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婚約破棄ですか?
「ルミナ、貴様との婚約は破棄させてもらう。」
時は遡ること1ヶ月前。
「ルミナ嬢、今日もすまない。」
私は今日も婚約者が待っているはずのハワード侯爵邸で待ちぼうけを食らっていた。毎月1回、婚約者の交流の場としてお茶会を行っていた。婚約者であるベクター様はここ半年ほど時間通りに姿を見せていない。お茶会の場所は毎回彼が住んでいる侯爵邸で行われているため、不在になる理由が分からない。彼が姿を見せない代わりに彼のご両親である侯爵夫妻が相手をしてくださっていた。そして毎回丁寧に謝罪をしてくださり手土産も用意してくださっていた。侯爵邸の使用人の皆さんも申し訳なさそうにしながら丁寧に接してくれていた。
「いいえ、侯爵様が謝罪することではありません。もうベクター様も学園を卒業する年です。自分の行動は自分で責任の取れる年齢であると私は判断しております。当家の当主も同様の考えです。それに侯爵家の皆様が尽力してくださっていることは知っております。」
「そう言ってもらえて助かる。あいつにはきちんと罰を与えるようにする。それと後ほど正式な文面でも書状を送るがご当主に伝言を頼んでも良いだろうか。」
「はい、構いません。どの様な内容でしょうか。」
「現在結んでいる婚約について両家で話し合いをしたいこと、また当家としては婚約解消・破棄含め考えており慰謝料についても考えていると伝えてもらっても良いだろうか。」
「婚約解消についてですか。承知いたしました。必ず当主に伝えさせていただきます。」
「すまないが頼んだ。もっと早く決断するべきだった。」
伝言の内容を聞いてついにこの段階まできたと感じた。侯爵様をはじめ侯爵家の方々は良い方々ばかりで将来自分が侯爵家の一員として過ごしていけることを楽しみにしていた。花嫁修行という名の勉学も進み侯爵夫人としての過ごし方も学び始めていただけにこの決断は容易に決めることができるものではない。通常婚家の内部について学び始めてからの婚約解消はあり得ないことだ。それは外部に漏れ出てはいけない内容を含むからであると容易に想像がつくだろう。だからこそ普通の感性を持った貴族であれば婚家について学び始めたらより一層婚約者や婚約者家族との交流は欠かさずに行なっていくことがこの国での常識である。
「では本日はこれで失礼させていただきます。」
この時は我が伯爵家にとっても侯爵家にとっても痛手としかならない結末を迎える未来しか見えず何も答えることができなかった。
そこから両家の話し合いが行われ、婚約は破棄となった。本来であれば両家当主と当人が集まるべきだが案の定ベクター様は来ず不在のまま慰謝料や今後についての契約などが新たに決まった。
それから1ヶ月後の現在、ベクター様はハワード侯爵家主催のガーデンパーティーに押し掛け、婚約破棄宣言をしていた。何故この時期にガーデンパーティーを行い、婚約破棄した私も参加しているのかというと両家の縁は切れていない、今後も関係は良好であると対外的に示すためでもある。そして跡取り候補であったベクター様はこのパーティーへの参加許可は出ていない。つまり言わずもがなである。
「婚約破棄と申されましたが、私とあなたの婚約は1ヶ月ほど前に既に貴方様の有責で破棄されております。慰謝料も頂いておりますし私と貴方様は全く無関係の人間ですわ」
「なんだと!そんな話は聞いておらぬ!私の気を引きたいがための嘘であろう!」
「なぜそのような嘘をつかなくてはいけないのでしょうか。婚約破棄については既に両家の当主で決め国王陛下にも報告済ですわ。それに、なぜこのパーティーに参加しているのでしょうか?」
「どういうことだ!我がハワード侯爵家が開催しているのだ。次期侯爵家当主である私が参加するのは当然だろう。」
「貴様の継承権などとうに剥奪しておるわ!」
「どういうことですか!父上!」
「当主が決めた婚約者との交流をすっぽかし、領地の公務に手をつけず、低位貴族の継承権のない子女や平民の女と遊びまわっているような人物にいつまでも継承権を与えておくほど甘い世界ではないのだ。衛兵よ此奴を捕らえ地下牢に繋いでおけ。既に侯爵家の人間ではない。」
ベクター様は衛兵に捕らえられた。両腕を押さえられ振りほどこうともがいているがどうにもならなさそうだ。
「そのような話聞いてはおりません!」
「聞いていないのではなくお前が帰ってこなかったから聞く機会がなかっただけだ。家に帰ってきさえすればまともに話し合いがでて今後の待遇についてもどうにか出来たかも知れぬのにな。帰ってこなかった貴様の自業自得だ。既に平民となっている、扱いは任せる。連れていけ。」
あれから一度も自宅に帰っていないのは流石に驚きを隠せない。何故交流に来なかったのか、公務を疎かにしたのか弁明の機会を自ら棒に振ったのだ。そもそも貴族として生まれたからには何かしらの義務が発生する。義務も果たさないのに貴族としての権利だけ主張しようなど認められるわけがないのだ。
「騒がせてしまったな。ルーベル伯爵家並びにルミナ嬢、此度の婚約破棄について誠に申し訳なかった。現在は平民となっているとはいえ当時はまだ侯爵家に所属していた男だ。我々がもう少し早く対処できていたらこのような無駄な時間を過ごさせてしまうことにはならなかったのではないかと思うばかりだ。」
「とんでもございません侯爵様。私を始め両親ともに皆様にはよくしていただいた思い出しかございません。侯爵夫妻と家族になることが叶わずとても残念でなりませんが、今後とも良い関係を築いていけるよう願っております。」
「そう言っていただけてありがたい。」
こうして私の婚約破棄騒動は終わりを告げた。物語のような派手な演出や展開もなければ次のお相手がすぐに決まることもない。ただそれぞれの立場の人間が立場にあった行動を取ることで解決させる。家格を守り受け継いでいくには家族の情だけではどうすることもできない。義務と責任、両方を背負ってこそ貴族という特権を主張できるようになる。ベクター様にはそれができなかった。だから貴族の世界から追放される当然の結果である。
さて、私の次のお相手ですが当主である父と義理の父になるはずであった侯爵様が何かしら企んでいそうな雰囲気でしたので決まるのは案外早いのかもしれませんね。
時は遡ること1ヶ月前。
「ルミナ嬢、今日もすまない。」
私は今日も婚約者が待っているはずのハワード侯爵邸で待ちぼうけを食らっていた。毎月1回、婚約者の交流の場としてお茶会を行っていた。婚約者であるベクター様はここ半年ほど時間通りに姿を見せていない。お茶会の場所は毎回彼が住んでいる侯爵邸で行われているため、不在になる理由が分からない。彼が姿を見せない代わりに彼のご両親である侯爵夫妻が相手をしてくださっていた。そして毎回丁寧に謝罪をしてくださり手土産も用意してくださっていた。侯爵邸の使用人の皆さんも申し訳なさそうにしながら丁寧に接してくれていた。
「いいえ、侯爵様が謝罪することではありません。もうベクター様も学園を卒業する年です。自分の行動は自分で責任の取れる年齢であると私は判断しております。当家の当主も同様の考えです。それに侯爵家の皆様が尽力してくださっていることは知っております。」
「そう言ってもらえて助かる。あいつにはきちんと罰を与えるようにする。それと後ほど正式な文面でも書状を送るがご当主に伝言を頼んでも良いだろうか。」
「はい、構いません。どの様な内容でしょうか。」
「現在結んでいる婚約について両家で話し合いをしたいこと、また当家としては婚約解消・破棄含め考えており慰謝料についても考えていると伝えてもらっても良いだろうか。」
「婚約解消についてですか。承知いたしました。必ず当主に伝えさせていただきます。」
「すまないが頼んだ。もっと早く決断するべきだった。」
伝言の内容を聞いてついにこの段階まできたと感じた。侯爵様をはじめ侯爵家の方々は良い方々ばかりで将来自分が侯爵家の一員として過ごしていけることを楽しみにしていた。花嫁修行という名の勉学も進み侯爵夫人としての過ごし方も学び始めていただけにこの決断は容易に決めることができるものではない。通常婚家の内部について学び始めてからの婚約解消はあり得ないことだ。それは外部に漏れ出てはいけない内容を含むからであると容易に想像がつくだろう。だからこそ普通の感性を持った貴族であれば婚家について学び始めたらより一層婚約者や婚約者家族との交流は欠かさずに行なっていくことがこの国での常識である。
「では本日はこれで失礼させていただきます。」
この時は我が伯爵家にとっても侯爵家にとっても痛手としかならない結末を迎える未来しか見えず何も答えることができなかった。
そこから両家の話し合いが行われ、婚約は破棄となった。本来であれば両家当主と当人が集まるべきだが案の定ベクター様は来ず不在のまま慰謝料や今後についての契約などが新たに決まった。
それから1ヶ月後の現在、ベクター様はハワード侯爵家主催のガーデンパーティーに押し掛け、婚約破棄宣言をしていた。何故この時期にガーデンパーティーを行い、婚約破棄した私も参加しているのかというと両家の縁は切れていない、今後も関係は良好であると対外的に示すためでもある。そして跡取り候補であったベクター様はこのパーティーへの参加許可は出ていない。つまり言わずもがなである。
「婚約破棄と申されましたが、私とあなたの婚約は1ヶ月ほど前に既に貴方様の有責で破棄されております。慰謝料も頂いておりますし私と貴方様は全く無関係の人間ですわ」
「なんだと!そんな話は聞いておらぬ!私の気を引きたいがための嘘であろう!」
「なぜそのような嘘をつかなくてはいけないのでしょうか。婚約破棄については既に両家の当主で決め国王陛下にも報告済ですわ。それに、なぜこのパーティーに参加しているのでしょうか?」
「どういうことだ!我がハワード侯爵家が開催しているのだ。次期侯爵家当主である私が参加するのは当然だろう。」
「貴様の継承権などとうに剥奪しておるわ!」
「どういうことですか!父上!」
「当主が決めた婚約者との交流をすっぽかし、領地の公務に手をつけず、低位貴族の継承権のない子女や平民の女と遊びまわっているような人物にいつまでも継承権を与えておくほど甘い世界ではないのだ。衛兵よ此奴を捕らえ地下牢に繋いでおけ。既に侯爵家の人間ではない。」
ベクター様は衛兵に捕らえられた。両腕を押さえられ振りほどこうともがいているがどうにもならなさそうだ。
「そのような話聞いてはおりません!」
「聞いていないのではなくお前が帰ってこなかったから聞く機会がなかっただけだ。家に帰ってきさえすればまともに話し合いがでて今後の待遇についてもどうにか出来たかも知れぬのにな。帰ってこなかった貴様の自業自得だ。既に平民となっている、扱いは任せる。連れていけ。」
あれから一度も自宅に帰っていないのは流石に驚きを隠せない。何故交流に来なかったのか、公務を疎かにしたのか弁明の機会を自ら棒に振ったのだ。そもそも貴族として生まれたからには何かしらの義務が発生する。義務も果たさないのに貴族としての権利だけ主張しようなど認められるわけがないのだ。
「騒がせてしまったな。ルーベル伯爵家並びにルミナ嬢、此度の婚約破棄について誠に申し訳なかった。現在は平民となっているとはいえ当時はまだ侯爵家に所属していた男だ。我々がもう少し早く対処できていたらこのような無駄な時間を過ごさせてしまうことにはならなかったのではないかと思うばかりだ。」
「とんでもございません侯爵様。私を始め両親ともに皆様にはよくしていただいた思い出しかございません。侯爵夫妻と家族になることが叶わずとても残念でなりませんが、今後とも良い関係を築いていけるよう願っております。」
「そう言っていただけてありがたい。」
こうして私の婚約破棄騒動は終わりを告げた。物語のような派手な演出や展開もなければ次のお相手がすぐに決まることもない。ただそれぞれの立場の人間が立場にあった行動を取ることで解決させる。家格を守り受け継いでいくには家族の情だけではどうすることもできない。義務と責任、両方を背負ってこそ貴族という特権を主張できるようになる。ベクター様にはそれができなかった。だから貴族の世界から追放される当然の結果である。
さて、私の次のお相手ですが当主である父と義理の父になるはずであった侯爵様が何かしら企んでいそうな雰囲気でしたので決まるのは案外早いのかもしれませんね。
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