チートも何も貰えなかったので、知力と努力だけで生き抜きたいと思います

あーる

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希望

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ズバァアアアアアアンッッ!!

 辺りに爆音が響き渡る。その爆音の出処は、この国の王女アリスの部屋の壁が破壊された音だ。

「アリス様!」

 側近の人間がアリスを呼び掛ける。王女の安否を心配しているのだろう。

「ケホッ! ケホッ!」

 辺りに舞い上がる砂煙に噎せ返る。突然の出来事に思考が着いていかず、その場に立ち尽くしていた。

 側近の騎士も砂煙に視界を奪われ、アリスを発見出来ないでいる。

 当然、襲撃者がそのような隙を見逃すはずがなかった。

「きゃあ……っ!」
「アリス様!?」

 体を巨大な何かに鷲掴みにされる。身体が宙に浮く感覚に戸惑いながらも、襲撃者の姿を確認する。

 身長3メートル程ある巨体、赤黒い肌に、その体から放たれる熱気。どこを見ても、とても人間とは思えないその体に、思わず身震いしてしまう。

「あ、貴方は……」

 恐怖の中、何とか絞り出した声でそう尋ねる。

 その問いに、襲撃者はニヤリと笑ったかと思えば、唸るような低い声で言葉を紡いだ。

「我が名はフレイア。魔王軍四天王の一角を担う者だ」
「魔王軍……!?」

 フレイアの口から飛び出た言葉に思わず目を剥くアリス。当然のことだろう。

「くそ……っ! アリス様を離せ!」
「そういうワケにはいかないな……魔王サマがこの国の王女を連れて来いと仰られたからにはな」
「何……魔王が……!?」

 そこまで言うと、フレイアは腰に刺してあった巨大な剣を抜剣し、側近達に剣先を向ける。

「それとも……この我と戦うか? 貴様ら程度では全員でかかってきても勝てるわけがないがな……」
「戯け……!」

 フレイアがそう言い終わるや否や、側近達全員が剣を抜いてフレイアに襲いかかる。だが……。

「遅い」

 そうぽつりと呟くフレイアが無造作に振った剣に、側近達の鎧を切り裂く。

「がはッ……!」
「……っ!?」

 その巨大な剣に、鎧ごと上半身と下半身を断たれる。フレイアが立ち向かった者は、皆一様にして真っ二つに裂かれ、その断面からは赤色の液体が飛び散る。

 辺りに鉄のような臭いが充満し、白色が目立つこの部屋は、瞬く間に赤色に染め上がった。

 その光景に思わずアリスは目を背ける。

「やはり人間は脆いな……」
「離して……下さい……!」
「これこれ、暴れるでない、王女」

 じたばたと暴れるアリスを押さえつけるフレイア。王女であるアリスが、魔王軍四天王であるフレイアの力を上回ることが出来ないのは火を見るより明らかだ。

 しばらくの間暴れていたが、やがて暴れることは無くなった。

「シュウさん……」

 せめてもの心の安らぎが欲しかったのか、そう呟く。その言葉に、フレイアが「む?」と反応を示す。

「シュウ……。それはもしや、ヤマニシシュウのことか?」

 フレイアの口から飛び出た名に、思わず身体を震わせる。

「残念だが、奴は今頃、この国に来ているもう一体の四天王に殺されているであろう。その上、上級悪魔二体を使役している。状況は絶望的であろうな」
「そん……な……」

 心が黒色の絶望に支配される。身体中の力が脱力し、抵抗する気概さえ失ってしまった。

 唯一無二の友人、ヤマニシシュウ。

 彼を失ってしまったその悲しみは、そう簡単に切り捨てられるものではないことは、容易に想像出来る。

「さて、王女よ。そろそろこの国への別れは済んだか? これが最後の機会なのだ。しっかりと別れを告げておくのだな」
「……」

 一滴の涙が頬を伝う。

「王女たるものが涙を流すとは……情けないものだな」

 アリスの涙を見て、そうフレイアは一言。鼻で笑う。

「そうか? 年相応の反応だと思うがな」
「例え子供であろうと、王族不甲斐ない姿を晒すのは許されない。当たり前のことだ」
「そうか? 俺は泣くくらいが子どもっぽくて好きだけどな」

 そ凄惨な戦場に似合わぬ気の抜けた声が響いた。その声に、フレイアは「ほう」と、感心するような声を上げながらも応える。

「何はともあれ、よくぞ生きていたな」
「まぁね。四天王の奴等はどいつも雑魚すぎて笑っちまうぜ」

 フレイアの背後から黒い影が飛び出す。

 突然の襲撃にも関わらず、フレイアは冷静にアリスを手放し攻撃をかわす。

「きゃ……っ!」

 自分を支えるものが無くなり、宙に放り出されるアリス。それをフレイアの背後から飛び出した男が支える。

「よっ。遅くなったな」

 そう、笑ってアリスに話しかける男。その男の顔を見て、アリスは再び涙を流す。だが、今回は先程と違い、恐怖からではなく、心からの安心からだろう。

「遅いですよ……シュウさんっ……!」

 そう言い、アリスは男へと抱きついた。

「さて、可愛い妹分を泣かせた罪。お前の命で払ってもらおうか」

 そう言って男──山西シュウはニヤリと笑みを浮かべた。
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