トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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4章

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 休日を翌日に控えた十月初旬のその夜、志貴はフェデリコ・ナヴァス外相の招きで懇親会に参加していた。
 顔をつなぐのが主な目的である社交の場は、官邸や各国の在外公館がその会場となることが多いが、この日は一軒家のレストランを貸し切っている。マドリードでは珍しい、アンダルシア風の回廊がめぐる中庭に面した部屋は、すべての扉が開け放たれ、人々のざわめきが噴水の水音に混じり合う。秋風が自由に通り抜ける、内と外をゆるやかに繋ぐ開放的な空間。
 いつもとは異なる雰囲気は新鮮で、心なしか参加者たちも華やいで見える。新しい知己を得られるかもしれないという期待が高まるが、会場に足を踏み入れて以来、志貴はわずかな違和感を覚えていた。

 ――若手の外交官や実業家の懇親会だそうだよ。私に招待状が来ないということは、老いぼれだと烙印を押されたんだな。

 梶は若干拗ねながらも「楽しんでおいで」と送り出してくれたが、公使館には志貴より若手の書記生もいる。それなのに、招待状は志貴のみに届けられた。書記生は入省二年目の研修もかねての配属だから、若手にも数えられないひよっ子扱いということなのだろうか。「美味しいもの、僕の分まで沢山食べてきてくださいねえ」と恨めし気だった彼に苦笑しつつ、日本公使館の若手代表として参加したわけだが、――どこか落ち着けない。
 その理由がわからず、据わりが悪い思いをしながらもまずは招待主に挨拶をと思ったが、くだけた場なのか案内係はつかず、「どうぞ奥へ」と通されただけだった。自分で探せということなのだろう。しかし、中庭を取り囲むすべての部屋をまわっても、ナヴァスの姿は見当たらない。別室で、特別な客と人に聞かれたくない話をしているのかもしれない。
 時間を置いて探してみよう、と志貴は通り掛かった給仕から発泡酒カヴァのグラスを受け取り、壁際に寄って乾いた喉を潤した。そうして一息つき、改めてその場の人々を観察しようとグラスから顔を上げて――違和感の正体に気が付いた。

 参加者はみな身なりがよく洗練された雰囲気を持つ、社交の場でよく見掛ける階層の人々だ。グラスを片手に料理をつまみながら、それぞれが和やかに会話を楽しんでいる。誰も志貴など眼中にない――それなのに、見られているような気がする。常に、誰かに。
 確かめるように、顔は動かさずに目だけで視界の端に映る人物をさっと見遣ると、気づいていないのかこちらを見たままだ。ゆっくり顔を向けると、相手は不自然にならないように視線を外す。さりげなく反対側も同じように確認したが、同様の反応を返された。
 志貴だけが弾かれた大きな一つの意思がその場を支配し、志貴を観察している。そんな錯覚を覚える。しかし敵意は感じないのだ。
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