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第8話
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スマホの画面に映し出された縄手の動画の数々。
久米は風呂上がりのTシャツと下着姿のまま、ベッドに寝転びながら眺めていた。
クラウドに保存してあった、なんとか消失の難を逃れた画像などをダウンロードしたあと、久米は充実した今日を思い返していた。
今日の勝利で得た安堵感と達成感、そして生まれた次への緊張感と使命感の中、【仲間】なんだと感じることができたチームメイトとのミーティングが終わり、途中で珍客が現れて一時は茫然となったけど、小学生以来の団結力みたいなものを、本当に久しぶりに心から感じることができた。
今のところ、自分がゲイであることに対して、嫌悪感むき出しで関りを持とうとする部員がいないことは、自分がそうであることを忘れさせてくれた。
純粋に野球に集中できることに、喜びを感じている。あの時に野球と離別していたら、こんな気持ちに一生出会えなかっただろう。
相変わらず生意気だけど、暴走しそうな曲川を気功のような技で眠らせ、その場を静めたり、出来過ぎる判断力を持っていると思えて仕方がない北越智に、悔しいけど正直感謝している。
あんな武術にも精通していたとなると、魔球のような投球をするのも、なんとなく腑に落とせるのかもしれない。
そしてそんな彼に、今までゲイである自分にだけ向けられると思っていた感情のひとつが、駐車場での秘め事を目撃して以来、ゲイである自分が感じてしまっている。
それは垣根ではなく、障壁でもなく、何か触れてはいけないのだけど、好奇心で覗いてみたい。だけど踏み込んではいけない境界線みたいなものを、作ってしまっていた。
だけど、まだ確信できないが、同じ性的指向を持つ近しい存在と思える人物が近くにいるということで、少しの安堵感も芽生えていた。
「あいつも絶対ゲイやと思うんやけど・・・聞かれんしなぁ・・・。」
体の向きを変えながら、スマホの中の動く縄手に笑顔で手を振る。
縄手先生と一緒に掴んだ初勝利。
「いや、縄手先生が顧問になってすぐに勝てたから。先生は勝利の女神??女神ちゃうなぁ。神様やな。」
久米は時間を共有できる機会が増えたこと、ふたりの仲を認めてくれている環境にいることで、更に親密になれた実感が生まれてしまっていた。
その実感は安心を作り、斎部から縄手を奪うという決意の色が薄まっている久米は、頬が緩みっぱなしの顔で、何度も何度も同じ場面を繰り返し眺めていた。
縄手に拍手で迎えられ、頭を撫でられたベンチに帰ってきた時の事を思い出しながら、片隅に浮かび始めた、下校時に北越智を校門までバイクで迎えに来ていた、あの日の公園で見かけた高身長でマッチョなイケメン。
まるで夏の夜空のように深いブルーメタリックで輝くヤマハYZF―R1大型バイクとイケメンマッチョは恰好良すぎて、絵になりすぎて、帰路につく生徒全員「誰?誰?」の注目の的になっていた。
その姿と目が合い、「なんで?ここに?」一瞬驚きビクついた久米に、笑顔で小さく手を上げたイケメンマッチョが挨拶をする。
北越智が「先輩!お先に失礼します!」と久米の脇をすり抜け、イケメンマッチョの腰に腕を回し、快適な音と共に颯爽と坂を下り消えて行くまで、久米だけではなく、その場にいる全員が歩くことを忘れしまっていた。
スマホの縄手を眺めたまま、体の向きをかえ、下着の中に片手を滑り込ませる。
先ほどから熱くなり治まらない勃起を握り軽く動かす。
「あいつ、今頃やってんやろーなぁー。」
自分の持つありったけの知識を集め、北越智とイケメンマッチョの絡みを想像しながら、ふたりを自分と縄手先生に置き換える。
「くっそーええなぁー‼ええなぁー‼俺もやりたいーーーーーーーーーーーーーーー‼」
抑えきれない衝動に体を回転させうつ伏せになった久米は、激しく腰をベッドに擦り付け、枕に顔を押し付けながら「縄手先生―!先生――――っ。」声が拡散して、一階にいる母親に聞こえないように声を上げた。
こういったタイミングは、何故かいつも間が悪い。
「・・かず・・・・たよー!」
「先生―――うーーーーーんんん」
「かず・・・・・・できたよー!」
ベッドに腰を押し付け続ける香月に、キッチンから母親の晩御飯の支度が整った声が届く。
ハッと我に返り、顔を起こした香月は「はい!行く!」声を上げて、ベッドから降りた。
勃起を隠さないといけない状況に、大きめのハーフパンツをはき、シャツを前にたらして久米は部屋を出た。
――――――――――
奈良市、月明かり照らす春日山原始林の中を、ご機嫌斜めの北越智と、それを笑う宇治が踏みしめる砂利道の音がリズムよく響いていた。
「いきなり【人面鹿】ってなんやねん!ええ加減にして欲しいわ!こっちは試合で疲れとるねんっちゅーに!」
宇治より三歩先を歩くプンスカモードの北越智が愚痴る。
「ほんまにごめんやって。急な相談やってんて。」
振り返りもしない姿に、遥か彼方の過去に峯丸を怒らしてしまい、なだめていた平等院での光景を思い出しながら、宇治は少し嬉しくなり微笑んでみる。
「いきなりコメディーってどーゆうことやねん!」
「なあ!なんでこの相談引き受たん!よっちゃんの過去と一切関係なかったやん!」
その声にふたりの全周囲を取り囲んでいた虫の声が一斉に止まり、驚き逃げ出す動物たちのざわつきが走る。
蒸し暑い夏の原生林のど真ん中は、さながら古き時代を留めているように、闇の中にうごめくものを想像してしまう恐怖に心細くなってしまう。
それでも昔に比べたら、相当よくなっている治安に、政治の優秀さに感心してしまう。
あの時代はこんな場所では、人なのか、もののけなのか区別がつかない生き物が現実に徘徊していた。
宇治頼径の中には、あることがきっかけで封印の解けた【藤原頼道】が融合しており、同血族の中で覚醒した特殊な例であった。
【藤原頼道】が悔やんでいた過去の罪を償い、良き未来へとの願いに共感した頼径は、成人と同時に名前を変え、家系と距離を置きながら生活をしていた。
とはいえ、割り切って使えるものは使っており、金銭に困ることはなく、太古から絡みあう人脈も手放すことなく、京都を拠点に日本を旅するように暮らしていた。
そんな贖罪の日々を続けていた時に、峯丸と再会することとなった。あの時代に雅楽を舞う峯丸の姿に一目惚れし、何度も夜を共にし、そして・・・・すれ違った。
【運命】と呼ぶ【縁】はなんて面白いんだろうと本当に感心してしまう。
自分の得た特殊な感覚に気付いたのは、頼径が高校生の時であったが・・・その話はまた別の機会に・・・・。
「まあまあまあ・・・それはそうやけど予想通り面白かったやん!なかなかお目にかからへんで!人面鹿やで!リアルジブリやで。え?も一回言うわ、人面鹿。令和やで。」
不貞腐れた雰囲気を変えようと、笑いを交えて話す。
「いやいやいやいや。めっちゃ大変やったやん。【火焔光】(かえんこう)はナシやで!聞いてへんし!ガチ炎じゃないから肉体は火傷せんけど、魂はめっちゃ熱いつーねん・・・・。」
こちらに振り返り、舌をだしながら口をへの字に曲げる。
その仕草が可愛くてたまらない頼径はニヤついてしまう。
「・・・もうホンマに、面白そうやからとか、興味本位で関わんのやめよう。ガチでしんどいって。」
あきれた顔で峯丸はため息をつく。
「ホンマにごめんやって。マジで困ってそうやったし。その代わり美味しい飯おごるから。」
横に並んだ頼径は峯丸の頭を撫でる。
口元を歪め恨めし気に見上げながら、いつまでもこんな不貞腐れた気持ちでいるのも、さらに自分を疲れさせてしまうだけだと、
「炎に当てられた日はムラムラマックスやからな!今日は抜かず五発やで!」
峯丸は両手を腰に置いて「これで許す」と顔に力を入れる。
「お!龍神の力、なめんなよー。【潮満珠】(しおみつたま)と【潮干珠】(しおひるたま)で、ビシャビシャにさせたるで。」
その意図を読み取った頼径も笑顔で答えた。
――――――――――
食事中から目に入っていた、テレビ台に飾られた、円盤のような平たい石のオブジェ。
晩御飯を食べ終えた香月は、後片付けをする母親の手伝いをしながらやけに気になっていた。
何故か言葉に出してはいけないような、言葉にすると食い違ってしまうような違和感が胸の奥に増殖していた。
「やっぱり気になる?」
皿をダイニングボードに片づけながら、視線をそちらに向ける香月に声をかける。
「・・なに?・・・・あれ?」
食器棚の扉を閉じて、指を指す。
不安定な気持ちのまま不思議顔で見返した姿に、笑顔で自慢げに
「ツルツルで綺麗でしょ。」
香織は話す。
「・・・・・・う、ん・・・。」
口ごもりながら、母に同意したい思いもありながら、やはり怪訝な表情になってしまいそうになる。
母親にカミングアウトしてから、強烈に同性愛を否定し、本当の姿を見ようともしない姿勢がある一方、精一杯の愛で守ろうとしてくれる姿もあり、そんな母にどう接すればいいのか全く分からずにいた。
自分の気持ちの安定と、母親の気持ちの安定を望むなら、変に波風立てないような言動をするべきなのか、本当でもない、嘘でもない、空白のような時間で過ごせば家族が傷つかずに済むのかわからないまま、【ふつう】を演じようとしていた。
「何んの石なん?でもなんか綺麗やなぁ。」
だから波風立てないよう押し出した言葉に、胸が詰まりそうになってしまう。
「そう!これ、斜めにしたら虹色に光るんよ!すごい人からタダで頂いてん。」
「へぇー。あ!ほんんまや!よーこんなん、タダでくれたな。」
「そう!」
石を持ち上げ、虹色に変えて見せる香織の笑顔に、高額だったのではと心配していた香月のモヤモヤの一部は解消されたような気になった。
「なんの石なん、これ?」
「なんか特別な石みたいで、すごいパワーあるみたい。」
「え?・・・・・・パワー????」
再び先ほどまでとは違う不安が襲い、思わず眉間に皺をよせてしまう。
「本当にすっごい先生に頂いたから、間違いないと思う。」
興味を示して、言葉数を増やした香月に嬉しくなった香織は饒舌になる。
「【小角】(おづぬ)教授って方から、直々にいただいたんやけど。」
「これ【天磐船】(あまのいわふね)って、太古の船の一部なんやって。」
「は?」
眉間に皺を寄せたままの顔が前にでる。
「めっちゃ凄いみたい!ホンマは神棚に祀らないとあかんらしいねんけど。うっとこにはないやん。」
「ちょ・・・」
母が高揚してゆくのが見て取れる。
「幸福を運んできてくれるんやって。家族を守ってくれるらしいわ。」
「そうなんや・・・へぇー。」
笑顔で石を見つめ話す母親を制止したい気持ちはあるが、安定を望む気持ちが勝ち不安になりながらも、否定は避けた。
「だれもが平等に幸せになれるってええことやんな。」
「う・・・うん。」
「香月の心も幸せにしてくれたらええなあ。」
「ん?どーゆうこと?」
「あ!先に言っとくけど、変なカルト宗教とかじゃないからね。歴とした公共機関やから。」
「え?・・あー。そうなんや・・・・。」
その言葉に新興宗教みたいな団体に騙されているのではないかと、増幅していた疑念が「どんな公共機関やねん。」と想像が追いつかなくなる。
「でも、その小角教授って方もおっしゃってたけど。どんな時でも自分の気の持ちようで、誰もが幸せに感じれることが出来るってことやから、そのきっかけになってもらえたら、ってことでくれはったわ。」
心配そうにこちらを見つめ続けている香月に、香織は「大丈夫やで」と手を上げた。
「じゃあ、今日はそこに行ってたんや。」
「そうやねん。今日しか小角教授の都合がつかへんかって・・・。香月の試合も行きたかってんけど・・・。」
「・・・うん、大丈夫。俺のことは気にせんとって。勝ったし、また次あるし。」
香月は目を閉じながら、頷いた。
母親と距離を取ろうと思っていても、応援に来てもらえなかった理由がこんな石をもらうためだったことに、変な敗北感が気持ちを曲げてしまう。
それでも、母親に寄せる期待に似た甘えはもう持たないと、心に決めつつあった香月はそれ以上何も言わなかった。
そんな香月に香織は笑顔で言った。
「小角教授のところに、一緒に行ってみない?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイルSEASON1】【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイルSEASON2】
シリーズとなっておりますので、全編お読みいただきましたらと思います。
【この話の感想や★をいただけると嬉しいです!よろしくお願いいたします!】
【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル】オリジナルイメージソングアルバムVolume1とVolume2、Volume2.5がSpotify、Amazon music、YouTube Music、Instagram、TikTokなどで配信中です。
アーティスト名に【HIDEHIKO HANADA】入力検索で、表示されます。
ぜひ小説と共にお楽しみください。
また曲のPVなど登場人物のAI動画を
X(@hideniyan)
Instagram(@hideniyan)
Tiktok(@hidehiko hanada)
Threads(@hideniyan)
にて公開しております。
お手数ですが、検索していただき、ぜひご覧になってください!
登場人物(※身体的性で表記)
・久米香月くめ かずき【17・男】・・・・大和まほろば高校3年2組・野球部主将
・縄手章畝なわて あきや【30・男】・・・久米香月のクラス副担任
・斎部優耳いんべ ゆさと【40・女】・・縄手章畝の婚約者
・木之本沢奈きのもと さわな【17・女】・久米香月の彼女
・葛本定茂くずもと さだしげ【17・男】・久米香月の幼馴染で野球部
・山本水癒やまもと みゆ【16・女】・野球部マネージャー
・戒外興文かいげ おきふみ【16・男】野球部2年生
・曲川勾太まがりかわ こうた【18・男】野球部3年生
★大和まほろば高校 硬式野球部メンバーは随時ご紹介予定です
・高殿持統たかどの もちすみ【15・女】・・生徒会長
・久米香織くめ かおり【47・女】・・・・久米香月の母
・葛本義乃くずもと よしの【48・女】・・葛本定茂の母
・小槻スガルおうづく すがる【31・女】・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・雲梯曽我うなて そうが【25・男】・・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・小角教授【不明】・・・・・カンダルパ産業技術総合研究所の教授
・周楫子あまね かじこ【38・女】・・・・元大和まほろば高校教師
・北越智峯丸きたおち みねまる【15・男】・・・・・・・野球部1年生
・宇治頼径うじ よりみち【24・男】・・・・・・・・・・北越智のパートナー
・新口忠にのくち ただし【49・男】・・・・・・・・・・久米香月の父親
・ディアナ・カヴァース【年齢不詳・DQ】・・・・・・・・新口忠のパートナー
ブックマーク、高評価、感想レビューなどなど何卒ご協力宜しくお願い致します。
久米は風呂上がりのTシャツと下着姿のまま、ベッドに寝転びながら眺めていた。
クラウドに保存してあった、なんとか消失の難を逃れた画像などをダウンロードしたあと、久米は充実した今日を思い返していた。
今日の勝利で得た安堵感と達成感、そして生まれた次への緊張感と使命感の中、【仲間】なんだと感じることができたチームメイトとのミーティングが終わり、途中で珍客が現れて一時は茫然となったけど、小学生以来の団結力みたいなものを、本当に久しぶりに心から感じることができた。
今のところ、自分がゲイであることに対して、嫌悪感むき出しで関りを持とうとする部員がいないことは、自分がそうであることを忘れさせてくれた。
純粋に野球に集中できることに、喜びを感じている。あの時に野球と離別していたら、こんな気持ちに一生出会えなかっただろう。
相変わらず生意気だけど、暴走しそうな曲川を気功のような技で眠らせ、その場を静めたり、出来過ぎる判断力を持っていると思えて仕方がない北越智に、悔しいけど正直感謝している。
あんな武術にも精通していたとなると、魔球のような投球をするのも、なんとなく腑に落とせるのかもしれない。
そしてそんな彼に、今までゲイである自分にだけ向けられると思っていた感情のひとつが、駐車場での秘め事を目撃して以来、ゲイである自分が感じてしまっている。
それは垣根ではなく、障壁でもなく、何か触れてはいけないのだけど、好奇心で覗いてみたい。だけど踏み込んではいけない境界線みたいなものを、作ってしまっていた。
だけど、まだ確信できないが、同じ性的指向を持つ近しい存在と思える人物が近くにいるということで、少しの安堵感も芽生えていた。
「あいつも絶対ゲイやと思うんやけど・・・聞かれんしなぁ・・・。」
体の向きを変えながら、スマホの中の動く縄手に笑顔で手を振る。
縄手先生と一緒に掴んだ初勝利。
「いや、縄手先生が顧問になってすぐに勝てたから。先生は勝利の女神??女神ちゃうなぁ。神様やな。」
久米は時間を共有できる機会が増えたこと、ふたりの仲を認めてくれている環境にいることで、更に親密になれた実感が生まれてしまっていた。
その実感は安心を作り、斎部から縄手を奪うという決意の色が薄まっている久米は、頬が緩みっぱなしの顔で、何度も何度も同じ場面を繰り返し眺めていた。
縄手に拍手で迎えられ、頭を撫でられたベンチに帰ってきた時の事を思い出しながら、片隅に浮かび始めた、下校時に北越智を校門までバイクで迎えに来ていた、あの日の公園で見かけた高身長でマッチョなイケメン。
まるで夏の夜空のように深いブルーメタリックで輝くヤマハYZF―R1大型バイクとイケメンマッチョは恰好良すぎて、絵になりすぎて、帰路につく生徒全員「誰?誰?」の注目の的になっていた。
その姿と目が合い、「なんで?ここに?」一瞬驚きビクついた久米に、笑顔で小さく手を上げたイケメンマッチョが挨拶をする。
北越智が「先輩!お先に失礼します!」と久米の脇をすり抜け、イケメンマッチョの腰に腕を回し、快適な音と共に颯爽と坂を下り消えて行くまで、久米だけではなく、その場にいる全員が歩くことを忘れしまっていた。
スマホの縄手を眺めたまま、体の向きをかえ、下着の中に片手を滑り込ませる。
先ほどから熱くなり治まらない勃起を握り軽く動かす。
「あいつ、今頃やってんやろーなぁー。」
自分の持つありったけの知識を集め、北越智とイケメンマッチョの絡みを想像しながら、ふたりを自分と縄手先生に置き換える。
「くっそーええなぁー‼ええなぁー‼俺もやりたいーーーーーーーーーーーーーーー‼」
抑えきれない衝動に体を回転させうつ伏せになった久米は、激しく腰をベッドに擦り付け、枕に顔を押し付けながら「縄手先生―!先生――――っ。」声が拡散して、一階にいる母親に聞こえないように声を上げた。
こういったタイミングは、何故かいつも間が悪い。
「・・かず・・・・たよー!」
「先生―――うーーーーーんんん」
「かず・・・・・・できたよー!」
ベッドに腰を押し付け続ける香月に、キッチンから母親の晩御飯の支度が整った声が届く。
ハッと我に返り、顔を起こした香月は「はい!行く!」声を上げて、ベッドから降りた。
勃起を隠さないといけない状況に、大きめのハーフパンツをはき、シャツを前にたらして久米は部屋を出た。
――――――――――
奈良市、月明かり照らす春日山原始林の中を、ご機嫌斜めの北越智と、それを笑う宇治が踏みしめる砂利道の音がリズムよく響いていた。
「いきなり【人面鹿】ってなんやねん!ええ加減にして欲しいわ!こっちは試合で疲れとるねんっちゅーに!」
宇治より三歩先を歩くプンスカモードの北越智が愚痴る。
「ほんまにごめんやって。急な相談やってんて。」
振り返りもしない姿に、遥か彼方の過去に峯丸を怒らしてしまい、なだめていた平等院での光景を思い出しながら、宇治は少し嬉しくなり微笑んでみる。
「いきなりコメディーってどーゆうことやねん!」
「なあ!なんでこの相談引き受たん!よっちゃんの過去と一切関係なかったやん!」
その声にふたりの全周囲を取り囲んでいた虫の声が一斉に止まり、驚き逃げ出す動物たちのざわつきが走る。
蒸し暑い夏の原生林のど真ん中は、さながら古き時代を留めているように、闇の中にうごめくものを想像してしまう恐怖に心細くなってしまう。
それでも昔に比べたら、相当よくなっている治安に、政治の優秀さに感心してしまう。
あの時代はこんな場所では、人なのか、もののけなのか区別がつかない生き物が現実に徘徊していた。
宇治頼径の中には、あることがきっかけで封印の解けた【藤原頼道】が融合しており、同血族の中で覚醒した特殊な例であった。
【藤原頼道】が悔やんでいた過去の罪を償い、良き未来へとの願いに共感した頼径は、成人と同時に名前を変え、家系と距離を置きながら生活をしていた。
とはいえ、割り切って使えるものは使っており、金銭に困ることはなく、太古から絡みあう人脈も手放すことなく、京都を拠点に日本を旅するように暮らしていた。
そんな贖罪の日々を続けていた時に、峯丸と再会することとなった。あの時代に雅楽を舞う峯丸の姿に一目惚れし、何度も夜を共にし、そして・・・・すれ違った。
【運命】と呼ぶ【縁】はなんて面白いんだろうと本当に感心してしまう。
自分の得た特殊な感覚に気付いたのは、頼径が高校生の時であったが・・・その話はまた別の機会に・・・・。
「まあまあまあ・・・それはそうやけど予想通り面白かったやん!なかなかお目にかからへんで!人面鹿やで!リアルジブリやで。え?も一回言うわ、人面鹿。令和やで。」
不貞腐れた雰囲気を変えようと、笑いを交えて話す。
「いやいやいやいや。めっちゃ大変やったやん。【火焔光】(かえんこう)はナシやで!聞いてへんし!ガチ炎じゃないから肉体は火傷せんけど、魂はめっちゃ熱いつーねん・・・・。」
こちらに振り返り、舌をだしながら口をへの字に曲げる。
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「・・・もうホンマに、面白そうやからとか、興味本位で関わんのやめよう。ガチでしんどいって。」
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「ホンマにごめんやって。マジで困ってそうやったし。その代わり美味しい飯おごるから。」
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口元を歪め恨めし気に見上げながら、いつまでもこんな不貞腐れた気持ちでいるのも、さらに自分を疲れさせてしまうだけだと、
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「お!龍神の力、なめんなよー。【潮満珠】(しおみつたま)と【潮干珠】(しおひるたま)で、ビシャビシャにさせたるで。」
その意図を読み取った頼径も笑顔で答えた。
――――――――――
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「・・なに?・・・・あれ?」
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「ツルツルで綺麗でしょ。」
香織は話す。
「・・・・・・う、ん・・・。」
口ごもりながら、母に同意したい思いもありながら、やはり怪訝な表情になってしまいそうになる。
母親にカミングアウトしてから、強烈に同性愛を否定し、本当の姿を見ようともしない姿勢がある一方、精一杯の愛で守ろうとしてくれる姿もあり、そんな母にどう接すればいいのか全く分からずにいた。
自分の気持ちの安定と、母親の気持ちの安定を望むなら、変に波風立てないような言動をするべきなのか、本当でもない、嘘でもない、空白のような時間で過ごせば家族が傷つかずに済むのかわからないまま、【ふつう】を演じようとしていた。
「何んの石なん?でもなんか綺麗やなぁ。」
だから波風立てないよう押し出した言葉に、胸が詰まりそうになってしまう。
「そう!これ、斜めにしたら虹色に光るんよ!すごい人からタダで頂いてん。」
「へぇー。あ!ほんんまや!よーこんなん、タダでくれたな。」
「そう!」
石を持ち上げ、虹色に変えて見せる香織の笑顔に、高額だったのではと心配していた香月のモヤモヤの一部は解消されたような気になった。
「なんの石なん、これ?」
「なんか特別な石みたいで、すごいパワーあるみたい。」
「え?・・・・・・パワー????」
再び先ほどまでとは違う不安が襲い、思わず眉間に皺をよせてしまう。
「本当にすっごい先生に頂いたから、間違いないと思う。」
興味を示して、言葉数を増やした香月に嬉しくなった香織は饒舌になる。
「【小角】(おづぬ)教授って方から、直々にいただいたんやけど。」
「これ【天磐船】(あまのいわふね)って、太古の船の一部なんやって。」
「は?」
眉間に皺を寄せたままの顔が前にでる。
「めっちゃ凄いみたい!ホンマは神棚に祀らないとあかんらしいねんけど。うっとこにはないやん。」
「ちょ・・・」
母が高揚してゆくのが見て取れる。
「幸福を運んできてくれるんやって。家族を守ってくれるらしいわ。」
「そうなんや・・・へぇー。」
笑顔で石を見つめ話す母親を制止したい気持ちはあるが、安定を望む気持ちが勝ち不安になりながらも、否定は避けた。
「だれもが平等に幸せになれるってええことやんな。」
「う・・・うん。」
「香月の心も幸せにしてくれたらええなあ。」
「ん?どーゆうこと?」
「あ!先に言っとくけど、変なカルト宗教とかじゃないからね。歴とした公共機関やから。」
「え?・・あー。そうなんや・・・・。」
その言葉に新興宗教みたいな団体に騙されているのではないかと、増幅していた疑念が「どんな公共機関やねん。」と想像が追いつかなくなる。
「でも、その小角教授って方もおっしゃってたけど。どんな時でも自分の気の持ちようで、誰もが幸せに感じれることが出来るってことやから、そのきっかけになってもらえたら、ってことでくれはったわ。」
心配そうにこちらを見つめ続けている香月に、香織は「大丈夫やで」と手を上げた。
「じゃあ、今日はそこに行ってたんや。」
「そうやねん。今日しか小角教授の都合がつかへんかって・・・。香月の試合も行きたかってんけど・・・。」
「・・・うん、大丈夫。俺のことは気にせんとって。勝ったし、また次あるし。」
香月は目を閉じながら、頷いた。
母親と距離を取ろうと思っていても、応援に来てもらえなかった理由がこんな石をもらうためだったことに、変な敗北感が気持ちを曲げてしまう。
それでも、母親に寄せる期待に似た甘えはもう持たないと、心に決めつつあった香月はそれ以上何も言わなかった。
そんな香月に香織は笑顔で言った。
「小角教授のところに、一緒に行ってみない?」
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【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイルSEASON1】【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイルSEASON2】
シリーズとなっておりますので、全編お読みいただきましたらと思います。
【この話の感想や★をいただけると嬉しいです!よろしくお願いいたします!】
【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル】オリジナルイメージソングアルバムVolume1とVolume2、Volume2.5がSpotify、Amazon music、YouTube Music、Instagram、TikTokなどで配信中です。
アーティスト名に【HIDEHIKO HANADA】入力検索で、表示されます。
ぜひ小説と共にお楽しみください。
また曲のPVなど登場人物のAI動画を
X(@hideniyan)
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Tiktok(@hidehiko hanada)
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お手数ですが、検索していただき、ぜひご覧になってください!
登場人物(※身体的性で表記)
・久米香月くめ かずき【17・男】・・・・大和まほろば高校3年2組・野球部主将
・縄手章畝なわて あきや【30・男】・・・久米香月のクラス副担任
・斎部優耳いんべ ゆさと【40・女】・・縄手章畝の婚約者
・木之本沢奈きのもと さわな【17・女】・久米香月の彼女
・葛本定茂くずもと さだしげ【17・男】・久米香月の幼馴染で野球部
・山本水癒やまもと みゆ【16・女】・野球部マネージャー
・戒外興文かいげ おきふみ【16・男】野球部2年生
・曲川勾太まがりかわ こうた【18・男】野球部3年生
★大和まほろば高校 硬式野球部メンバーは随時ご紹介予定です
・高殿持統たかどの もちすみ【15・女】・・生徒会長
・久米香織くめ かおり【47・女】・・・・久米香月の母
・葛本義乃くずもと よしの【48・女】・・葛本定茂の母
・小槻スガルおうづく すがる【31・女】・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・雲梯曽我うなて そうが【25・男】・・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・小角教授【不明】・・・・・カンダルパ産業技術総合研究所の教授
・周楫子あまね かじこ【38・女】・・・・元大和まほろば高校教師
・北越智峯丸きたおち みねまる【15・男】・・・・・・・野球部1年生
・宇治頼径うじ よりみち【24・男】・・・・・・・・・・北越智のパートナー
・新口忠にのくち ただし【49・男】・・・・・・・・・・久米香月の父親
・ディアナ・カヴァース【年齢不詳・DQ】・・・・・・・・新口忠のパートナー
ブックマーク、高評価、感想レビューなどなど何卒ご協力宜しくお願い致します。
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テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
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