扇屋の梟

音羽夏生

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番外編 寝相

1

 夜中、蜻蛉かげろうはふと目を覚ました。
 何かの気配があったわけでなく、たまたま意識が眠りの海から浮上したような目覚めだった。
 眠りに就いた時はふくろうに腕枕をしていたはずが、寝返りを打って外れたのか、寝台の端を向く体勢になっている。そのことに気づいたのは、背中に触れるものがあったからだ。
 梟が、背中にくっついて寝息を立てている。
 普段は取り付く島もない素っ気なさと近寄られることへの緊張で自身を鎧う梟だが、唯一その張り詰めた意識が途絶える眠りの中では、可愛らしい素の顔が覗く。決して寝相が悪いのではなく、同じ寝台に眠る誰かがいれば、懐くように身を寄せるのだ。
 その誰かが夢の中で、梟がユリウスだった頃の、一番幸せな記憶の中に住む兄であることはわかっている。その誰かが、蜻蛉でなくても──あの忌々しい扇屋の主であっても、梟が同じように甘い寝息を委ねることも知っている。
 ユリウスを、梟を、絶対に傷つけることのない、兄のような存在に対する無防備な信頼。
 それが、眠りの間だけとはいえ自分に寄せられていることに、蜻蛉は複雑な思いを抱く。
 皇帝の『影』という、公には存在しない立場で皇宮に住まう梟は、正式には蜻蛉の愛人ですらない。しかし蜻蛉は一生を添い遂げる伴侶として扱っており、侍従や『四神の近衛』にもその意思を伝えてあった。
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