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再会
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途中で一度だけ馬車を止め、張包と彼の部下たちと一緒に、小月は樹下で瓜を頬張った。 宮城に入るまで馬車を降りる機会はない、と張包が宣言した通り、その後、馬車は突風のように皇都に向かった。
厳めしい宮城の門を通り抜けてからは目まぐるしかった。張包は、上に報告にあがるからと、小月を置いてさっさと奥へ行ってしまった。
入れ違いに入ってきたのは、でっぷりと肥えた男と二人の女。
「明小月様、私は陛下の近侍、黄太監と申します」
黄太監は男子のしるしを切り落とした宦官だという。宮城には宦官が多く仕えているのだそうだ。宦官という存在を、かつて小月は聞いたことはあったが、実際に会ったのは初めてだった。
二人の女性は後宮に仕える女官で、安梅、韓桜と名乗った。親切にも、小月の着替えを手伝ってくれた。いや、手伝う、というのは正しくない。豪奢な刺繍のはいった幾枚もの布の重なり。見るからに高そう。そう思うと、怖くて手が出せなかった。着方もまったくわからない。女官たちに言われるままに手を上げ足を上げ、椅子に座り、動かないように我慢した。
「いかがですか」
手渡された鏡を覗いて、小月は唸った。見たことのない自分がいた。
結上げ髪にいくつもの髪飾り。生まれて初めて化粧を施した顔。
愛嬌がある、と言って言えなくはない女の子。最初の印象はその程度。陽に焼けて荒れた肌は白粉では隠せていない。それでも小月史上、最高に可愛い。鏡の中の小月は溶けた砂糖菓子のように笑った。
「見違えましたな。深窓のご令嬢になられた」
黄太監は目を細めた。小月についてくるようにと言って、先を歩く。
「着替える必要があったのですか」
「あのなりでは天子のお目を汚してしまいます。さあ、まいりましょう。天子がお待ちです」
着替えには別の意味がある。危険物を隠し持っていないか、女官による身体検めを兼ねていたことは小月はこの時まだ知らない。ただ小月は素直に驚いた。たった十五日の旅で行き着いた先は、故郷の村と地続きとは思えない別世界だった。
「お、お待ちください~」
黄太監を置き去りにして宮城の奥へと駆けていく。化粧石で綺麗に舗装された階段を駆け上がり、金魚が泳ぐ池を飛び超え、大きな建物に飛び込んだ。数百人は余裕で入れそうな大きな部屋だった。壁際の蝋燭がずらりと並んでいる。その炎がゆらりと揺れた。
「……小月?」
「誰?」
華美な衣服を身につけた青年が近づいてくる。背が高く、顔貌麗しい。年の頃は小月とあまり変わらない、十六か十七か。
「綺麗になったね、小月。会いたかったよ」
「……もしや、秀英?」
青年はにこりと笑った。とても嬉しそうに。
その眼差しはまぎれもない、小月の記憶に残る秀英のそれだった。懐かしい思い出が胸裡にひろがる。
「そうだよ。今は大毅国第七代皇帝だ」
三年ぶりに会う幼馴染みを認めて、呼吸を忘れた。
「……皇帝……貴方が、私をここに呼んだの?」
「そうだよ。お願いがあってね。私の皇后になってほしい」
「こうごう……?」
秀英は苦笑した。「私と夫婦になってほしいと言ったのだ」
そう言って、天子は手を差し出した。
「私は……」
小月は秀英の手を取った。そして両手で撫で、爪をさする。
「綺麗な手。ほら、秀英、見て。私と全然違う」
「……小月の手は荒れているな。農作業に励んだせいだろう。だが暖かい。私と一緒に後宮で暮らそう。もう畑を耕さなくていい。働く必要はない。一生贅沢な暮らしをさせてあげるよ」
「あ……えと……」
小月は口ごもった。情報の奔流についていけていなかったのだ。
秀英と再会した。皇帝になっていた。しかも皇后になってくれと懇願してきた。
自分は現実の世界にいるのだろうか。
秀英の手を撫でたり揉んだり叩いたりしているのは時間稼ぎだ。やがて撫で返されて、ぎゅっと握られると、ようやく実感がわいてきた。
「……秀英にまた会えるなんて、嬉しいよ」
「頷いてくれ、小月。私には小月が必要なんだ。きみでなければ駄目なんだよ」
秀英の言葉は魔術のようだ。ふわふわと浮かび上がりそうになる。胸の鼓動は耳の奥で銅鑼を叩き続けている。
片手でそっと腿をつねる。痛い。
秀英は小月の両の手を取って向かい合った。秀英の瞳が間近に迫る。
小月は思わず顔をうつむけた。秀英の瞳に、固い意志が見えたからだ。彼は本気だ。安易に返答することは出来ない。向かい合うことが怖くなったのだ。
「小月……?」
厳めしい宮城の門を通り抜けてからは目まぐるしかった。張包は、上に報告にあがるからと、小月を置いてさっさと奥へ行ってしまった。
入れ違いに入ってきたのは、でっぷりと肥えた男と二人の女。
「明小月様、私は陛下の近侍、黄太監と申します」
黄太監は男子のしるしを切り落とした宦官だという。宮城には宦官が多く仕えているのだそうだ。宦官という存在を、かつて小月は聞いたことはあったが、実際に会ったのは初めてだった。
二人の女性は後宮に仕える女官で、安梅、韓桜と名乗った。親切にも、小月の着替えを手伝ってくれた。いや、手伝う、というのは正しくない。豪奢な刺繍のはいった幾枚もの布の重なり。見るからに高そう。そう思うと、怖くて手が出せなかった。着方もまったくわからない。女官たちに言われるままに手を上げ足を上げ、椅子に座り、動かないように我慢した。
「いかがですか」
手渡された鏡を覗いて、小月は唸った。見たことのない自分がいた。
結上げ髪にいくつもの髪飾り。生まれて初めて化粧を施した顔。
愛嬌がある、と言って言えなくはない女の子。最初の印象はその程度。陽に焼けて荒れた肌は白粉では隠せていない。それでも小月史上、最高に可愛い。鏡の中の小月は溶けた砂糖菓子のように笑った。
「見違えましたな。深窓のご令嬢になられた」
黄太監は目を細めた。小月についてくるようにと言って、先を歩く。
「着替える必要があったのですか」
「あのなりでは天子のお目を汚してしまいます。さあ、まいりましょう。天子がお待ちです」
着替えには別の意味がある。危険物を隠し持っていないか、女官による身体検めを兼ねていたことは小月はこの時まだ知らない。ただ小月は素直に驚いた。たった十五日の旅で行き着いた先は、故郷の村と地続きとは思えない別世界だった。
「お、お待ちください~」
黄太監を置き去りにして宮城の奥へと駆けていく。化粧石で綺麗に舗装された階段を駆け上がり、金魚が泳ぐ池を飛び超え、大きな建物に飛び込んだ。数百人は余裕で入れそうな大きな部屋だった。壁際の蝋燭がずらりと並んでいる。その炎がゆらりと揺れた。
「……小月?」
「誰?」
華美な衣服を身につけた青年が近づいてくる。背が高く、顔貌麗しい。年の頃は小月とあまり変わらない、十六か十七か。
「綺麗になったね、小月。会いたかったよ」
「……もしや、秀英?」
青年はにこりと笑った。とても嬉しそうに。
その眼差しはまぎれもない、小月の記憶に残る秀英のそれだった。懐かしい思い出が胸裡にひろがる。
「そうだよ。今は大毅国第七代皇帝だ」
三年ぶりに会う幼馴染みを認めて、呼吸を忘れた。
「……皇帝……貴方が、私をここに呼んだの?」
「そうだよ。お願いがあってね。私の皇后になってほしい」
「こうごう……?」
秀英は苦笑した。「私と夫婦になってほしいと言ったのだ」
そう言って、天子は手を差し出した。
「私は……」
小月は秀英の手を取った。そして両手で撫で、爪をさする。
「綺麗な手。ほら、秀英、見て。私と全然違う」
「……小月の手は荒れているな。農作業に励んだせいだろう。だが暖かい。私と一緒に後宮で暮らそう。もう畑を耕さなくていい。働く必要はない。一生贅沢な暮らしをさせてあげるよ」
「あ……えと……」
小月は口ごもった。情報の奔流についていけていなかったのだ。
秀英と再会した。皇帝になっていた。しかも皇后になってくれと懇願してきた。
自分は現実の世界にいるのだろうか。
秀英の手を撫でたり揉んだり叩いたりしているのは時間稼ぎだ。やがて撫で返されて、ぎゅっと握られると、ようやく実感がわいてきた。
「……秀英にまた会えるなんて、嬉しいよ」
「頷いてくれ、小月。私には小月が必要なんだ。きみでなければ駄目なんだよ」
秀英の言葉は魔術のようだ。ふわふわと浮かび上がりそうになる。胸の鼓動は耳の奥で銅鑼を叩き続けている。
片手でそっと腿をつねる。痛い。
秀英は小月の両の手を取って向かい合った。秀英の瞳が間近に迫る。
小月は思わず顔をうつむけた。秀英の瞳に、固い意志が見えたからだ。彼は本気だ。安易に返答することは出来ない。向かい合うことが怖くなったのだ。
「小月……?」
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