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13話 萌火
しおりを挟む「はいセータ♪」
「自分で食べれるのに……」
ハロとの生活が戻って1週間、彼の過保護っぷりが日毎に悪化している気がする。
助けてもらった手前大人しく従ってはいるが恥ずかしくて仕方がない。
食後はさらなる問題がある。
「じゃあ磨こうね」
「あー……」
神秘魔法で口の中を磨かられる。
この世界では歯磨きという文化はあれど、魔法を使えるものはこうして魔法による浄化を行うのが当たり前のようだ。
俺は上手く魔法が使えないので毎度こうやって磨いてもらう事になってしまっている。
「んっ……ぁぇ……」
ハロの長い指が俺の口の中を動き回る。
最初は変な感じだったけど最近は慣れてきてしまった。
むしろこの浄化されるという感覚はちょっとだけ気持ちがいい。
「うん、これで終わりだよ」
「ありあとぅ……」
「今日も綺麗になったよ」
仕上げにおでこにキスされる。
もうお馴染みとなってしまった光景だ。
さて、問題はこれからだ。
「じゃあベッド行こうか?」
「……はい」
ハロと一緒に寝室に向かう。
これから何をするかなんて決まっている。またいつものアレだ。
「んっ……ハロ、もうちょっと優しく……!!」
「ごめんごめん、でも強くなるためだよ」
そう、身体を柔らかくするためにガッツリとストレッチをやらされる。もちろんただのストレッチではない。
「ほら、もっと力を入れて!」
「くっ……うぐっ……」
まず仰向けに寝転んで両手両足を大きく開く。
そこから背中側へ曲げたり伸ばしたりするのだがこれがキツい。柔軟体操自体は前世でもやったことあるけどここまでキツイのは初めてだ。
ハロ曰く、今の体は柔らかすぎるらしい。
確かに前世の自分より遥かに柔らかいとは思う。
ともかく自分の限界ギリギリの可動域を動かせうように柔軟させられていく。
「はい次は横向きね」
「ふぎぃ!?︎」
そのままうつ伏せになる。
そして腕立て伏せのような姿勢のまま体を起こす。これもかなりきつい。
「よし、次逆立ちしてみようか」
「そんな体勢で……?」
無理だと断ったが結局無理やり逆立ちさせられてしまう。
この身体の身体能力が高すぎて多少の無理は全部可能なようだ。
足の裏が床から離れ宙ぶらりんの状態が続く。
なんとかバランスを取るためにふんばるが、逆立ちのまま背中を押されたり脚を開かれて身体がふらふらする。
「ほら、頑張れ~もう少しだから~」
「ああああああ!!!」
何分経っただろう。ようやく体が地面につく。
汗が滲んでいる。
「はい、よく頑張ったね」
ハロに頭を撫でられる。
褒められて悪い気はしない。
だがこれはまだ準備運動にすぎないのだ。
ここからが本番である。
「はいじゃあ今度はこれを飲んで」
「えっ……」
渡された小瓶には透明な液体が入っている。
匂いを嗅いでみると甘い香りがした。どう見ても水じゃない。
最近彼はこういった謎のポーションを俺に投与してくる。
たまに彼の趣味が混ざっているので油断できない。
「大丈夫、毒なんか入ってないから」
「…………」
少し躊躇ったが覚悟を決めて一気に飲み干す。
すると全身にじんわりとした熱が広がる。
「今日のは何なの?」
「それは魔力を活性化させる薬だよ」
「魔力を……?」
「そう、セータは何故か魔法に対する才能が少し乏しいからね」
「……」
ハロの言う通り俺は魔法の扱いが下手だ。
自分では強化魔法は使えないし火を出したりなんて夢のまた夢だ。
そう、今やっている謎の特訓は全部俺が魔法を使うために必要な事と言われてやっている事だ。
先程のストレッチでは魔力の流れを身体に上手く伝えるためといった具合だ。
「でもこんなんで魔法が使えるようになるの?」
「うん、魔法なんて本来は誰もが使える物だからね。みんなその知識がないだけなんだ」
その言葉を聞いて安心する。
この世界において魔法使いに求められる能力はそれほど多くはないようだ。
俺の場合ちょっと遅咲きなだけだ。
「それに、セータも早く強くなりたいでしょ?」
「そりゃまあ……」
「じゃあ続きやろうか」
「……今日はどんな事やるの?」
するとハロがポンポンと膝を叩く、上に乗れという事だろうか。
俺は膝に乗ろうとする。
「違う違う、こっち向きでね」
「?」
俺はハロに向かい合って座る形となる。
「それじゃセータ、舌を出して?」
「えぇっ!?」
俺は戸惑ったが、とりあえず恐る恐る舌を出してみる。
これじゃあまるでキスをするみたいでなんだか変な感じだ。何をする気なのだろうか。
「じゃあ行くよ?」
「え?んっ!?」
ハロの顔が近づいてきて、俺の口の中に何かが入り込んでくる。彼の長い舌だった。
そのまましばらく舐め回されるような感覚が続いた後、最後に唇が離れる音がする。
俺は何が起きたのか分からずに混乱する。
「は、ハロ!?何をやってるんだよ!!」
「え?何って……魔力がちゃんと存在してるか確かめているだけだよ?」
「えぇっ?」
「たまに完全に素質が0の人もいるからね、こうやって外部から取り込んでもらった魔力をセータの中で動かして確かめてたんだよ」
そういってハロはまた俺の唇にキスをしてきた。俺の中の魔力を確かめるようにゆっくりと丁寧に。
ハロとキスをしてしまっているという事実が邪魔をしてくるが。俺も目を瞑って集中してみる。
するとようやく理解できた。俺の中にもやのような物が蠢いている。
これが魔力か。
「どう?セータ、何か感じた?自分の中の魔力を感じることは出来たかな?」
「んっ……ああ、なんとなく分かった」
「良かった!これで次の段階に移れるね」
「次があるの!?」
思わず叫んでしまう。
まだあるのかという気持ちが強い。
正直もう勘弁して欲しい。
「というかハロ……魔法を使う人はみんなこんな事をやっているの?」
「いや、普通に魔力の操作自体は手とかでもできるよ?」
「なっ……!」
「ただ、キスができる関係ならそうした方が効率がいいみたい、一回やってみたかったんだよね」
「……」
この世界の倫理観はどうなっているのだろう。
いや、一回やってみたかったというだけでキスをしてくるハロがぶっ飛んでいるだけなのかもしれない。
「それじゃ、次はついにお待ちかねの……」
キス以上の事をされるのかと思い身構える。
「この魔法陣を使ってみようか」
「ぇ……?これは?」
予想外な物が取り出されてきた。
渡された紙には複雑な模様が描かれている。
円や三角形などの図形を組み合わせたものだ。
「それは魔法を発動するための手順を記したものだよ、まずはそこに指で触れてみて」
「でも俺こんなの一個もわかんないよ?」
「セータ、君は物を食べた時に、それがどうやって最終的に身体のエネルギーになるか1~100まで理解してそれを行なっているかい?」
「え?」
「身体を動かす時に、どんな神経が動いているのかを理解して身体を動かしたことは?」
「ない……」
「それと同じさ、その魔法陣が魔法の流れを引き出してくれるんだ」
何が何だかわからないが言われた通りに魔法陣に触れる。
すると一瞬でその部分が光り輝く。
「わぁっ!?︎」
「大丈夫、落ち着いて」
ハロが紙から離しそうな俺の手を優しく上から押さえ、魔法陣をぐるりとなぞっていく。
光がどんどん広がり、円になった。
そしてその中心では小さな炎が見える。
「凄い……本当に使えてる……」
「おめでとう、セータにもついに魔法の素質ができたね」
「うん……」
確かに感動的ではあるのだが初めて魔法を使った感動よりも、さっきまでの出来事の方が衝撃的すぎて感動が薄まっているのが悲しい。
キスめ……。
「それで、これはどんな魔法なの?」
「これは火炎魔法だね、見たまんまの火を出せる魔法だよ」
「へぇ~」
「でもセータの場合普通に殴った摩擦熱や燃えた丸太を投げたりした方が遥かに強いけどね」
ロマンも何もない言い方だ。魔法とはなんなのか考えさせられる。
でもこれは多分俺に自信を付けさせるためにハロが用意してくれたんだという事はわかる。
俺はしばらく小さく揺らめくそれをケーキの蝋燭のように愛おしく見つめるのであった。
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