傍観者を希望

静流

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「精霊の子が、本来どんな存在か失念しているのですかね?私なら、というより我が国ならとても恐ろしくて出来ません」

「桑原桑原」と呟いて首を竦めて見せるアルフレッドは、如何にも態とらしい上に目の奥が笑っている。だが、ふざけた真似で空気が少し弛むのを肌で感じ、気付かないうちに入っていた肩の力が抜けるようだった。

「アルフ。幾ら何でも、当人の前で普通しないぞ。私は、雷神になった覚えもないのだがな?」

「おや、言われてみればそうでしたな。これは失礼を致しました。ただ…こういう場合なんて言うのが正しいのでしょうか?」

「「桑原桑原」と言わないのは確かだが…。いや、そういう問題か?」

誘導されるままに、災い避けの言葉を考えかけて、ふと我に返った。
呆れた視線を投げかければ、ニヤッと笑われて全て込みの悪ふざけだと理解し、肩どころか全身脱力した。

「お引止めして申し訳ありませんでしたが、そろそろお休み下さい。何でしたら、ココアでもご用意致しましょうか?」

「いや、それには及ばないよ。じゃあ、お先に。アルフも、早く休んでね」

「御意に」

アルフレッドは、スッと態度を一変させ、静かに首を垂れ見送ってくる。
この辺りの絶妙さは年季故だろうが、此方の姿が見えなくなる迄、その姿勢を維持して微動だにしないのは、逆に此方の頭が下がる徹底ぶりだった。

「居るのだろう?」

部屋に戻って、ベットに浅く腰掛け虚空に言葉を投げれば、微かな忍び笑いの声が聞こえてきた。

「セイ様。このままで、失礼をさせて頂いて宜しいですかな?以前よりも監視、もとい警護の網が厳しくなってますからな、転移なんぞすれば即警報が響く仕組みのようですね」

「この部屋は私の管理下だが…、それでも無理そうか?」

「…二重三重に網が張られ、今や宮全体をすっぽりと包んで隙間すらありませんし、音は兎も角として、熱に反応するので無理ですよ。突如熱反応が増えたと察知されてしまいます」

「…何で、そう無駄に妙な技術は進化するんだか。技術大国でも目指してるのかね」

大国の精霊主義とは異なり、この国は科学技術が盛んで精霊が居なくても困らない生活が根付いている。だから、魔法を使えるものは少ないし、使えないのが一般的なのだ。

大国は生活を精霊と魔法に頼っている分、そちらが特化しているが、此方はそれに代わる人力や技術が発展し、探知魔法の代わりにセンサーが配備され、人力的には眼鏡で熱を感知する警備が主流だったりして、段々と遜色がなくなっている。
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