だと示してくれるので、何よりも誰よりも安心する事が出来た。ごく最近では小学校の子供たちとも会話してくれるようになったので、父親としての資質も心配してはいない。優壱郎は前回人間だった時の所業を気にしているようだが、あんなに子供に優しく接することが出来るのだから心配はいらないと朱夏は思っている。
 着付けも終わり後は儀式を待つだけとなった頃、優壱郎が様子を見に来てくれた。
「似合っているよ」
瞳を覗き込んでそう言ってくれるだけで泣いてしまいそうになる。メイクが崩れてしまうので意地でも泣かないけれど。式の最後まで綺麗な姿を皆に見てもらいたいのだ。
 そして儀式の時間が訪れる。
「行こうか」
紋付袴姿の優壱郎に手を引かれ皆の前に出る。集まってくれた皆が口々におめでとうと言ってくれるのがとても嬉しかった。珍しい事もあるものであの玉錦が目を潤ませていたのだ。朱夏を娘のように思ってくれていると言った玉錦。朱夏の結婚を心から喜んでくれているということなのだろう。
 猿儀の前で結婚を認める儀式が粛々と行われていく。
「汝ら、一生を共に添い遂げることを違うか?」
普段の飄々とした猿儀とは違い、威厳のある表情で問いかけてくる。
二人声を合わせ、
「はい、お誓い申し上げます」
と返事をする。これがずれないように二人で何度も練習したのだ。二人の目の前に運ばれてくる簪と寝付け、優壱郎はこれまた練習通りに綺麗に簪を挿してくれた。朱夏の手も震えることなく優壱郎の腰に結わえつけられた。あとやっぱり口付けが欲しくて上目遣いにねだってみた。すると唇にちゅっと軽く口付けてくれた。
そして、それがきっかけになって「きて」しまったようだ。五回目の「あれ」が儀式はもう少しで終わりだ。だが身体が火照って堪らないのだ。
 なんとか儀式を終え、普段着に着替えると、優壱郎の元に駆けていく。そして耳打ちした。
「来ちゃった…発情期」
初夜が始まりを告げた。
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