【中華ファンタジー】天帝の代言人~わけあって屁理屈を申し上げます~

あかいかかぽ

文字の大きさ
35 / 74

第2-21話 落胆の県知事

しおりを挟む
 丁禹の眉根が寄る。方術士に会えないせいか、照勇が必死に説得する姿が見れないせいか、知事は機嫌を損ねているようだ。

「すごい方術士がいるものだな」

 一方、三娘は目を輝かせている。照勇も同じだ。
 世の中には神通力や方術が存在するのだ。他人の運勢を見ることができて、さらに変えることもできるなんて、最強ではないか。
 自分は道士になるべく育てられてきたから、神通力や方術についての知識もそれなりにある。三娘や茶商より詳しいと思う。

 そうだ、武術を学ぶよりも方術を極めるほうが自分には合っているかもしれない。できることなら、その方術士の弟子になりたい。
 そんな夢想を破ったのは駅馬の使者だった。使者が携えた親書に目を通すや、丁禹の顔がくもった。

「ああ……」

 茶商夫妻を追い払うと、照勇を手招いた。

「悪い知らせですか」

 なぜ手招かれたのかわからないまま、照勇は訊ねた。

「最悪の知らせだ。来る予定だった新しい知事が落馬して骨折したそうだ。わたしの転任を取り消すので、次の指示あるまでとどまれとのことだ」

「それがなぜ最悪なのでしょうか?」

 そしてなぜそれを照勇に言うのか。
 左右の胥吏は言葉には出していないが頬を緩めている。丁禹の転任延期を喜んでいるのだ。
 案外と丁禹は好かれている。この地でいい仕事をしてきたのだろう。

「なぜ、だと。転任先は副都だったのだぞ。こうやってうやむやのままに出世の機会が遠のくのだ。わたしはいつもここぞというときに……」

「さきほどの方術士を探し出して運勢を変えてもらってはいかがですか」

 よい助言だと思った。そうすれば自分も方術士に会える。
 三娘も胥吏も乗り気で「そうしましょう」「すぐに捕吏を手配しましょう」と声をあげたが、丁禹は片手で制した。

「興味ない」

「えええ!?」

 丁禹をのぞく全員が声をあげた。

「君子は怪力乱神を語らないのだ。そんなことより五娘、さっき、褒美をやるといったろう」

「ああ、はい」

 たしかに、茶商の告訴を上手く取り下げさせたら褒美をくれると言っていた。知事からの褒美とはなんだろうと思わないでもないが、もう関係のないことという思いもある。

「興味ない、です」

 だから丁禹の陰鬱いんうつな顔を拒否した。この男は、予定したとおりに事が進み、思い通りに人を動かすのが好きなのだ。いや好きというより気が楽なのだ。妓楼でのやり取りを思い出してみても、すべては丁知事の予想の範囲内で事が進んだのだろう。終始すました顔をしていたのだから。
 優秀な知事なのだと思う。だが性格はたわんでいる。褒美をもらえずに悔しがる童女の姿を見てみたいなどと考えているような人間に媚びるのはいやだ。

「惜しい」

 丁禹はぼそりと言った。
 照勇は首を傾げてみせた。何言ってんだこいつ、という意味である。

「身請けしてやろうと思っていたのに」

「うっ……!」

 嘔吐えずきそうになったが、なんとか耐えた。

「はあああ? 童女趣味ロリコンかよ。『正面から見た飛蝗バッタ』みたいな顔をしてるくせに」

 三娘は辛辣だった。照勇は本物の飛蝗を見たことはないが、顔を伏せた胥吏の肩が上下しているところから察するに、そっくりなのだろう。

「誤解だ。心外である。身請けしたあと、わたしの側仕えにして、教育を受けさせてやろうと考えたのだ。妓楼に置いておくのは惜しい。ちょうじても三百代言になるのがせいぜいだろう」

 三百代言とは官と民の間に入り、いいかげんなことを言って金を取るゴロツキのことだ。三百文程度の安い金額で請け負う、安かろう悪かろうの商売。こうすれば罪に問われないだの、ああいえば罪を免れられるなど、依頼人に悪知恵をつける。
 官から見たら厄介なだけの存在だろう。振り返ってみれば、たしかに三百代言の真似事をしたという自覚はある。
 妓楼で弓月をかばったとき、丁禹がすべてを見越していたのだと知らなかったから知事の裁定をげさせる心づもりで対決した。
 だがあれは言いがかりでも暴論でもなかった。
 もたざる者は罠に落とされて食い物にされる。それが当たり前とされて誰もおかしいと思わない。

 照勇は、武器がほしいと心から願った。使い方次第で剣にも盾にもなる、悪知恵という武器が。
 丁禹の申し出は純粋な優しさや親切から出たものではないだろう。だが妓女見習いとして拘束されている童女にとっては願ってもない話であることはたしかだ。

 もしかしたら丁禹は「わたしを利用しろ」と言いたいのかもしれない。試しているのかもしれない。

 照勇が口を開くより、三娘のほうが早かった。

「あのなあ、知事さん。我々は行方不明の兄を探していると言っただろう」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...