扇屋の梟

音羽夏生

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前触れ

1

「私が通うようになってから、おまえの背に触れる者はいなくなったな──私以外」

 同時に果て、快楽の余韻と背徳の交わりに対する罪悪感に身を苛まれながら荒い呼吸を繰り返していた梟の耳に、背後から満足そうな囁きが送り込まれた。
 遂情とともに悪霊の呪いは少しずつ薄れていき、けれどたった今まで晒されていた行為に、自由を取り戻しても身動ぎすら億劫だ。
 最悪の強姦に引き裂かれた梟の傷が癒えてから、二ヵ月が経とうとしていた。
 蜻蛉は殆ど毎夜のように部屋を訪れ、梟がどこに隠れようと見つけ出し、寝台に引き上げてその体を拓くことに深い愉悦を覚えているようだった。
 こんなことは嫌なのだと──剣を持つ者の矜持を挫くのだと訴える梟に耳を貸すことはなく、快楽に弱い体をあざとくも籠絡して、その反応こそが梟の本心だとのたまって憚らない。
 相互不理解の上に成り立つ二人の夜は、呪いが続く以上、梟に逃れる術はない。椿に前を搾られることはあっても後ろを弄られたことはなく、何も知らなかったそこは無垢だっただけに、蜻蛉の愛撫を覚え込むのも早かった。
 最初の冷酷無比な強姦以外、蜻蛉が仕掛けてくる行為は濃厚であっても凶暴ではない。
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