せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね？ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

プロローグ①

　俺の名前は、木村涼都きむらりょうと。27歳の会社員だ。
　自分のことを簡単にでも振り返らないと自分のことが分からなくなるくらい、仕事に生きている。
　明日には交通事故や突然の病気で死ぬかもしれない。俺の仕事は俺が終わらして他の人へ迷惑をかけたくない。
　だから俺は、生き急いでいた。
　毎日毎日仕事を朝早くから夜遅くまでひたすらに繰り返していた。
　だからきっと当然のことだったのだろう。
　ある朝、電車に乗ろうと駅の改札の階段を上っていた時だった。
　目の前の景色が揺れて、前傾姿勢だったはずの俺は後ろへと倒れていた。
　あぁ、これは階段から落ちるな。きっと死ぬな。
　そうゆっくりと考えていた。そして、今ある仕事はほとんど終わらせていることへ安心していた。

　ガサガサ
　ガサガサ
　葉っぱが、風で揺れる音が聞こえる。
　俺は死んだと思っていたのだけれど。
　目を、開けてみた。
　すると、大きな木の上に寝ていた。
　俺は生きていたのだ。
　だが、おかしい。この木の大きさもそうだが、周りにある景色が俺の知っている世界の景色ではなかったからだ。
　俺が寝ていた位置は3メートルほどの高さだが、さらに何十メートルも木は続いていた。
　そこで、俺は考えた。
　目覚める前の状況と今の状況を比較して、あぁ、そういうことか。俺は、転生したんだ。
　仕事の休憩時間に仕事をし続ける俺の横で同僚が話していた異世界転生というものにそっくりな状況な気がする。
　じゃあ、もう仕事はいいか。
　異世界転生したことだし。
　1回死んでしまったことだし。この世界ではゆっくり生きるかなぁ。
　1回死んだんだし。
　というわけで、生きるための衣は元いた世界のものをなぜか着ていたので、あと、食と住を探しに行こう。
　どこかに街はないものかともう一度周りをよく見まわすと、遠くに建物らしきものが見えたのでそこへ行ってみることにした。
　というわけでさっそく木から飛び降りてみる。
「いたっ…。くないな…」
　あれ？3メートルの高さから飛び降りたのに全く痛くない。
　運動神経がゼロだったから、足を痛める予定だったのに。
　きっと異世界転生の影響だろう。これも聞いたことがある話だ。
　とりあえず、建物のある方へ行ってみるか。
　俺は歩き始めた。