トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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16章※

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 一洋の興が乗るように振る舞わなければ、との思いから出た声ではなかった。不意に男の顔が下がり、志貴の胸に吸い付いたのだ。
 口での愛撫を与えられるのは初めてだ。そのやわらかく、濡れた感触に跳ねた鼓動を宥めつつ、志貴は抱え込むように一洋の頭を撫でた。髪を梳きながら、頭皮を掠めるようにやさしく刺激する。

 乳房もない胸に吸い付いている様が子供のようで、自分が慈母になったかのような錯覚が湧き起こる。女のように形を歪められた胸には、男を引き寄せる力があるようだ。そして――女のように男を受け入れる覚悟も。
 しかし、大の男が微笑ましいなどと思っていられたのは、ほんの初めのうちだった。熱い舌が乳首にねろりと絡んだのだ。

「は、あっ……ん!」

 愛撫は熱心で、執拗だった。乳首全体を唇で挟まれ、強く吸引して引き伸ばされる。そうしながら、その周囲の肉を集めるように揉み込まれる。吸われていない方の胸は、より大胆に手のひらで揉みしだかれ、指先が乳首を捏ね上げた。どちらからも、甘痒いような疼きが生まれ、ひたひたと全身を侵していく。
 もとより熟していたところを、さらに淫らな形に仕立てようとする男の手技に、志貴はなす術もなく悶えるしかない。夕食前に二度達しているにもかかわらず、欲望は胸の刺激だけで勃ち上がりつつあった。

「お前の胸はいやらしいな。こうして弄ってやるごとに、つんと尖って突き出てくる。もっと、もっと触って、ってな」

 からかう口調に、頬に血が上る。女の胸に擬せられながら、男の欲望を募らせている滑稽さに、改めて気づかされたのだ。代用品となる覚悟を決めても、屈辱と羞恥までが消え去るわけではない。
 早く一洋の欲望を遂げさせようと、志貴は重なる体の間に手を差し入れ、一洋のそれを掴んだ。余裕めいた顔をしていながら、そこはすでに硬くなっている。志貴の痴態に興奮している証拠だ。

 小さな満足を覚え、意趣返しのように手の中のものを擦り立てるが、その硬さと大きさに、今度は生理的な恐れが込み上げてくる。
 こんなに、人並み外れて大きなものを、硬い男の体が受け入れられるのか。代用品として彼の欲望に奉仕し、満足させることができるのか――。
 怯えに手の動きが鈍ったのを狙ったかのように、一洋の手が志貴を制止した。

「僕が触る番……」
「俺はここを、もっといやらしくしてやりたいんだが」 
「だったら、お互い好きにできる姿勢になれば……?」

 怯えたところで、望みは変わらない。ならば、と志貴は自身を奮い立たせ、大胆に行動した。覆い被さる一洋の下から身を起こし、ベッドの頭板に枕を重ねる。それを背もたれに男を座らせると、その上に跨ったのだ。

「これならお互い、触りたいところに触れるでしょう」

 身長差があるため、乗り上げてようやく同じ目線になった一洋は、やれやれ、とでも言うように大きなため息を吐いた。
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